剣客
「わしはテラモト・ヤマト。カクメイ流の剣の修行者じゃ。武者修行と言いたいところだが、目的もなく大陸をさすらう言うなれば大陸浪人じゃよ」
「3日も飲まず食わずのところを、オークに襲われた。
ハラが減って力が入らなくて、危うく喰われるところじゃった。ありがとうよ」
「3日も食べずにいて、いきなりたくさん食べると吐きますよ」
「なんの、わしは生まれてこのかた、嘘と食べた物は吐いた事がない。悪いが、もう少し肉と酒を持ってないかのう?」
そろそろ初老だろうにすごい食欲だ。
「まだまだありますからお好きなだけどうぞ」
空気が湿り、雨の匂いがしてきた。
「ひと雨降るかもしれません。続きは、家の中でどうぞ」
俺は人前で自分の能力をさらけ出すのは極力避けている。
だが、この御仁は悪い人間では無さそうだ。トルネンさんと一緒で、信用できる。俺は人を見分ける能力には自信がある。
それにこの剣の先生、どこか憎めない。
亜空間収納から小さな小屋を取り出す。
テントではない。小屋だ。どうせ収納するならどちらでも変わらないし、テントだと組み立てたり、解体したりがめんどくさい。雨風や寒さを防ぐにも小屋の方が優れている。中で火もたけるし、魔獣や野獣に襲われる心配も少ない。
究極のワンタッチテント、動かないキャンピングカーである。
どうせ亜空間に収納するので、屋敷でも持ち歩けるのだが、掃除やメンテナンスもしなければならない。
あまり大きな物は展開する場所も選ぶ。
色々考えた結果の小屋なのである。
テラモト先生、ちょっとびっくりしたようだが、原野に突然俺が現れた事とか、小さなカバンから食料がたくさん出てきたりとか、突っ込み所は沢山ある。
素直に受け入れて小屋の中に入ってきた。
テラモト先生はカクメイ流剣術の免許皆伝。もう20年以上大陸をまわりながら、剣の腕を磨いているらしい。
気に入ったところがあれば、その地の道場の雇われ師範として暫く滞在したりする事もあるとか。
天涯孤独の独り者なので、いずれ旅の空の下で朽ち果てるまで放浪するのだそうだ。
俺も、いずれ勇者と共に魔王と戦わなければならないので武者修行中の身だと言った。
次の日の朝、起きていつもの軽い運動と素振りをしていると、それをていたテラモト先生が話しかけたきた。
「ジップ君、君の剣はもの凄く迅い。多分ほとんどの者は君の剣を見る事も無く斬られるだろう」
「わしもその剣に魔法をのせられたら、相手になるかどうか……」
「ただ、剣だけの技術で言えば、僅かに正確さに欠ける。迅すぎる事が全ての欠点を隠してしまっているが、
魔法が使えない状態、相手の防御強力であった場合だと
その僅かが命取りになる」
「それでも、歳を考えるととんでもない腕ではあるがのう。10年もすれば完成された剣になるだろうが、それまで魔王が待ってくれるかわかるまい」
「どれ、少し手直しをしてやろう。君はどの腕なら、真剣でやる方が良かろう」
腹の減ってないテラモト先生は、恐ろしく強かった。