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第一章:風が止まった日
市役所で働く由香は、公務員として穏やかな日々を送りながらも、心のどこかにぽっかり空いた空白を抱えていた。
一年前の夏、個人事業主として屋台を出していた元恋人・達也と別れてしまった。
彼の夢に寄り添いきれなかったこと、自分の安定を優先したこと、すれ違いが続いたこと。どれが原因だったのか、もう分からない。
机の引き出しの奥にしまっていた、あの時の小さなチラシ。
「来年も、同じ場所で、うちわ屋やるよ」
達也が軽く笑って言っていた言葉を思い出し、由香の心にふと風が吹いた。