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遺書

拝啓 ひばり殿へ

この手紙をあなたが読むとき、自分はこの世にいないでしょう。

だから、死人の戯言とおもい慈悲の心をもってお読みくださることを願います。


いま、自分は北国で新政府軍と戦っております。

この頃は雪も多く、とても寒いです。

だからか最近は昔のことをよく思い出します。

小鷹先生とあなたと過ごした日々。

先生とともに学び、あなたと競い合い、ときには言い争って、そして笑って食事をした。

自分の人生の中で一番あたたかで幸福な時間でした。

あの愛おしい日々を与えてくれた先生とあなたには感謝しかありません。


あなたにとって自分は色々と至らぬ夫であったでしょう。

小鷹先生にお世話になっておきながら、未熟で力がないばかりに、先生を救えず、あなたを守れず、不甲斐ない男でした。悔いるばかりですが、謝ってしまえばそれで許してくれといっているようなものしょう。それは自分の本意ではありません。

けれど、最後の最後にあなたへ正しいことをしてあげられたと思っております。


離縁についてです。

あれは小鷹先生の遺言でした。

先生は、あなたがあのまま日本にいては不幸になるとおっしゃられていました。

一生父親のことで世間からいやな目にあわされ、夫と婚家にも縛られ、不憫な一生を送るであろうと。

しかし、外国でならばあなたはその素晴らしい学問の才を生かし、幸福の道を歩める。

自分もそう思いました。

あなたは自由に羽ばたける『ひばり』でなければならない。

あの離縁は自分があなたを幸せにしてあげられる唯一の道だったとおもっています。

後悔はありません。


戦いは日に日に厳しさが増し、味方は減っております。

おそらく幕府はこの戦いに負けるでしょう。

新政府軍は最新式のライフルを大量に持っているのです。

小鷹先生がおっしゃられた『西洋嫌いのキチガイども』が、西洋人と手をとって幕府を倒すとは、なんとも言い難い悔しさを感じます。

しかし、先生の弟子として最後まで恥じぬ生き方をしたいとおもいます。


最後に。

あなたさまの健やかなる人生と多くの幸福を祈っております。

                                久邇

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