魔王
私は魔王、魔大陸の西側にあるゴモルの都にある
魔王城に住んでいる。
将来やってくるはずの勇者達と戦うのが私の運命だ。
古来、魔族と勇者は戦い続けている。
勇者は我々の住む魔大陸にやってきて、魔族を殺戮し財宝を奪ってゆくのだ。
正直、勇者という名乗りをやめて、略奪者と名乗って欲しい。自分たちの非道を隠すために勇者と名乗っているとしか思えない。
元々、魔族はこの星の南極近くにある魔大陸に住んでいる。寒いのと循環する魔素が南極に集まるせいでこの付近では魔素が濃いため、我々の住む魔大陸は人間が住むには適して無い。
我々もまた、人間の住むレムール大陸より、魔大陸の方が住みやすいのだ。
魔族は寿命が人間よりはるかに長いせいか、子ができにくく数も少ない。人間の世界を侵略したり支配する気は全くのだ。
この世に生まれた時から、私は特別大きな魔力を持ち魔王として育てられた。
ただ、私は戦闘ジャンキーでは無いし、本能的に勇者や人間が憎いわけでもない。
できるなら、魔族と人間が共存する世界で平和に暮らしたい。魔族と人間の商人の間で、細々とではあるが交易も行われているのだ。
私は勇者に滅ぼされた歴代魔王の生まれ変わりなのか、たまたま生まれつき魔力の強かったので魔王になったのか、それはわからない。
過去の経験の蓄積から平和を求めているわけではない。
どう考えても、魔族と人間族が争い続けなければならない程の原因が、習慣や宗教的なものくらいしか思い当たらないのだ。
そもそも、元々魔族は魔素の濃い魔大陸に住みついた人間が進化したという説もある。
その日も、私は、一日の仕事を終えて城の塔に登り沈む夕日を見ていた。変化のない毎日だがこれが続かば良いのにとか考えながら……
と、その時私の前に太陽が出現した。全てを焼き尽くす、とんでもない高熱と強烈なエネルギー。
何が起こったのかを理解することもなく、私は魔王城と共に消失した。
ふと気づくと、私は暗闇の中にいた。
あの太陽はなんだったのだろう?
ここはどこだ?何かがおかしい。頭が働かない。
何も感じない。
私はどうなってしまったのだ?
目の前に手を出してみる。
そこにあったのは、ゲル状の突起物だった。
私はスライムになっていた。
スライムになったせいか、思考スピードが著しく遅い。以前の記憶はあるものの、新しく記憶するには少し努力が必要だ。
真っ暗な洞窟の中なので、時間はわからないが、多分数日くらい惚けていた私は活動を再開した。
生きている以上、死ぬわけにはいかない。生物の本能が生きろという。
まず、スライムの体の中の伝導経路を整理、再構築して効率をあげる。
これで少しだけ思考スピードが上がった。
魔力はあるものの、ごく僅か。魔法を使うことは不可能。
すぐ近くに、強い魔物のいる気配は無いが、洞窟内に何がいるかわからない。スライムを常食する魔物はいないが、食べ物がなければわからない。
今の私は99%被捕食者だ。
私の生存のための戦いが始まった。