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夫は妻をお金で買う事にした

ずいぶん前に書いたショートショートですが、もし気に入っていただけたら気軽に評価をください。

評価以外にも感想によって得られる気づきもあると思うので、どんなものでも気軽に送ってください。

 あるところに冷めた夫婦があった。

 夫の名は太郎、妻の名はセツ子と言う。


 二人はとても仲が悪く、いつも喧嘩ばかりしていた。

 しかし、二人とも世間体を気にするたちで、だれもいない家の中で言い争うのは、よほどむしゃくしゃしたときだけだ。

 二人はお互いの欠点をあげつらいながら、なだめたりすかしたりして暮らしていた。


 ある日のことだった。

 太郎が外を出歩いていると、怪しい店に女房と畳は新しい方がいい、と言うことわざが書いてある看板が立てられてる店を見る。


 その下には既存の妻を下取りに出すことを条件に新しい妻を安く買えると書いてあった。

 太郎は迷う。

 今まで妻に対して何の感情もなかったからだ。


 だが、もし新しい妻を買うことができるなら、この気まずい空気から解放されるかもしれない。

 そう思った太郎の心の中に一つの思いつきが生まれた。

(あいつを売ろう)

 それからしばらくして、セツ子に内緒であの怪しい店に足を運ぶ。


「あの……この店は妻を下取りに出す代わりに新しい妻を売ってくれるんですよね?」

 店主は答える。

「ええ、もちろんですとも。こちらへどうぞ」

 太郎は店の奥にある部屋に通された。

 奥の部屋には色んな女の写真が飾られていて写真の下には値札と妻の名前のシールが貼られていた。


「さて、どれがいいですか?若くて美人なのは値が張りますがね……」

 太郎は吟味しながら写真を見つめる。

(俺は幸い金ならあるからな……)

 そう心の中で呟きながら新しい妻になる人の写真に指を差す。


「これにします」

「ほう、お目が高いですね。この子は若いですし美人ですよ。ただし高いですがね」

「いくらぐらいになりますか?」


 店主は電卓を叩きながら言う。

「百万円頂くことになります」

なお、この商品の購入条件は、妻を下取りに出すことなのであなたの妻の詳細を教えてください」


 太郎は携帯で妻の画像を見せて説明を始めた。

 店主は説明を聞き終わり言う。

「結構です。セツ子さんの買取価格は五万円となりますので、九十五万円を妻の交換時に払って頂けば結構です。それとこちらから妻を引き取りに行くので、この紙にサイン、住所、及び電話番号をお願いします」


 紙とペンを受け取った、太郎は書類を書き終えると店主に手渡した。


「なお、一週間から、二週間までにはセツ子さんを引き取りに行きます、引き取り当日には電話をしますので、当日はセツ子さんと一緒に自宅で待機してください。お買い上げありがとうございます」と言って店主が頭を下げる。

「はい。じゃあ、これで」

 と言って太郎は満足げに店を後にした。


 数日後、一本の電話が太郎の携帯にかかってきた。

「もしもし」

 声の主は店主だった。

「先日ご購入いただいた商品をお届けしたいのですが、今は自宅で待機されていますでしょうか?」

「はい。妻は今自宅にいますよ」

「ではこれから伺ってもよろしいですか?」

「わかりました」

 太郎が返答をした。


 数分後チャイムが鳴る音が聞こえてきた。


 ドアを開けるとそこには店主ではなく引っ越し業者の様な若者が立っていた。

「こんにちわー! あなたの奥様を引き取らせていただきます!」


 男は元気よく挨拶をする。

「よろしくお願いします」

 太郎は軽く会釈をした。

 何も知らないセツ子を若者は連れ去ろうとするが必死に抵抗する。


「何するのよ! 離してっ!!」

 しかし男の力にはかなわずそのまま連れ去られてしまった。


 その様子を見て太郎は思う。

(ああ……俺の元から離れていくんだなぁ……)

 そんなことを思いながらも特に悲しい気持ちはなかった。

 むしろ清々したという感じだ。

 その後セツ子がどうなったのかはわからない。

 その後若者に九十五万円を払うと家の中に太郎が指定した妻が入ってきた。


「はじめまして、私はみすずと申します。

 今日から旦那様に尽くさせていただきますので宜しくお願い致します」

 丁寧にお辞儀をして自己紹介を始めるみすず。

「えっと……まあいいか」

 太郎は適当に返事をし、

「とりあえず、お茶でも飲む?」

 と聞いた。

すると

「はい。是非」

 みすずは笑顔で言う。

「わかった」


 太郎は台所に向かい湯呑みを取り出し茶葉を入れて急須に注ぎ始める。

 お盆の上に二つの湯飲みを載せて居間に戻り、片方の湯飲みをみすずに差し出した。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 そうして、二人は静かにお茶を飲み始めた。


 それから数日間ニ人は幸せに暮らしたが、幸せはそう長くは続かなかった。


 ある日のこと、太郎がいつも通りに暮らしていると突然家のインターホンが鳴った。

 玄関に向かい、扉を開けると初対面の二人組が立っている。


「あの……どちら様ですか?」

 太郎の問いに女が答える。


「私たちは太郎さんをセツ子さんの依頼で引き取りに来ました。料金はすでにもらったので車に乗ってください」


 太郎は状況が飲み込めなかったが、乗ったら二度と家には戻れないことを察して抵抗しようとするも、二人の女に無理やりトラックに押し込められ、こうして太郎は家から引き剥がされてしまった。


 しばらくすると太郎が居た家にみすずと釣り合う位のイケメンが入ってくる。


「やあやあ、こんにちは俺は直樹と言うんだ」

 直樹は自己紹介した。

 始めは困惑していたみすずだったが、その後二人は打ち解け幸せに暮らしたのであった。


 めでたしめでたし。


——解説——


直樹はセツ子が、太郎が行った店と同じようなところに行き夫を買い直樹が夫になる予定だったが、太郎も新しい妻を買っていたせいでどっちも引き取られてしまった。

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