プロローグ
「私を覚えてる?」
問いかけられた女は、満天の星空の元、砂漠の風に仰向けに倒れ、半ば埋もれていた。
女はその問いかけに目を覚ます。
ゆっくりと体を起こす動作が、突き刺すような風によって砂を払っていく。
声が聞こえた方向を見やると、星空を覆いつくすほどの巨大な人影が、地平線から上半身だけ覗かせて、まるで星を腰掛にでもするように鎮座していた。
月明りで照らされた人影は、自分の顔と瓜二つ。
そして、ふとその目を覗きこむと人のそれではなく、機械であると直感した。出で立ちは、夜空で見えにくいものの、金と群青色をした、露出の少ない礼装のドレスを着こんでいた。
女は声を出そうとした。だが、出せなかった。
意識と行動が乖離するこの感覚で、女はこれが夢だと悟る。
「案内してあげる」
気付くと宙に人影はなく、隣に先ほどの機械が同じ背丈で隣に立っていた。
球体がはめ込まれた関節の指が、そっと手を取り、そして砂丘の向こう側、火の明かりを指さす。明かりはきっと地表のものだろうか。夜空を揺らめくように照らしている。
機械は、ドレスの裾を片手で持ち上げながら、私を砂丘の向こうへ案内した。
砂を踏みしめる度、砂が鈍く赤く地の底、内側から光る。まるで残火の残る灰のように。
そうして砂丘を越えた先は、墓所だった。
見下ろした先、あたり一面、十字の墓標が、整然と並び、遠くの火の明かりが、墓所に無数の十字の影を作り出している。どれも同じ形をしていた。(これは・・知っている人達?)
すこし奥に教会が見えた。機械は教会を指さす。
教会へは一本道が続いており、手を引かれながら、教会に踏み入る。
よくあるアーチ型の天井、木製の長椅子、そして左右のアーチ窓、正面のステンドグラス。
一つ違うのは、正面に祀られる像の顔が隣の彼女と同じだったこと。
機械は跪き、祈りを捧げる。
「祈りましょう、破滅のその時まで」
「断る」
女はそれだけは言えた。はっきりと。
彼女はそこで目を覚ました。
飛び起きるようにベッドから上半身を起こした。冷や汗が体にまとわりつく。
服の散らかった部屋と、好きな映画のポスターが目に入り、ここが現実であると安堵する。
下の階で両親が揉めている。どこかで犬の夜泣きが月夜に響く。虫のさえずりも。
月明りが窓からベットに差し込み、枕元を照らしている。
(のどが渇いた、水を取りに行かなきゃ)。階段を降りた先のリビング、ドアの隙間から光が漏れていた。そっとドアを開けて呼びかける。