Have you changed or not ?
このヨコハマと同じで、変わったのは見た目だけなのかしら?
そんな疑念をもって、まるで別人のような『元夫』をみる。
今の彼は愛想がよいうえに気が利く。昔の無愛想な彼を知っている人間からすれば信じられないほどである。
「みなさま、そろそろお疲れではありませんか?この先のレストランで、早めのディナーなのいかがでしょうか?」
なんか腹立つなあ。
結婚時代、ひばりは彼から外食に誘われたことなんかない。10年ぶりにこのような形で、グループでだが食事に誘われるとは。
「外務省から皆さんにお会いしたいという人間たちも来ておりますので、ぜひご一緒に」
ああ、そうゆうことか。
久邇はさりげなく会食のセッティングをしたのだ。
「彼、有能ね」
イザベラが言葉をこぼした。
久邇は食事の邪魔にならない程度に、日本の政府高官たちとアメリカ高官たちの通訳をしている。
「前に出過ぎず、簡潔に要点をまとめた話を翻訳して伝えてるのがわかるわ。通訳だけじゃなく、外交官としても仕事ができる人間ね」
アメリカ公使の妻イザベラが彼を褒めた。
ひばりは全く面白くない。おもわず皮肉めいた言葉が出る。
「そうね、あの元だんなのせいで、私の出番がさっぱりないわ」
「仕方ないわよ、ヒバリ。あなた、10年もこの国にいなかったんですもの。彼ほど日本の現状を理解して説明できないでしょう?」
「そうだけど……でも私は、もうちょっと日本側から注目されてもいいような気がするんだけど?」
いまのところ、日本人の誰もひばりを気にする者はいない。
『元夫』もふくめて無視である。
それもなんだかくやしいような。
ここで親友の気持ちをさっしたのか、イザベラがとんでもないことを言い出した。
「ミスタークサカ。ひとつ、質問してもいいかしら?」
「なんなりと、ミセス・イザベラ」
イタズラっぽい笑みをうかべるイザベラ。
ひばりはイヤな予感がした。
「実はここにいる私の親友ヒバリは日本人なのだけど、彼女、あなたとは10年前に夫婦だったと聞いたわ。昔の妻に再会してどんな気持ちか、教えてくれない?」
なんてことを聞いてくれてるんだ。
アメリカ人だけでなく、日本人までこちらをみている。
ひばりが欲しかった注目はこんなのじゃない。
「Well……」
ひばりはなんとかごまかして、会話をずらしてしまおうとした。
「イザベラ、そんなことにみなさま興味ないわ。あちらにだってご迷惑よ」
ねぇ?と無理やりに作った笑みを元夫に向ける。
どんな反応をされるか内心ドキドキとしている。
彼のことだから、冷たく返されるんじゃないかとおもってた。
しかし意外にもあちらは、笑みを返してきた。
「いいえ、迷惑など思いませんよ」
「え?」
「ミセス・イザベラ。お答えとしては、なつかしいのひとことにつきます」
久邇が英語で話しかけてくる。
「結婚したとき、あなたは13歳で自分は15歳。よくある武家の、親に決められた形だけの夫婦だった。だからでしょうね。あなたとの夫婦生活は、ままごと遊びの延長のようだった」
ひばりの笑みがひきつった。
「ままごと、ですか?」
でも、と拳をにぎりしめるひばり。
「私は、武士の妻らしくあろうと頑張ったんですけどね?」
あの頃のひばりは、幼いなりに一生懸命、貞淑で従順な妻をつとめたつもりだった。
だが久邇にとってはちがうように見えていたらしい。
「はい。父親の期待に応えようとするあなたは、立派な武士の娘でしたよ。自分も夫という貴重な経験ができました」
たしかに父のためもあったが、あなたの為でもあったんですけど?
そんな出かかった日本語を飲み込み、ひばりは英語で返す。
「そ、そうですね。こちらも妻という、貴重で、二度としたくない経験をさせていただきました」
ひばりはほほ笑みながらさりげなく嫌味をこめた。
しかし、あちらには伝わらなかった。
「人生において経験とは重要ですからね」
きれいなほほ笑みをうかべ続ける久邇。
もうちょっと怖いくらいだ。
「今後の人生の参考にしてください」
「ほ、ほほほ、ではそうさせていただきます」
ひばりはあらためておもった。
あー、やっぱりこの男キライだわ。




