第14話 魔神驚動~Happening the DemonDeus~ part2
1.
日が変わり、翌日。
学校はかつての活気を取り戻し、いつもの日常を展開していた。
先の事件の騒動は犯人のことはついぞ公開されなかったが
事態は既に収束・解決したと警察からの発表もあってか
学校側もしばらくの様子見を兼ねて休校していたがそれも
最近になって解除された。
日常の喧噪を取り戻し、4時限目も終えた昼休み。
アキラは昼食を済ませた後、1人机に上半身を任せる様に
寝そべる様な姿勢で考え事をしていた。
考え事は無論、これまでの一連のことだ。
ゴウとケンを出会ってから今日まで不可思議で怪奇的な騒動が
起きていたが何故それが自分も巻き込まれることになったのか。
そもそもゴウ達の様な力を持たない自分に一体何ができるのか・・・
直近の騒動の後からずっと考えていたのだ。
(―――どうして私が・・・関わることになったのだろうか・・・)
思い当たる節があるとすれば・・・・・あの夢だろうか。
ゴウ達と出会う前に見た“あの夢”。
私であって私ではない様な人物とゴウらしき人物らとの会話。
あの後もちょくちょくまるで断片の様に見る夢は
過去か何かのフラッシュバックなのだろうか?
疑問が尽きず、自分だけは答えが見出せず
埒が明かない堂々巡りに陥っている。
そんな繰り返しをここ最近ずっとやっているのだ・・・
「―――気が滅入る・・・・・・」
ふとため息と共に気付かずに愚痴を零す。
そこへふとアキラに声を掛ける音が聞こえた。
「アッキラ~!どったの、なんかぶつくさ愚痴言ってたけど鬱憤溜まってる?」
「ルミコか、そんなんじゃないって・・・・・っていうかぶつくさ言ってたんだ・・・」
友人のルミコに素っ気なく答えると同時にハァ~と深いため息を付きながら身体を起こすアキラ。
調子が良くない感じの様子を見たルミコはふぅ~と鼻息を出すと同時にアキラの頭を
おもっいきりわしゃわしゃとかきむしられる。
「~~~~!!何するのさ!?」
「え~だって触りやすい位置に頭置いてるからさ。つい、ね?」
アキラの抗議にちょっと意地悪そうな表情を浮かべながら、ごめんね?と言う。
友人の対応と仕草に少し不機嫌な様子を見せるもアキラはふと立ち止まる。
(―――そういえばちゃんと話をしてなかった気がする)
髪を整える手を止めて彼女はある考えが浮かぶ。
“ゴウとちゃんとした形で話をしていないのではないか?”と
無論、何度か話はしたことはある。言葉を投げたこともある。
しかし、”世間話”をただの一度もしていないのだ。
ケンやアーミィ達(トミィは疲れるのであまり話はしていない)とは何度かSNSや電話などで
やりとりはしているがゴウとはただの一度もそんなやりとりはしていない。
意図的に避けていることはわかっている。
理由は・・・・・自分が女子だからとか多分そんな感じではないこともなんとなくだがわかる。
詳しい理由は本人から聞かなければわからないだろうからそれは別にいい。
だが、だからこそ彼とちゃんと話をするべきだとも思っていた。
今日に至るまで彼―――ゴウには何度も助けられている。
それが偶然だろうが必然だろうが助けられたのは確か。
そんな彼のことをアキラは全く知らなかったのだ。
今の彼を形作っている彼自身の何たるかを
アキラは全く知らなかった。知ろうとしていなかった。
(ちゃんと話すべきだよね)
そう思った時、身体は自然と動いていた。
アキラは椅子から勢いよく立ち上がるとカバンを持って教室のドアの方へと足を動かしていたのだ。
「ちょっとアキラ!?」
「ごめんルミコ!急用思い出したから早退するから先生に言っといて!!」
「ええ、ま、待ってよ・・・!!」
ルミコが呼び止めようとしたが既にアキラは階段の方まで突っ走っていた。
その様子にルミコや周囲の生徒がキョトンとする。
あ、と何かを思い出した様に自分の机の方へと視線を向けた。
自分の机にはイヤホンを差したスマホがあり、その画面は音楽系のアプリを映し出している。
「C.C.S.の新作。アキラに聴かせようと思って忘れてたな――――」
2.
警察署内の廊下をシイナが歩いていた。
しかし、その足運びは重くかつ早足であった。
廊下をせわしなくかついつも以上のしかめっ面で。
「―――――――――」
自分でも気付いていないくらい低く声を唸らせている。
周囲の職員もそんなシイナの様子に若干気圧され道を譲る様に横に避けていく。
それを気にするそぶりもなくシイナは己の部署へと足を運ぶ。
一方、シイナの部署である『特異事象対策係』が宛がわれている部屋では野暮ったい風貌の男が
コーヒーを飲みながら暇を持て余していた。
そこへ勢いよく扉を開けると同時にシイナが強面の顔を険しいまま入ってきてた。
「よう、シイナ君。退院おめでとう」
「―――――――――――――――」
アオヤマの反応に無言で応えると同時にアオヤマのデスクに両手をおもいっきり叩き付けながら
シイナは上司にようやく一声を上げる。
「納得できません!!」
「何が納得できないの?例の事件で受けた傷に関しては諸々申請通ったでしょ?」
「その例の事件についてです!!」
部下の怒鳴り声に平常な反応を示すアオヤマを余所にシイナは怒声で話を続ける。
「明らかに異常な事件であるのにも関わらず、捜査が強制終了になっていることに納得ができんのです!」
「――――まあ、キミがやるせない気持ちになるのはわからんでもないよ。一応、当事者であり被害者だからね」
けどね、と付け加えながらコーヒーを机のコースターに起きながら話すアオヤマ。
「これは上の決定だからね。俺達はそれに従わなきゃならんのよ。犯人に関しても一応ケリが付いてるみたいだし」
「その犯人についてですよ!何故、一切の情報が降りてこないのですか。報道関連もそれについてパッタリと騒がなくなったのもそうですが何の情報も与えられないのは不自然過ぎます!!」
彼が今朝方から険しい表情の原因はまさにこれだった。
ケガで入院して以来、先の事件に付いては逐一情報を求めていたシイナであったが一向にこれといった情報が集まらず、気付けば事件が己の与り知らぬ所で解決という形で終わっていたのだ。
無論、犯人の情報などがケガをして捜査に参加できない自分の耳に入るとは思ってないのは理解していたが犯人の情報が一切わからない上に“逮捕した”などの情報も一切出てこないのは明らかにおかしい。
退院後、いの一番にそのことを確かめようと当時の捜査関係者に詰め寄ったのだが門前払いや知らぬ存ぜぬという有様だった。
これではシイナでなくとも煮え切れずになるのも無理はない。
「まあ、実質的な被害がキミだけだったからよかったじゃないの。もしキミを庇った少女や他にも被害者がいてかつ犠牲者が出てたら流石にね」
「そこですよ!自分以外被害がないからと犯人を秘匿する理由は何なんですか!?自分らの目的でもある『特異的な事象にまつわる捜査』である可能性も」
食い下がるシイナの言葉を遮る様に机に置いていたコーヒーカップをシイナの顔の前に突き出すアオヤマ。
「おまえさんの気持ちがわからない訳じゃない。むしろ不自然さに関しては俺も関係者もみんな同じ気持ちさ」
「だったら―――」
「だからこそ、今は無理して動いていい訳じゃないぞ。少なくともこの件、上層部以上から何かしら不当な圧力が関わってる感じらしいからな」
「どういうことです?」
「詳しいことはわからんがどうにも一連の騒動と紐づけ出来そうなんだよねこの事件は。わざとらしく事件の詳細の隠蔽もとい秘匿をしているのも何かしらの炙り出しをしたいのか好かないし、きな臭いんだよね。俺らみたいな存在を焚き付けさせたいのかそれとも――――」
再びカップに置くとアオヤマは自分の頭を掻きむしりながら深いため息を付く。
「まあ、どの道現状俺らの出来ることはたかが知れてる。だから今は細々と書類整理なりなんなりして機を伺おうじゃないの。闇雲に動いても煙に撒かれるのはオチだからね」
「―――わかりました・・・到底納得は出来てませんが自分だけ地団駄を踏んでもラチがあきませんし、失礼いたしました!!」
敬礼と謝罪をすると自身のデスクへと戻っていくのを見るとアオヤマは席を立ち、コーヒーのするべく空のカップを手に持つ。
(―――まあ、やるせない気持ちはわからんでもないわな・・・)「―――ままならないモンだよなぁ、世の中ってのは・・・」
いつの間にか漏れたボヤキ声を上げながらコーヒーを淹れ直す。
3.
――――――昏き邪悪さを漂わせる邪教異端の礼拝堂と思しき空間。
『百獣万魔殿』の中枢たる謁見の間に蠢く無数の影。
その場に相応しきとも言える禍々しい“妖気”“邪気”を伴わせた人の形をした人ならざるモノたちが一同に揃っていた。
人魔機怪の秘密結社“ゲベート”の幹部を務めし、機怪仕掛けの魔人たち“恐怖を与え齎す者たち”『ハンティング・ホラーズ』。
レイアムの同志であり、同時に己が目的の為に邁進する“神”の創りし節理に背信する神抗者たち。
そんな彼らが一同に介している中、肥満体じみたパンクファッション風の巨体の大男がスーツ姿の男に声を投げる。
「おいフォビドゥン。急に呼び出しやがって大事なことなんだろうな~?おい」
「当然だともそうでなければ貴重な時間を割いて多忙な諸君ら全員を呼び出す理由もあるまい?」
「心にもないこと言いやがってよ」
「――――くだらない茶番をする為に呼んだのか?」
ジョーン=ドゥは感心も無そうに言う。
それに反応はしなかったがナイトメアも同様と言うような雰囲気を見せており、ファムファタルやカイテンも興味がないというな様子だった。
事情をするファウストのみはいつもの調子で蓄えた髭を弄って一同を見ていた。
そんな彼らにフォビドゥンは両手を広げ大袈裟なポーズを取りながら話を切り出す。
「フフフ、そう邪見にするものではないぞ諸君。キミたちにとってもとても有益な話なのは確かなのだから」
「何が言いたい?」
「デモンデウスとの本格的な戦いをレイアム殿から許可を貰ったのだよ」
「それってつまり~?」
「“諸君らの本気”を持ってデモンデウスを“斃せ”ということだ」
その言葉にフォビドゥンとファウスト以外の面々の様子が一変する。
今まではレイアムの思惑もあってかデモンデウスと対峙することはあっても斃すまでには至れなかった。
何らかの理由でレイアムがデモンデウスという機怪化獣と機怪化神の“半端モノ”とも言えるあの刃金の魔神にこだわりを持っている感じの様子は確かにあった。
そんな様子を見せていた我々のリーダーがその制約を解除したと言っているも同然だったのだ。
レイアムは自分らゲベートの面々にとっても絶対的な存在とも言え、その為、彼の命令には尊守されてきた。
彼らからしたら衝撃以外の何もでもない。
「おいおいおいおい、本気かYO。正気かYO!」
「どういう風の吹きまわしからしらネェ・・・」
「疑問を抱くのは最もだがレイアム殿からの許しが出たのは紛れもない事実だ。諸君、今後は問題なくかの愚かな魔神と全力で相手をして貰って十分なのだよ」
「驚天動地の心境ではありますがそうであるのならば―――拙僧もやぶさかではありますまい―――!!」
メンバーそれぞれが己が感情を露にする。
ナイトメアやジョーン=ドゥは無反応の様に見えたが彼らもまたデモンデウスとの全面対決には乗り気であるのは彼らの雰囲気からして容易に察することが可能だ。
「グブブブ、その言葉を待ってたぜ~!!」
「ウフフ、じゃあワタシも本気を出そうかしらねぇ」
ハザードとファムファタルはそれぞれ悦びの感情を言葉に漏らす。
その様子にフォビドゥンは気付かれない様に片手で覆った顔を酷く邪な笑みに歪めていた。
場所は代わり、周囲が真っ白な一帯の異世界とも言える空間【語り部の部屋】。
その空間にカチカチと全体へ鳴り響く古時計の音。
一面白一色の世界にふたつの“違和感”がそこにあった。
ひとつめは白い衣装に身を包んだ男性。
この空間に何度も足を運ぶゲベートのリーダーでもあるレイアムだ。
ふたつめはレイアムと対面する様に椅子へその身を委ねている少女がそこにあった。
以前、レイアムの前に現れたドレスを着込んだ黒髪の女性ではないがどことなく彼女の面影も感じさせる。
その少女はゴウやアキラとも何度かあったことのある例の少女だ。
「――――――――」
「・・・・・・・・」
時計の振り子の音が静かに鳴り響く中、2人は無言のまま静止した様に椅子を座り続ける。
この空間では時間の進行など関係なく完全に外の世界とは隔離された領域外の空間。
何時間であっても2人に特に影響をもたらすことはない。
とはいえだ、無言のまま視線を合わしてくれない相方に少女は流石に我慢することはなく、
「ねえ・・・何かないの?」
「―――何が、だい?」
素っ気ない反応に少女はあーもーとわざとらしい反応をする。
「お客様が来たんだからお茶とお茶菓子とかもてなしてくれないの!?」
「ぶぶ漬けでも出した方がいいのかい?」
「それって邪魔ってことだよね!?」
勢いよく反応をする少女に対してレイアムは無反応を示し、いつの間にか手に持っている本に視線を落としていた。
むぅぅぅぅ、と露骨に膨れっ面になってそっぽを向く少女。
「何よ、そっちの進捗はどうなのか気になってやってきたのに素っ気ない対応ってあり?ありなの!?」
「――――キミにそれを伝えても何か意味がるのかい?」
「私が楽しくなれるかもしれないじゃん?」
「―――――」
やや呆れた様にため息をつくレイアム。
その様子に彼女はニヤリと笑みを浮かべると椅子から立ち上がり、レイアムの方に近づき彼の顔を覗き込む様に自身の顔を近づける。
「―――ここまではキミの“目論見どおり”かい?彼らがデモンデウスとの戦いに本腰を上げる様に仕向けたのは良いけどそれでキミの目的を達成への道筋になるのかな?」
「それは彼と彼女次第さ。僕の出来ることはタカがしれているし、それに僕の力で結末を変えることなんてできないからね――――」
「―――――――――――」
レイアムの言葉に少女の顔から笑みが消えると同時に離れる様に移動を始める。
その後、わざとらしい程の大きなため息をレイアムに聞こえる様に吐くと同時に言葉を彼に投げる。
「キミはどこまでも“自己犠牲”だねぇ・・・正義の味方になれないのに正義の味方への手助けをしてしまう――――つくづくバカだよキミは」
「そうだね――――前にも言われたよ」
どこか懐かしさを含んだ哀しみも交えた様なそんな言葉をレイアムはポツリと言うのであった。
4.
場所は再び変わり、午後の街中。
制服姿のアキラはそんな喧噪の最中にある人混みの中で突発的な自分の行動を軽く後悔していた。
(――――せめて着替えてくるべきだった)
あまりにも突拍子のない自分の行き当たりばったりな行動を恥じりながら、アキラは人混みの中を歩き始める。
“ゴウと話をする”
簡単なことではあるのだが、それがとても難しいということをアキラは実感を今更するのであった。
そもそもからしてアキラはゴウと面と向かってまともに話をしたことはこれまで1度もなかったのだ。
それを今更ながらに思い出したこともあってか、現在アキラの頭の中は絶賛大混乱状態である。
(話をする、ってのはいいけどもどんな話題を振ればいいんだろう・・・そもそもゴウさんの趣味とか好きなものとか、これっぽちも知らないのに話をするってホント何考えてるの私!?バカなの!?アポンタン過ぎない?)
完璧なまでの行き当たりばったりで無計画当然の当てずっぽうな発想をした自分をとことん責めたい気持ちでいっぱいのアキラ。
その打開策も考えようとしたがそれ以上にゴウとの関わりの少なさに自分の不甲斐なさと計画性の無さによる無限ループ。
とそこへアキラの背後から彼女に声が掛かる。
「――――おい」
「ぎょへああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!」
突然の声掛けにとても女の子が発していいのか疑問が付く叫び声を上げながら全身を飛び上がらせるアキラ。
心臓が飛び出すかもしれないほどの驚きで我に返ったアキラは恐る恐る自分に声を掛けた人物の方へと振り向いた。
振り向いた視線の先には黒を中心とした意匠の灰色に近い銀髪の男が立っている。
しかし、その男が知人である女子高生が突如上げた奇声にサングラスを掛けた表情を困惑の色合いに染めており、
どう反応すればいいのかわからない様子であった。
「あ、ゴ、ゴウさん―――――」
「おう、どうした。急に変な声上げやがって」
「ゴウさんこそ―――いや、先にごめんなさいです。まさかゴウさんとこんな早く逢えるとは
思えなかったのとあと色々と考え事をしていたので・・・」
「――――俺に用があるのか?」
「あ、えっと・・・その・・・―――――――」
言葉に詰まる。
本来の目的である当人が目の前にいるのは僥倖ではあるが、あまりにもタイミングが悪い。
話をするという目的だがその話の内容を全く決めていないのである。
しかも本当ならまだ逢うには適切とは言えないタイミングで出逢ってしまったこともアキラが
余計にテンパる要因になってしまっていた。
本来なら唯一の連絡手段を有しているケンに手助けしてもらう予定だっただけに今アキラは
明らかにどうすればいいのか混乱しながらも思案しているのだる。
「やるべきか、やらないべきか・・・いやいやいやこれで
迷惑掛けることになったらブツブツブツブツブツブツry」
「おい・・・大丈夫か?」
ブツブツと1人で何かを言っているアキラに対してゴウは
若干不安の様子を見せながら彼女の後ろ姿を見ていた。
しばらくはそのままゴウの言葉も聞いているのかどうかわからないまま
ブツブツと独り言を繰り返していると
よし、と決心したアキラはふと急に振り返り、
意を決した表情を浮かべながらゴウへと言うのであった。
「ゴウさん、デートしましょう!!」




