世界樹
レムール大陸の北方の、ノルランド公国の宮殿の図書室に忍び込んで資料漁りをしていた俺は、面白い伝承を見つけた。
ノルランドの更に北に、とんでもなく寒い永久氷土の島がある。
周りの海と共に凍りついたその島は垂直な絶壁に守られており、その高台の上には紫色の葉を持つ大樹が生えている。その名を世界樹。
その足元からは大量の魔素が噴き出しており、そのせいで世界樹の葉は魔素が高密度に凝縮したものになっている。
世界樹の葉はあらゆる傷や怪我を瞬時に治し、時には欠損した手足も再生する。それどころか、死んですぐなら命すら蘇らせるという。
寿命すら伸ばすという話もある。
ただ、世界樹の周りは高密度の魔素嵐が吹き荒れており、そこに入ると人間や、まさに強気魔族ですらも別の何かに変質してしまうと言われている。
たまたま、嵐に飛ばされて海に落ちた世界樹の葉を拾ったものは幸運で有る。それ一枚で巨万の富を得ることができるだろう。
与太話の可能性も高いと思うが、なんといっても魔素や魔法の存在するファンタジー世界の世界樹。
お約束である。
回復魔法の使えない俺にとっては、魔王と戦う時
世界樹の葉が有るのと無いのでは天と地ほども違う。
これは探してみる価値がある。空間魔法の使える俺にとっては、極寒の地での活動も可能だ。
念のため分厚い防寒着を着用。北に向かって転移する。
俺の周りの空間を真空の空間で覆って外部と遮断。
音は聞こえなくなるが、温度も伝わらない。
それならの広さの空間を確保すれば顧客も問題ない。
それでも点在する島や岩礁をポイントにして何回かに分けて北に向かった。
目視して認識できる範囲で小刻みに転移せざるを得ないため、3日かかったが、遥か彼方に紫色の大樹が見えた。
やはりあったのだ。世界樹。
周りは嵐が吹き荒れており、中で稲妻が光っている。
高濃度の魔素による圧迫感は半端ない。
あの中に入って、まさに耐えて世界樹の葉を……
収穫する前に魔物になったりするのは嫌なので、周りの隔離空間を解除。
手前の空間と世界樹の枝のある空間を交換。要するに空間転移を利用して大枝を一つ手前に持ってきた。
すぐに収納して、凍りつく前に転移した。
世界樹の葉はたっぷり手に入れたが、効果はわからない。まずは実験。
魔物と戦い効果を見る。伝説通りの効果だ。
次は動物、最後は人間。葉のままでなく、すりつぶして丸薬にして、世界樹の葉だとわからないように、絶対助からない怪我人や他に治療法の無い病人に使ってみる。
効果は絶大。世界の法則を無視した反則技である。
簡単にたくさん取れるとか、広まってしまうのはまずい気がする。伝説は伝説はのままにして自分たち周りの人間に初代な時だけ使うことにした。
保存は、亜空間で枝ごと保存できるが、葉のままでは使う時人に見られるので薬に加工しておくことにした。
亜空間収納が使えるので、持ち歩くのは問題ない。
液状にして小瓶に入れるのがお約束かな?