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第二章:夜風が運んだ記憶
一年ぶりの夏祭り。
浴衣に袖を通すのも久しぶりで、由香の心はざわついていた。
「行って、どうするの?」
そんな自問自答を振り切るように、夜の人混みを進んでいく。
懐かしい提灯の光、焼きそばの匂い、金魚すくいの子供たちの声。
そして、あの屋台──「風工房 たつや」。
けれど、そこには達也の姿はなかった。
若い男の子が店番をしていて、「今年は、ちょっとだけ遅れてくるって言ってました」と笑う。
由香は、うちわを一つ手に取る。藍色の花火が描かれたそれは、どこかあの頃の記憶に似ていた。