幼少期
5年が経ち、俺は5歳になった。
この5年間よく食べて、よく遊び、知識の吸収に努めた。
体は幼児、頭脳は大人では出来る事に限界がある。
まず俺の名はジッパー・サンダース。
父はナダル村の郷士ヴィック・サンダース。
母はエリザベス、3年前弟クリスが生まれた。
目と髪の毛はブラウン。とくべつ目立つ特徴は無い。
この星はほとんどが海で、そこにレムール大陸とその下にそれより小さな、魔大陸と言われている2つの大陸が存在する。
俺のいるナザル村はレムール大陸の北西部の西方小国家群と呼ばれる地域に存在する。
文明レベルは電気は無く、燃料は薪と木炭。
一部で石炭なども使われている。
概ね地球の中世レベルか?
王国やら帝国が存在し大陸を分け合っている。
帆船などもあるらしいが、今の所、大陸が二つ近い位置にあるだけなので遠洋航海などは発達していないようだ。
この世界が地球と一番違うのは、魔素が存在し
魔法が使える事。
また、魔物が存在し、魔王を戴く魔族と人間族が
対立状態にある事。
魔王と人間族の勇者が何度も戦い、勝ったり負けたりを
繰り返しているらしい。
言葉は大体世界共通。信仰は唯一神ガーマを信仰しているものが多いが、地球の中世のように教会が王権を超える大きな力を持っているわけでは無いらしい。
小さな村では、得られる情報は少なかったが、俺は文字を覚えて、家にある本を読み、博物学者でもあった村の教会の神父様の所に行き教えを乞うた。
神父様が持っていた沢山の本を読み、科学知識を教えてもらった。
幸い転生後の方が頭が良かったらしいのと、前の知識があり理解力が大人なので、1年位でこの村で学べる事は学び尽くしてしまった。
魔法については、子供には危険であるという事で教えてはもらえなかったが、観えると言うか、周りに感じられる魔素の流れを操作してそれを物質に作用させる事により発動させるらしいという事は本の知識から理解できた。
俺の5歳の誕生日に、父と母から言っておかねばならない事があると言われて勇者と魔王の話をされた。
この世界には魔王が存在し、魔王は古くから人間界を滅ぼそうとしている。
そして人間には勇者が生まれ、勇者とその仲間達は魔王と戦ってきた。
魔王は滅ぼしても、時間が経つと復活し、そしてまた勇者と仲間達が現れる。
時には勇者が負けることもあるが、魔王が完全に世界を支配する前に新たな勇者達が現れて、今の所人間界と魔王界の均衡は保たれている。
お前が生まれた時、母様の夢に神が現れ
「お前の息子は将来勇者と共に、魔王と戦う運命にある。その時のために心して育てよ」
と言うお告げがあった。
お前の右肩の痣はその証の紋章なのだ。
5歳になった今日からは、来るべき日のためにおまえ
に武技を学ばせ、鍛えなければならない。
強くならねばお前だけでなく、世界に破滅がもたらされるかもしれないのだ。
正直、世界の事には興味がないのだが、せっかく
転生したのにまた死ぬのは嫌なので真面目に学ぶ事にした。
父のヴィックは騎士団にいた事もあるとかで最初は自分が教えて、もう少し体が大きくなったら俺の適性を見てちゃんとした師匠をつけるらしい。
さて、修行を始める事になった俺だが、両親や周りに隠している事がいくつかある。
まず、転生前の記憶や知識がある事。
魔王と戦う為に神がサービスしてくれたのか、身体が柔らかく通常の人間より筋力が優れている事。
5歳児の今のレベルでも、具体的に自分の身長の5倍位なら助走なしに飛びあがれるし、横にも飛べる。
動態視力も反射神経も、この世界には無いが、
拳銃弾位なら完全に避けられるレベル。
真っ暗な夜でもよく見えるし、耳も嗅覚もおそらく犬より良いと思われる。
なんで黙っていたかって?
だって俺は知っている
人間社会では異質なものは排除されやすいのは知ってるし、魔法があって魔物のあるような世界で、肩に変な痣があって人間離れしていたら、魔物認定されて退治されかねないくらいの事は当然考えるさ。
で、王道の剣の修行から始めたのだが、今俺が夢中になってるのは魔法。
神父様に魔王と戦うための修行を始めたことを報告したら、
「魔素と魔法・その原理と実践」という分厚い本をいただいた。
神父様も長い間持っていたが、内容はその一部しか理解できず、実践に至ってはほとんど無理と言う難解本だそうだ。
完璧に理解、実践できれば大魔術師も夢では無いという
100年くらい前に書かれた本らしい。
著者は不世出の大魔術師ルイ・カザール
無から有を生み出し、無機物に生命を与える事ができたとも言われている。
確かに「精神生命エネルギーの素子たる魔素の波動を、
精神エネルギーにより変えて物質の波動に影響を与えて云々。
全ての大元は波動なのだ」
とか書かれていても中々理解し難いのではあるが、
魔素の流れを観れると言うか、感じられる俺は
内容を徐々に理解して行く事は可能であった。
今日も早朝より父様から剣を習い、少しずつ上達するふりをして、お前は才能があるとか褒められて剣技は終了。
基本的な剣の使い方は、1ヶ月程度で覚えてしまったし、
父様の剣技のスピードでは遅すぎて正直練習にはならない。
昼食をとって森の奥の空き地へ移動。
周囲に誰もいないのを確認して、全身に重りを装着して剣舞を1時間。
その後は魔法の練習だ。
魔素の波動で物質の波動に影響を与えて熱を生み出したり、熱を奪ったり。
波動を大きくして風のプレッシャーを与えて相手を吹き飛ばしたり、局所的な真空を作って切り裂いたり。
前世には無かったものだけに、これは楽しい。
ましてや自分が死なないための修行なのだ嫌になるわけが無い。
俺は飽きる事なく魔法を試して、効率よく使えるように練習した。