14時から15時。
そして私は目を覚ました。ベッドの横に置いてあるヒビの入った目覚まし時計が指し示す時間は14時。どうやら寝過ごしてしまったらしい。
重い頭を上げ、カーテンをゆっくり開ける。太陽の光がいっそ清々しいくらいに差し込んでくる。……私には眩しすぎる。
そのまま洗面所へと向かい、軽く顔を洗う。水の冷たさが肌に染みた。そして乾いた髪に軽く櫛を通す。歯ブラシをしゃかしゃかと動かす。……ふと手を止めた。鏡には私の顔が写っている。……私の顔は、こんな顔だったのだろうか……?
昔から顔は整っていると自負していた。モデルの打診が来たことだってある。目の前の顔も、非常に綺麗だ。しかしそれだけ。大きな目も、白い肌も……今となっては生気のない様に見えてしまう。
「っ……!」
鏡の中の私が歪む。限界だった。
私は歯ブラシを放り投げ、逃げるようにリビングへと向かった。なんだか鏡の中の私に見られている様な気がした。
歯磨きの途中で気持ち悪い口を水でゆすぎ、朝食の準備をする(もう昼だが)。朝食はピザトースト。一ヶ月前までは大好きで、今は大嫌いなもの。嫌いでも、最後の晩餐はこれがよかった(昼だが)。
「……頂きます」
ピザトーストを口に含む。無言で水を飲みながら食べ進める。
「……美味しいね」
私は何を言っているのだろう。それを聞く相手はもうとっくにいないと言うのに。
「…………」
気分が沈む。それでも我慢して少しずつ食べる。
「ご馳走様」
タンスを開ける。中にあった服はほとんど洗濯物と化して洗濯機の中に放置されているが、そうなっていない服たちも一セットだけタンスの中に残っていた。白いシャツにベルトでまとめる短いスカート、ダボッとした上着。街を歩けば普通に見かけるようなありきたりな服。
「懐かしいな……」
一ヶ月も放って置かれほこりを被っていた服をさっさっと払い、着替える。靴下も履くが、長い髪は纏めなかった。
もう一度洗面所へと足を向けたくなかった、というのもあるが、最大の理由は一年前と同じ格好で終わりたかったからだ。
棚から取り出した鍵を手に取る。横には合鍵が置いてあった。
「……」
合鍵から目を背けカレンダーを見る。今日の日付のところに赤マーカーで何重もの丸が付けられている。その下には文字が書いてあった様だが、黒いペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされており、辛うじて「……一年」という文字が読めるだけだった。
「一年か……」
思わずそう口から、そして目からも涙が零れ落ちていた。私はさっと指で涙を拭う。
時計に目を向ければ15時。少し早いが、そろそろ出かけよう。私は玄関へと向かった。
玄関には靴が三つある。学校指定のローファー、普段使いのスニーカー、そして男物の革靴。私はスニーカーを履き、立ち上がる。
下駄箱の上に視線を向けると多くの写真立てがあり、そしてひとつ残らず倒れていた。私はそれを起こさず、目を瞑る。たっぷり数秒置いて気持ちを落ち着けた後、結局写真立ては起こさずドアを開ける。
「はあ……」
ため息が出る程憂鬱だった。
そう、今日が私の「命日」。
そしてこれは、私、いや私達の軌跡を巡る一日の記録だ。