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第35話 協力

 扉から出て、先ほど歩いたのとは違う通路から外へ出ると、王太子宮の前の庭には、騎士たちがびっしりと集まっていた。


「奥方様、ご無事ですか!?」


 かけられてくる声にびっくりしてしまう。


「え、ええ……皆さんはどうして……」


「元帥閣下が、奥方様が王太子宮に連れていかれたと青い顔で話されていて……。すぐに動かせるだけの騎士たちを、王太子宮に集めろということだったので、駆けつけられる者が全員来たのです!」


「全員って……」


 話はわかったが、それはこの王宮に勤めている騎士たちで、どうしても手の離せない者以外は全員というような人数ではないだろうか。


 王太子宮の前にある本来は広い庭を埋め尽くすようにして、騎士たちがこの入り口を取り巻いている。きっと、状況次第では、すぐに踏み込めるようにしていたのだろう。


「元帥閣下、奥方様はご無事ですか!?」


 そう尋ねてくるのは、イサギレ将軍の夜会で、敬礼の挨拶を交わしたことのある相手だ。


「あら、たしかこの間の夜会でお会いした――」


「覚えていてくださって光栄です! あの日、ご挨拶をした奥方様が、王太子宮に連れ去られたと伺い、すぐに仲間を連れて駆けつけました!」


 見れば、周囲にはあの日の夜会で挨拶を交わした武門派の者たちが何人もいる。


「奥方様、ご無事でよかったです!」


 そう敬礼しながら声をかけてきてくれるのは、先日の将官との合同訓練で見た騎士たちだ。


「みんな、助けに来てくれたの……?」


「君が、武門派で生きていくという決意は、あの日の訓練に参加した騎士たちから、みんなに伝わっていたらしい。君が、あの王子に連れて行かれたので、騎士たちを集めるようにホールで待っていた護衛たちに伝えたら、みんな武器を持ってここに駆けつけてきてくれたんだ」


 さすがに最初に押し入るのは俺の手勢にしたが――、とラウルは話すが、状況によっては、そのままここにいるみんなを踏み込ませるつもりだったのに違いない。


 見れば、みんなの手には剣や槍、さらには弓まで携えて、このまま王太子宮に突入できそうな装備だ。


「みんな……」


 エリシアを武門派と認めてくれたのだ。無事に出てきた姿を見て、騎士たちがみんな喜んでくれている。


 きっと、これから武門派の中で不安になることがあっても、今日を思い出せば生きていけるだろう。


 ――頑張れば、きっと受け入れてもらえると。


 その光景を見て、うしろにいたエリシアの父が、ラウルへと体を向けた。


「派閥の違う出身の娘を、ここまで大切に受け入れてくれたこと――父として、レオディネロ公爵閣下には深くお礼を申し上げます」


 そう言うと、深々と父は頭を下げている。


 敵対している文官派の頂点である宰相が、武門派の頂点である元帥に頭を下げたのだ。


 一瞬、騎士たちは驚いたように父の姿を見つめた。


 その前で、頭を上げた父は、ラウルへと手を差し出す。


「そのうえで、これからはレオディネロ公爵閣下にもご協力を願いたいことがあると思います。お互いの派閥の問題はありますが、今後は手を携えて、この国の改革に乗り出していこうではありませんか」


 それは、遠回しながらも、乱れきった王家に対する処断への協力の要請だ。


「手始めに――まずは、あの王太子殿下の廃嫡から。この件だけは私は許すつもりはありません」


「もちろん、俺もだ」


 二人が手を握り合った姿に、周りが驚いている。


「散々俺の妻を傷つけた。さらには、武門派を侮るような行為まで……! 自分に尽くしている者たちを裏切ればどうなるのか、骨身に沁みてわからせてやろうではないか」


 その光景にエリシアも目を見張った。


(これは、物語の中のあの場面だわ……!)


 本も予想していなかったのかもしれない。だが、たしかに今物語は、本来の流れに戻って大きく進んだのだ。


 本の中では、この場面は、エリシアがラウルに殺されて、文官派が武門派を散々憎んだ後に、王家のせいだったと知り訪れる展開だった。


 だが、その間のエピソードは今回の一件ですべて飛ばし、武門派と文官派が互いに手を差し伸べ合うシーンまで話が進んだのだ。


(あら、では?)


 ここまで物語が進めば、もうエリシアの役割は終わったはずだ。ラウルに王家への反旗を翻させるという役目も終わり、文官派が武門派と争う理由もなくなった。


(では……、もうエリシアは生きていても大丈夫になったの?)


 ここまでくれば、物語はもう王家との戦いに進んでいくはず。


(それならば……もう、ラウルと生きていっても大丈夫なのね?)


 本の中での、エリシアの死が必要な場面は終わった。ここからは物語の筋さえ邪魔しなければ、自由に生きていってもいいはずだ。


 だから、ラウルの腕を両手で握った。


「私も協力するわ! これ以上、私を利用されたくはないもの」


 それはエリシアの存在を――ということだったが、きっとラウルと父には、フェルナン王子に利用されたくないと聞こえたのだろう。


「ああ、二度とエリシアを利用しようなどとは考えられないように、あの王子には相応の報いを受けてもらうつもりだ」


「私も、国を支える宰相として、あの王子だけは許すつもりはありません」


 どうやら、今回のことで最強のタッグが生まれたようだ。


 きっとフェルナン王子は、どうやっても廃嫡の道から逃れることはできないだろう。


 その光景に驚いていた周囲も、「協力いたします!」「あの王子に制裁を!」と拳を振り上げながら叫んでいる。


 きっと、この流れはもう止めることができない。


 ラウルが王になる道が始まる。それを感じながら、エリシアは手を取り合った父とラウルの姿を見つめた。



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