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水曜日 イツメン会

 朝から妹様とは一言も交わさなかった。目も極力合わせなかった。

 スマホを確認すると、昨日の投稿に佳奈ちゃん本人からの”いいね!”が押されていた。罪滅ぼしのために描いたとはいえ気まずい……。しかも、ご丁寧にマスクまで描いちゃったからな。 俺とファントム芦屋が繋がらなければ良いが……。

 妹様は何も言ってこない。俺も何も言わない。

 紬と合流し、登校する。紬の横を半歩遅れて俺が付いていき、紬の後ろに妹様が控える形が登校スタイルだ。慎み深い俺としては、妹様のポジションを取りたかったのだが、如何せん仲がよろしくないので、いざという時に一列になれる半歩後ろをキープしている。

 紬はいつ見ても楽しそうだ。より正確に言えば、幸せそうに見える。

 何でそんなに幸せそうなのか。長く浅い付き合いの幼馴染の幸せの要因を俺は知らない。

 昔は確かに深い繋がりがあった。それは認めよう。でも、そんなのはもう三、四年前の話だ。

 今は浅瀬も浅瀬、足首だって浸からないような浅い関係だ。しかし、そんな関係だからこそ、紬が誰かの彼女になるのを心から喜べることだってあるかもしれない。

 昔から誰にもなびかなかった紬が選んだ好きな人。きっと素敵な王子様なんだろうなぁ。

 俺が想いを伝えなくちゃいけない人が、とても素敵な人であるように。




 放課後までは恙なく進んだ。七海っちに今日は部活に行かない旨の連絡を入れ、イツメンと共に教室を抜ける。

 ファミレスで各々ドリンクバーを取ってから本題に入る。


「相談ってのはな、清秋祭前にいろいろ知りたいことがあってな」

「いろいろ?」

「まず、一番大きい疑問としては、ほら、たまに聞くじゃん。『誰々が告って撃沈した~』っていう話。アレさ、校内のどこかで告ってるわけ?」


 考えた結果、俺は推論によるフローチャート形式を採用した。

 告白は校内でなされているか。イエスならその詳細を聞く。ノーなら別の手段を教えてもらう。これなら、ド畜生ムーブらしさは表面には上がってこない。


「なになに!? 急にどうしちゃったの、陰キャ男子代表の双見君? もしかして、遂に……?」

「違いますぅー。恋愛するより恋バナ聞く派ですぅー。真面目な話をすると、今回のパンフレット用イラスト、告白シーンを描いてみたはいいけど、リアリティに欠けたんじゃないかって思って。今度描くときのためにも、告白方法とか告白場所とか知りたいってわけよ」


 まぁ、今聞いたところで、提出は金曜なので変更不可なんですけどね。しかし、リアルな告白事情を知ってイラストに活かしたいのは確かだ。やましいところは何もない。完璧な作戦だ。


「んー、僕は実際に呼び出されたなぁ。食堂の外の、人目に付きにくいところとか、下校時刻ギリギリの教室とか」


 さっそく最上君から有力情報が飛び込んできた。なるほど……?


「俺、食堂全然行かねえから分からんわ」

「あるある。あそこ一番の告白スポットだもんね。今の時期だと、プールの更衣室の陰もアツいよ。水泳部が使ってないから」

「はぇー。俺の知らないところで皆さん盛り上がっていることで。俺は空き教室をイメージして描いたけど、まぁ外れってわけでもなさそうだな。セーフ」


 委員長からの情報もルーズリーフに書き込み、注文したパフェを食べる。俺が食べているのは王道の苺パフェだ。ファミレスでパフェを注文するのは割高に思えてあまり好きではないのだが、俺以外みんなパフェを頼んだものだから、一回り小さいサイズで注文した。


「そちらは何かありませんこと? さぞおモテになっているのではなくて?」


 女子会高飛車令嬢モードに入った俺は、キングサイズのパフェを一人で独占するちっこいのにも話を振った。


「一応聞いておきますけど、アナタ、夕食のご予定は?」

「……何? 誘ってるの? キモいんだけど」

「……誰も誘っちゃねぇよ。今週は大型出費が控えてるもんでね。家でも夕食出てくるのかって聞いてんだよ。それ食って『夕食食べれません』じゃ、作る親に失礼だろうが。100パーの善意で聞いたんだよ」

「……おやつは別腹」


 委員長に目線を配ると、ウンウンと頷いていた。十分食べきれるらしい。


「風吉モテるもんね~。そのパフェ全部ココにいってるんでしょ~?」

「んにゃっ!?」


 委員長が五十嵐の背中に腕を回して胸を触る。てぇてぇムーブだ、と思わなくもないが、ここはファミレス。完全アウトのセクハラムーブだった。


「ふーん。でも断ってるよね。それは相手が無理だったから? シチュエーションがキュンと来なかったから?」

「……言葉選びがキモい。どっちもでしょ。碌に話したこともない男子から『付き合ってください』って言われても、何も嬉しくないし」

「確かにィ……」


 五十嵐の指摘はあまりにも正しい。……俺とミヤさんはイラストレーターと歌い手という関係で何回も話してきたし、オフ会で会ったこともあるが、それでも『碌に話したことがない』の範疇だろう。逸ったところで良い結果なんて付いてこないぞ。考え直せ、俺。

 それに、ビジネスパートナーとそういう関係になるのは信用問題に大きく関わるこのご時世で、せっかくのwin-win な関係を崩すのか?


「おーい、双見君?」

「ん、そうだよな。碌に話しても居ない人からいきなり好きって言われても困るよな」

「んん? はーん。そういう、コト」

「おい、何を察したんだ」

「何も察してませーん」


 チッ、勘付かれたな。だが、相手までは分かるまい。それに、今回のヒヤリングの真の目的から意識が離れてくれているのなら好都合だ。


「新也の好きなシチュエーションといえばアレでしょ?」

「そう、アレ」


 最上君の耳打ちに答えると、最上君は満足げな微笑みを浮かべた。

 ま、眩しい……! 紬とは違う眩しさだ。最上君の方が柔らかい。

 最上君は俺の理想のシチュを知っている。修学旅行のホテルは何故か俺と最上君だけ2人部屋だったからなぁ。他はみんな四人部屋だったのに。


「聞きたいことはあらかた聞けたわ。ありがとな」

「どーもー。そろそろ清秋祭だね。また告白ラッシュが来るね、風姫ちゃん」

「……はぁ」


 五十嵐は食べるペースを上げた。喋っていたわずかな時間に半分減らしている事実がもう驚きなんですけどね。恨めしそうに睨んでくるが、告白ラッシュと無縁な俺は肩を竦めるしかなかった。


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