剣客2
結局、俺はテラモト先生に弟子入りする事になった。
大陸の地図はほぼできたものの、トルネン商会の事とか色々あるので、常に師に仕えるている事ができず、大体一緒に行動しながら教えてもらうという、申し訳ない弟子である。
「気にするでない。主がいるおかげで迷わずにすんでおる。それだけでも大変役にたっておる」
そうなのだ。テラモト師匠、天才的な方向音痴なのである。御者のいる馬車にでもならない限り、街道を歩いていても、目的地に着かない。
それをあまり気にしないから、一向に治らず、雲のように風まかせで大陸をあっちへ行ったり、こっちへ行ったら……
はぐれると、探すのが大変なので、申し訳ないがマーカーをつけさせてもらった。何かを持たせたりする訳ではない。俺の意識に存在を同調させておけば、大陸内にいる限り見失う事は無い。
また、使う気は無いようだが、魔力持ちであったので、収納袋の中に、食べ物や酒、水、薬、金貨、毛布などを入れた小さな小屋をしまって、持っていてもらった。
少なくともこれで、飢えてオークやゴブリンに喰われそうになることは無い。弟子としては安心である。
剣士としては超一流。そのほかの事には関心が薄く、
生活能力はかなり低い。
「物には切ったり割ったりしやすい方向がある。
それを見極めろ」
「魔獣も野獣も関節のある物はそこを切る。刃が傷まず、刃のスピードも、落ちにくい」
「刃で打ち合うのは剣が折れたり曲がったりするから絶対駄目。何度もやってるとある日突然折れる」
打ち合うなら鋼の棒が良いそうだ。多人数相手の時も棒なら刃こぼれしないし、血脂でからなくなる事もない。鎧を着てても、兜をかぶってても、上から思いっきり叩けば相手は戦闘不能になるとの事。
では何故、師が棒でなく刀( 師の獲物は、反りのある片刃の日本刀である)を持っているかと言うと、棒では手加減が難しいからだそうだ。
相手が強い場合、腕や脚を切り飛ばせば戦闘力を奪えるが、棒だと叩いて骨を折っても、戦えるやつはたくさんいる。
人間相手に鋼の棒で、一瞬で戦闘力を奪えるレベルの攻撃をすると、殺してしまう事も多いのだ。かと言って樫の棒では魔物と出会った時などに役に立たない。
剣の修行は、髪の毛一本の剣筋の差を意識して振り抜くこと、相手の攻撃を髪の毛一本の差でかわすこと、切りたい分だけ剣を振る事、一つの攻撃から次の攻撃につなげるときの流れをスムーズにする事を徹底的に指導された。
指導は厳しい物であったがとても楽しかった。稽古とは言え、手加減しないで戦える相手は過去何年もいなかったのだ。
半年も経った頃、師から
「カクメイ流には一子相伝の技がいくつかある。ワシには子が無い故、主に伝えよう」
「これらの技は裏カクメイ流とも言うべき物で、剣の素質とこころの素質の両方揃わない者には伝えられない技なのじゃ。心して学ぶが良い」
それは、剣技とはあまり関係無い、格闘技、特に素手で人を壊す方法、暗器の使い方、忍び込みの技や毒の飼い方を始めとする暗殺の方法、効果的な拷問の方法など確かに、おおっぴらに人に伝えられるものではない。
そして、俺には適性がある。