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告白

翌日の夜、久邇が身支度をして出てきた。

ひばりは彼の前に立ちはだかる。


「佐賀へ行ってはいけません」


眉をひそめる久邇にひばりは意を決して説得にかかった。


「副島さまもおっしゃられてたように今、佐賀へ行くのは火薬庫に飛び込むようなものです。危険すぎます」

「…俺は佐賀の人間じゃないんだ。戦には参加しない」

「そうあなたさまが思っていても、戦というのは周りの人間全てを巻き込むのです。それは前回の戦に行かれたあなたさま自身が、いちばんよく理解しているのではありませんか?もしかしたら、現地で反乱の鎮圧側としてかり出されるかもしれませんよ?」

「俺は外務省の人間だ。軍人じゃない」

「それでも政府側の人間だと知られたら、反政府の人間に何をされるかわかりませんよ?」

「元司法卿で佐賀の人間である江藤先生と一緒にいるんだ。大丈夫とまではいかなくとも、滅多な目にはあわんだろ」


ひばりをよけて、玄関へ向かう久邇。


「父上のときを忘れたのですか!?」


久邇の足がとまり、必死になってひばりはまとわりつくように話す。


「父上も役人が迎えに来たとき、大丈夫だとおっしゃってました。自分は幕臣だから、滅多な目にはあわないだろうって」


ひばりの中で最後に見た父の姿が久邇と重なる。


「なのに結局は投獄されて拷問にあい、そして切腹になったんですよ!?」

「そうして先生自身が罪をかぶることによって、おまえと俺、そのほかに関係した人間を守ったんだ」

「わかっています!でもだからって、弟子のあなたも同じことをしなくてもいいではありませんか。久邇さまが行ったところで、佐賀の状況は変わるとはおもえません」

「それでも江藤先生と副島さんの役には立てる」


久邇が玄関までいき、置いてあった刀を手にした。

どこか覚悟を決めた彼の顔をみて、ひばりは胸の奥が冷える気がした。


「どうしても行くのですか?」

「受けた恩義は返す。武士の性分だ」


ふっと力の抜けたような笑みをうかべた久邇。


「武士の娘ならわかるだろ?」


ひばりは言葉がつまり胸が苦しくなる。

彼の言葉の意味がわかりたくないのにわかってしまう。


「この家はおまえにやる。好きに使え。勉強部屋の本も全部おまえにやる。俺の持ち物もぜんぶ好きにしろ」


ひばりはぼう然とつぶやく。


「帰ってくるつもり、ないのですか?」

「生きてれば帰ってくるさ。ただ、それがいつになるかはわからないだけだ」


玄関に立った久邇。

ひばりの顔をじっと見る姿は、まるでこれで見納めだといっているようであった。


「おい、笑え。そんな泣きそうな顔をするな」

「無茶なこと、いわないでください」

「ここで俺にみせる最後の顔がそれでおまえはいいのか?まぁ、俺はどっちでもいいか……」


ひばりは悟った。

もうどんな言葉を重ねようと彼を引き留められない。

そして自分はここにきて彼を失うことが恐ろしくてたまらなくなっている。

けれど自分は武士の娘だ。彼の誇りのためにも、見苦しいことをしてはならない。


「ひばり?」


武士の妻がするように、ひばりは膝をつき指をついて頭を深く下げた。


「ご武運をお祈りしております」


ふたたび頭をあげたひばりの顔には笑みがうかんでいた。しかし、目には涙がたまっている。


「私はこの家で久邇さまのお帰りをずっと待っています。ずっと、ずっと、何年でも、一人でお待ちしています」


流れる涙をみられたくなく、また頭をさげたひばり。


「ありがとう」


その言葉にハッとして顔をあげると、そこに久邇はいなかった。


「久邇さま……!」


久邇の姿を探し、外に飛び出るひばり。

遠ざかっていく彼の背をみつけたとき、おもわわず叫びだしていた。


「お慕いしております……っ!だから、お願いだから帰ってきて……!」


ひばりはその場で泣き崩れた。

声を押し殺して泣きながら、どうして自分は武士の娘なのか、どうして自分は帰国子女になってしまったのかと自問自答する。

武士の娘でなければ自分は彼を追いすがってでも止めたのに。

帰国子女にならなければ自分はこんなふうに彼を想うことはなかったのに。

ひばりは自分は愚かであったと責めた。

そして、自分は彼に恋をするただの女だったのだと認めるしかなかった。

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