ナダル
私の名前はヴィック・サンダース。
レムール大陸の北西部にあるナダル村の郷士である。
なんの変哲もない小さな村の郷士として、目立たず平凡な人生を送るはずだった私は、妻のエリザベスが最初の子を授かったあの日から、少し平凡でない人生を送る事になった。
妊娠した妻の夢に神が現れ、お腹の子が将来的魔王と戦う定めにある事。その証として生まれてきた子供には体のどこかに紋章があることを伝えられた。
生まれた子供は男の子で、確かに右肩に真ん中が上に曲がった三本線の紋章があった。
子供は言葉が少し早いくらいで、特に変わったところも無く普通に育っていった。
親として何かできる事は無いかと考えたが、前例も言い伝えも無く何をして良いかわからない。
とりあえず、5歳になったので剣を教え始めた。
戦うのであれば、剣技が必要であろうとの考えからだ。
才能があるのか、将来魔王と戦うような子は特別なのか、8歳になる頃には全く敵わなくなった。
剣技には少し自信があったのだか、歯が立たない。
力押しにしようと考えても、かすりもしない。
時々、引き分けにしてくれるがありがたいより情け無い。
10歳頃から、訓練とか修行と称して出かける事が多くなった。数日家を空けて行方の知らない息子を、親としては心配するべきなのだろうが、更に強くなった息子に並大抵の者や魔物が何かできるとはとても思えない。
最近では、完全に私の理解の範疇を超えてしまっている。
時々、お土産と称して持ってくる異国の奇異な産物は
どこでどう手に入れたのか?
去年、夏が短かったため小麦が不足した時、何かに使ってくれた渡された袋いっぱいの帝国金貨と、突然納屋に出現した大量の小麦の袋はどこからきたのか?
話をしていても、子供というよりは私たち同世代か、
上の人間と話しているような気がしてきて、つい敬語を使いそうになってしまうのは何故なのか?
田舎の郷士がいくら想像力を働かせても、全くわからない。
私はヴィック・サンダース。将来魔王と戦うらしい息子を陰ながら応援している父親である。