第1章 3
スーツケースをホテルへ配送する手続きを終え空港を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
到着ロビー出口の正面のタクシー乗り場では、客待ちしているタクシーの前で王玲が、無人の後部座席をニコニコ顔で指さしするので、僕が先に乗車し続いて王玲が、
「タクシーに乗って行きましょう。五分ほどで着きますよ」
と、ドスンと音を立てながら乗り込みぎわに言うと、運転手に行き先を告げ、すぐにタクシーは目的地の中華料理店へ向けて走り出した。
タクシーが空港を出発し三沢空港温泉をとおり過ぎ、今度はパチンコ店のある十字路を右に曲がり進んで行くと、住宅の他に、ドラッグストア、コインランドリー、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ラーメン屋、不動産屋などの小規模な店舗が並ぶ郊外的な風景が続く。
中華料理店へ向かっているうちに、外は日没後の時間帯ということですでに薄暗くはなっているが、低い雲に覆われ始めたことと、その雲が郊外の建物からの明りを反射しているためか、むしろ空は白くぼんやりと光り、その明るさは増しているように思われた。
タクシーの運転席横の車載ラジオから、低音量で流れてくる気象ニュースの女性アナウンサーの音声によると、
「低気圧から延びる前線が東北地方に及んでいる影響で、明日明け方にかけて、東北地方では猛烈な雨
による河川の氾濫や土砂災害が発生するおそれがあることから、気象庁が大雨特別警報を発表し警戒を呼び掛けています。さらに大気の状態が不安定のため、落雷、突風にも注意が必要です」
とのことで、天候や気候に関する知識が皆無の僕でも、さすがにこれは今夜は大変なことになりそうだなと感じた。
さらにタクシーは進んで行き、東北防衛局三沢防衛事務所、コンビニエンスストア、独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構三沢支部、アメリカ広場前にある大人の背丈ほどもありそうな〝MISAWA〟の白いアルファベットのモニュメントをとおり過ぎ、すぐ先のスカイプラザミサワという大型のショッピングセンターの交差点を右に曲がる。
すると、正面に小型の投光器により明るく照らされ、また三組の車両通行用の信号機からの光が輝く米軍三沢基地の正面ゲートが少し先に見えた。
すでにタクシーの窓ガラスにはパラパラと雨粒が目立つようになってきており、これらは、投光器からの黄色い光に加えて、信号機の電球からの赤色や緑色といった原色の光が混ざり合って、有彩色に輝く魚の鱗のようにも見えた。
基地の正面ゲートまでの通りの左手に面して立ち並ぶトルコ料理、インド料理などの一般飲食店や色とりどりの電飾でぎらつくアメリカンバーなどの酒場の前では、傘をさしていない体格の良い迷彩柄の服装の人々のいくつかの集団がたむろしたり、よろよろと歩いているのが見える。
基地に至るまでのそういった飲食店のひしめく通りの途中にある、アイリッシュパブと一階建ての燃料販売所の間の脇の小道を左に入ってすぐのところ、青森県三沢市中央町二丁目八番地*号に目指す中華料理店はあった。




