オリヴィアとヴァレリア
「お母さま?」
身の丈の2倍はあろうかという開かれた扉の向こう、それほど大きくない長テーブルの端。普段母が座る位置に居なかった。例によって祖母は奥の席で何か飲んでいた。
王族の城塞があるこのラピスフォードの地域は朝がとても静かであり、日陰を作る構造物もない。だから、天井まで伸びる窓から目一杯の朝日をこの食堂に取り込むことができるのだ。それに控えめな金の装飾が施された、壁や家具、窓の外の緑がより一層朝の明るさを際立出せている。
祖母が気付き「あら、おはようオリヴィア」、私もそれに返す。
私は、母の隣の席に座り、いつもの機械用電解液と味覚調整用に用意された人間用の食事を口にする。人間用はわずかでいい。単なるデータのリファレンス調整でしかない。
母は急ぎ足で、食堂に入ってきた。少し身支度を整えた感じの装いだ。
「私も朝ごはん、ドリンク1杯にしようかしら」母は言った。
すかさず祖母は「だめよ」
「前にそれで議会の最中に気絶したのはどこのだれかしらね」祖母は紙媒体の情報を横目に母にちくりと言葉を投げかける。
「お母さま、出発は午前8時かと、早すぎるのでは」
「白球に行くのに遅すぎるもなにもないわ、あなたも早くして頂戴」
白球—ホワイトスフィア、中央府、呼び名は様々だが、その場所は中央政府機関であり、研究機関であり、外交の場(銀河間の大型行商も含まれる)でもある。大きさはさして大きくない国1つほど、表面は白くくすんだ荒野のような見た目をしているが、転送装置から一旦内部へ入ってしまえば驚くだろう。球体の内側に向かって層になっており、反重力装置によって、場合によってはさかさまのまま歩けるのだ。もっとも空に浮かぶ物体はそれだけではないのだが。
そうして、母は緊急の会合に議事堂へ、一方私は機体の定期点検と、自身の中枢アルゴリズムの検査で、研究機関に出向くこととなっていた。1週間、護衛付きで。
支度を終えて、石柱の支えられる広い玄関口の外で護衛を待つ。メイド長や執事、それに使用人の何人かも隣に並び立っていた。荷物を運びこむために。他にも、何人かの警備が配置について何やら無線でやり取りしていた。しばらくして、木洩れ日が差す敷地内の森の奥から、黒く大型の装甲車列が現れた。それも何台も。それらは、玄関口へと続くカーブを描いた道をあっという間に埋めてしまった。
車両が位置につくや否や、ドアが一斉に空き、それぞれが警護、監視にあたりだす。中央車両の運転席から女性が下りてきて、サングラスを外しながら真っすぐこちらに握手を求めによって来た。彼女はアーマーにハンドガンを携え、いかにも軍人の出で立ちだが、これでも彼女は魔女のライセンスを持っているのだ。
「初めまして、オリヴィア王女、私はヴァレリア」