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第2作のヒロインと2人のヒーロー


 「さぁ?女の勘、かしら」


 もう二度と女の勘を侮らないようにしよう。

 隣に立つ少女を見て、クリスは心にそう誓った。

 聖クロサード学園の制服に身を包むその姿は間違いなく「学ロマ」のヒロイン、アイリス・セインだった。

 太陽のように輝く金髪に赤と水色のオッドアイ。可愛らしくにっこりと笑う姿はさすがヒロインと褒め称えたくなるほど可愛らしい


(にしても、やっぱそっくりだな)

 

 この国の女王、セレナーデ様に。

 そう、ヒロインであるアイリスには実は国王夫妻の一人娘という設定がある。

 そのため姿かたちはまさに女王様。しかし赤と水色のオッドアイは、代々受け継がれる王家の証。つまり国王様から受け継がれたもの。そうなると彼女はアイリスのそっくりさんではなく正真正銘、第2作のヒロインであるということだ。

 女の勘は侮るなかれ。家訓にそう書き加えようかとクリスは本気で思った。


「はじめまして!アイリス・セインと申します。不束者ですが、これからよろしくお願いします!」


 そう言い切ると勢いよく思う礼をするアイリス。その勢いに気圧され、ぎこちなく生徒たちは拍手を送る。ゲームの方ではもうちょっと大人しかった気がするんだが。そう思いつつクリスも続いて挨拶をする。


「クリス・ハンドレッドです。至らぬ点が多々あると思いますが、何卒よろしくお願いします」


と特上スマイルを浮かべて言う。 

 「さすがハンドレッド家のご子息」と拍手を送る生徒たち。そんな空気の中、1人肩を震わせて、笑いを必死に堪えている令嬢がいるが無視しよう。


「だって貴方あんな性格じゃないでしょ?」


 否定はしない。事実、あんなこと言う性格じゃないし、下手したら首ごと持っていかれるんじゃないかってくらいがっつり猫を被ってた。だが、だからといってあんなに笑わなくてもいいと思う。

あれから一週間後、2人は近況、もといアイリス報告のため近くのカフェに集まった。


「で、アイリスさんはどうなんだ?最近は人だかりのせいでそんなに見てられなかった」

「そうでしょうねぇ、いきなりハンドレッド家の子息が転校してきたらそうなるわよ。あ、アイリスさんだけど、さすがはヒロインね、見事に片っ端からフラグを立てているわ。もはやフラグ一級建築士として讃えたいくらいよ」

「それはすごい、のか?まあいい。その中でくっつきそうなのは?」

「ふふふっ。これがまたすごいのよ。あ、ちょうどいいわ」


 そう言うとクリスを引っ張って建物の死角へ連れ込むリディア。


「いきなりなんだよ⁉︎」

「まぁまぁ、ほら来たわよ」


 そう指し示した先には、アイリスともう1人、紫の髪の青年がいる。

 よく見えず目を凝らすクリス。

 髪はストレートで前髪をセンターで分けてある。タレ目がちで少し濁った黄色の瞳。両耳でピアスがきらめいている。


「…あれは!」

「そう!「学ロマ2」でダントツに人気だったオズ・サラマンダーよ!」

「のらりくらりしてる彼が一緒にいるとは。さすがはヒロインだな」

「ふっふっふ。そうでしょうそうでしょう」

(なんでリディアが自慢げなんだ)

「実はそれだけじゃあないのよねぇ。あ、ほら見て!」


 振り向いていたクリスの首を無理矢理前に向け直すリディア。「いっ‼︎」とかいう声がした気がするがそれは無視しよう。

 2人の視線の先には、オズと別れたのか1人になっているアイリスが歩いている。

 すると次の瞬間、「あっ」という声と共にアイリスがよろけた。

 間違いなく転ける。そう思い慌てるクリス。しかしさっきよりは多少近づいたがやはりそこそこの距離があり、走っても間に合わない。そもそもリディアが首根っこを掴んでおり、駆け寄れない。危ないーー!

 ゴッという痛々しい音が辺りに響いたーーりはしなかった。代わりにアイリスを受け止める青年がいる。

 白銀の短髪。鋭い目つきに埋まるサファイアのような瞳が目を引きつける。


「…あれは、シルバー・ハーレクイン?」

「そうよ。オズと競い合うように「学ロマ」で人気だったあの、シルバーよ」

「まさか二代トップとくっつきそうとはな」


 もはや尊敬を通り越して、若干の恐怖を感じる。「ありがとうございます」と言うアイリスに「いや、たまたま通りかかったからだ」と言うシルバー。2人はそのまま談笑を続けている。そんな微笑ましい光景を見守ったりせず、ギロッとリディアを睨むクリス。


「にしてもだ。リディア、今回は偶然シルバーが通りかかったからよかったものの、あのままだったらアイリスさんが怪我をしていただろうが!」

「それが偶然じゃないのよ」


 そうしかめっ面で言うリディア。

 そう言われ、同じようにクリスもしかめっ面になる。


「はぁ?つまり何か、またゲームの力だって言うのか?」

「違うわよ。このやりとり、今日だけで5回目なのよ」

「…は?」

「シルバーをよーく見てなさい」


 そう言われて彼らの方に向き直るクリス。

 話は終わったようでそのまま別れ、お互い逆方向に進…


「ん⁉︎」


 まっすぐ進むかの様に見えたシルバーはそこそこ離れた距離でUターンし、アイリスの後をつけている。


「な、なぁ、あれってもしかして…」

「もしかしなくてもストーカーよ」


(俺のなりかけたやつだぁぁぁぁ!)


「そもそもなんであんなことを⁉︎まさかゲームの影響…」

「それを確かめるわよ。突撃して!」

「は、はぁぁぁぁ⁉︎」


 つかつかと進むリディア。それを追いかけるクリス。ドンっという効果音が鳴りそうなほど堂々と彼女はシルバーの前に立った。


「貴方、なんでストーカーなんかしてるの?」


(どストレートに言ったぁぁぁぁ!)


「やっぱり、これは、ストーカー行為なの…か」

「やっぱりでもなくストーカーよ」


  意気消沈してるシルバーに容赦皆無でとどめを刺すようにそう言い放つリディア。

ガクッとうなだれるシルバーを2人はベンチまで運ぶ。


「さて、私はリディア・スワンレイク。こっちはクリスよ、気にしなくていいわ。で、なんでこんな事を?」

「あの、スワンレイク家の⁉︎そんな方がどうして……いや、そんな事はどうでもいい。わかりました全てお話します」


 シルバーはそう言うと、ポツポツと話し始めた。


「…最初は笑顔がかわいい子だなぁっていう印象だったんです」


(ガチのストーカーの告白聴いてるみたいだ。いや、ガチのストーカーなんだけど)


「それからも時々見かけたのですが、その度にすっ転ぶわ階段から落ちかけるわ。ある時はなぜか屋上から転落しそうになってたし…それで思ったんです。もしかして彼女は、生命に危険を及ぼすレベルでドジなんじゃないかって…」

「間違いなくその通りだと思う。」

「それで出来る限り見守ろうと思ったのですが、一日5回は必ず転けるし、怪我をしてるし、うち何回か死にかけてるし、だからせめて彼女が学校に来て、無事家に着くまでは守り抜こうと思ったんです。彼女が死なないように」

「死なないようにって…さすがに貴方が見てないからって死ぬことはないと思うけど…」


 そう呆れ気味に言ってると突如「キャー‼︎」と言う甲高い叫び声が聞こえた。


「広場の方からね。何事かしら」

「さぁ…事故か?」

「まさか…アイリスーー‼︎」


 そう叫び、シルバーは広場の方へ駆け出した。何事かと思いつつもシルバーと共に2人も駆け出す。が…


「なんっで ハァッ あんなにっ ハァッ 速いっのよぉっ」

「シルバーはぁ 学ロマ2のっ ハァッ 中でもぉっ 一番、運動がぁっ できるキャラっだからだろっ ゲホッ」


と息切れを起こしつつ話す2人。

 クリスもリディアも頭脳派で運動スキルはあまり高くない。しかも相手は 「学ロマ2」でダントツで運動スキルが高く、騎士団員を希望してるあのシルバーだ。2人がゼーゼー言いながら広場に着いた頃には、とっくにシルバーは着いていて、そしてなぜかアイリスを広場の時計塔の上で抱き抱えていた。周りの人たちはみんな歓声をあげている。


「…なに、この状況…」

「…俺も、わからん」


 深呼吸をしてなんとか息を整えた2人は、状況が理解できず、ぽかんと、というかしかめっ面をしている。


「あんたたち、見なかったのかい?」


と人々の中の1人、やけに上機嫌なおじさんがそう声をかけてきた。


「見るって、何を?」

「さっきの救出劇さ!塔の上から落っこちそうになってたあの金髪の嬢ちゃんを、どこからともなく現れた銀髪のにいちゃんが助けたんだよ!いやーあれはすごかった。あっと言う間だったもんなぁ」


 1人記憶に浸るおじさんにそっとお礼を言いその場から離れると、リディアはクリスに話しかける。


「彼女、シルバーさんがいなかったら死んでたんじゃないの?」

「いや、多分主人公補正で死にはしないだろうな。一生車椅子か、寝たきりの生活ってところじゃないか?」


 時計塔はかなり高く、おそらくモブキャラが転落したら間違いなく死んでる。


「どうやらシルバーさんの話は本当のようね」

「ものすごいドジだって話か」

「ええ。それにおそらく彼女は、とんでもないアンラッキーガールよ。きっと今までは主人公補正で生き延びてきたのでしょうけど、そうでなかったらとっくに死んじゃっててもおかしくないわよ!」


 おそらく、ではなく間違いなく彼女はアンラッキーガールだ。今までは主人公補正やシルバーの陰ながらの苦労があってなんとかなっていたのだろう。今回も、もし彼がいなかったら…そう考えるとゾッとする。

 そんな事を考えていると、いつの間にか塔から降りてきていたシルバーがこちらへ走ってくる。


「先程はすみません。話の途中で急に走っていったりして。それで、アイリスの件なんですが…」


 そうたどたどしく言うシルバーに、クリスはポンっと肩に手を置く。


「シルバーさん、あんたはストーカーなんかじゃねーよ」

「そうよ。貴方はアイリスさんの身辺警護人だわ!これからもじゃんじゃんアイリスさんを守って差し上げて!」

「は、はぁ…」


 急な2人の態度の変わりように困惑するシルバー。そんな事とはつゆ知らず、アイリスは「どうしたんだろう?」と1人不思議がっていた。

 ちなみにアイリスがなぜ時計塔の上にいたかというと、帽子がそこまで風で飛ばされてしまったらしい。さすがアンラッキーガールとしか言いようがない。


「…さて、シルバーさんのストーカー疑惑が晴れて、1つ問題が起こったわ」

「?なんだ?」

「オズさんとシルバーさん。2人のどっちとアイリスさんをくっつけるか、よ」


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