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カジノの建物は、外から見ただけじゃ何の変哲もない飲食店。

だが、奥に続く廊下の先、隠し扉の向こうは全くの別世界だった。


天井にはシャンデリア、足元は絨毯。

高級感を演出してるつもりなんだろうが、どこかチープで悪趣味な装飾。

呼吸をするたび、タバコと香水と、金の臭いが混ざった空気が鼻にまとわりついてきやがる。


「分かれよう。俺は客に回る。ハルカとメイはディーラー側に入ってくれ。リョウは…監視カメラと警備の配置を調べてくれ」


それぞれが自分の役を理解してうなずく。

みんな変装済みだ。ハルカはスーツ姿で、メイは派手なドレス。

リョウは裏方スタッフの制服を着て、冷静に通信機を確認している。

俺はというと、黒のシャツにダークグレーのジャケット、髪も少しだけカラーで誤魔化してある。


ギャンブルは得意だ。場を読む目と、勘。


最初は普通だった。

ブラックジャック、ポーカー、ルーレット。

テーブルに座るたび、勝ちが続いた。


だが――続きすぎた。


メイのディーラー姿は堂に入っていたし、ハルカは軽やかにカードを配っていた。

リョウからの通信も、「特に異常はない」と報告が入る。

けど、俺の中にある妙なざわめきは、だんだん大きくなっていった。


「おかしい…」


勝ち続けている。

しかも俺だけじゃない。仲間たちのいるテーブルだけ、何かがおかしい。

運がいいを超えて、"都合が良すぎる"。

手に入れた書類の一つ一つが、調査に役立つ重要な情報ばかり。

敵がうっかり落としていったような証拠が、目の前に転がっている。

偶然? いや、これは“導かれている”。


そう思った時にはもう、気配が動いていた。


「支配人を見つけた」

リョウの報告に、全員が合流する。


奥の個室。

それっぽい男が、数人の部下を従えて座っていた。

こちらの顔を見るなり、彼は目を細めたが――次の瞬間にはこちらが先に動いていた。


魔法陣が、メイの足元から浮かび上がり、床を走る。

リョウが背後から物理的に拘束をかけ、ハルカの放った無音の衝撃波が敵を壁に叩きつけた。


俺は男の前に立ち、目を細めた。


「終わりだ。おとなしくしろ」


支配人は黙っていたが、明らかに何かを悟っていた。

俺たちはすぐに知り合いの警察官に連絡し、応援を要請。

カジノ内の人間を拘束し、警官が到着するまでの間を見張ることになった。


空気は静かだった。

警備員たちは気絶、客たちは逃げ出し、スタッフも取り押さえられている。


そんな中、ひとりだけ妙に落ち着いた男がいた。

ディーラー服のまま、壁に背を預けて座っている。


その姿を見た時――胸が締め付けられた。


(まさか…)


俺はその男の前に立った。


「もういいだろ?」


声に、かすかな震えが混じった。

けれど、それは誰にも気づかれていなかったはずだ。


男はゆっくりとこちらを見上げた。

そして、ニヤリと笑う。


「…まあ、そうか」


そう言って、彼は指をパチンと鳴らした。


その瞬間、ハルカ、リョウ、メイ――全員がその場に崩れ落ちる。

眠らされた。まるで深い夢に沈んだように。


「やっと二人きりだな、レン」


男は、立ち上がる。

そして、ゆっくりとマスクに手をかける。

剥がされていく黒い仮面。


目の前の男の顔が、レン自身のそれと重なる。

けれど――瞳は赤い。強くて、切なくて、優しい赤。


「…エン…」


レンの声はかすれていた。

ようやく見つけた。

けれど、どうしてこんなところに――。


エンは微笑んだ。


「待たせたな、相棒」


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