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悪役令嬢はご所望する


「その婚約者避けが、あなたと付き合いたい理由のひとつよ!」

「…はぁ⁉︎」


 何言ってんだこいつ⁉︎

 クリスはそう思わずにいられなかった。


「だってここのヒーロー達ってみんなキャラが無駄に濃いじゃない?ゲームの中だから許せてたけど、リアルで結婚したいとか思う?てゆーかリアルで近くにいてほしいと思う?」

「…思えない」

「でしょ⁉︎」


 正直言って画面の向こうにいるのを鑑賞する分にはちょうどいいが、直接関わるのは面倒くさいタイプのキャラばかりだ。おまけにヒロインに惚れている。つまりほかに好きな人がいるということだ。婚約などむしろこちらから願い下げである。


「だから付き合って欲しいの!それに相手がいるってわかったらお父様もお母様も安心してくださるだろうし!」

「それも、理由のひとつ…か?」

「そうよ?あともう一つあるのだけど…」

「まだあるのかよ!」


 思わずツッコミをいれてしまうクリス。

 そんなツッコミに対し「別にいいじゃない」と頬を膨らますリディア。


「で、最後のひとつ。それはずばり、没落回避!よ」

「…はぁ?」


 たしかに没落だのなんだの言ってたけど……


「何故没落するのか。前世の記憶を取り戻し、以来私は考え続けた」

「おい、キャラがブレてるぞ」

「そして気づいたのだ!婚約者がいるからこそ没落するのだと!」

「あ、無視すんのね」


 テンションが異様に高々としたままリディアは語る。

 そのテンションに若干引き、苦笑いを浮かべるクリス。


「私は私がどうなっても構わないわ!でも、生まれてからずっと私を育ててきてくれた家に没落なんていう泥を塗りたくないのよ!」


 そう、それが彼女にとって大きな問題だった。年齢=ぼっち歴のリディアにとって、家族や使用人たちはなによりも大切なものだった。それはもちろん前世を思い出してからも変わらない。そんな彼らに自分のせいで迷惑をかけたくなかったのだ。

 そう思ったリディアは、なんとかして没落を回避しようと考えた。

 だが、ゲーム効果で同年代の人から好かれていないリディア。ここで下手に動けば、悪い噂になってしまう可能性がある。だから根本的なところを変えなくてはいけない。そこでリディアは考えた。「ヒロインの転校をなかったことにすればいいのでは」と。


(なんでそこに思い至ってしまったんだ!)


 思い立ったが吉日。すぐさまリディアはヒロインの転校の取り消しにしようとした。ちなみにスワンレイク家は割と高いの地位の一族、それくらいのことは簡単なこと。

 だが、そう現実は簡単ではない。おそらくゲームの力によるもので、どうあがいてもヒロインの転校は取り消せなかった。もうそうなるとひたすら頭を抱えることになる。

 もっと根本的かつ実行できる没落回避の可能性が高いものにしなくては。

 その結果、1つの結論、もとい極論に至ったのだ。


「だったら私が攻略キャラクター以外の恋人を作ればいいんじゃないってね」

(だからどうしてそこに至るんだ!)


 自分が攻略キャラクターのことを好きだと思われているから、婚約破棄されてしまうから、悪役令嬢に仕立て上げられてしまう。だったらいっそ、攻略キャラクター以外に好きな人が、付き合っている人がいると思わせればいい。

 そう思い片っ端からモブにアプローチするが、なぜか「攻略キャラクターのだれそれが好きだ」という誤解を受けられている。そういう風に片っ端からモブに間接的に振られまくるとさすがにリディアの精神もやられてくる。


(なんっっでなのよ!ここまで私がアプローチしてるのにむしろよくスルーできるわね!なんなの、ツンデレなの⁉︎好きの裏返しなの⁉︎意味わかんない!)


 そう若干脳内でヒステリックになっている姿は明らかにリディアらしくなくなっている。もう完全にメンタルにきてた。本来はそこまで自分の容姿を鼻にかけてた訳ではないが前世の記憶いわく結構いい方だとわかってしまった。そのため間接的振られに対し、余計にメンタルにきてた。

 そう悩む姿も側から見れば、麗しい令嬢が美しく佇む姿。しかしその脳内ではいかにしてモブを捕らえるかとかいう物騒なことを考えていた。

 そんな切羽詰まった彼女の視界の端に移ったのは、クリスだった。


「あ、当て馬って思ったわ」

「実際口に出していたもんな!」

「だってしょうがないじゃない!私の中ではクリス=当て馬っていう認識だったのよ」

「でもその数秒後、流れるようにひっ捕まえられたのだからお互い様だと思うのよね」

「…それはともかく話の続きを」

「もうここまできたら答えが出てるも当然なのだけれど…まぁいいわ」


 さっきのやりとりから貴方もゲームの記憶を持っているってわかったのよ。

そこでふと思いついたのよ。「同じゲームの記憶を持っている人なら付き合えるんじゃないか」って。


「で、今に至る」

「なんて傍迷惑な」

「貴方には言われたくないわ」

「はぁ?俺がいつ迷惑なんて…」

「ストーキング」


 ピシッとクリスの動きが止まる。


「なんで、それを…?」

「前世の記憶って便利よねぇ」


 ……鎌をかけたのか。

 見事にクリスはかかってしまった。


「それで、返事は?」

「…は?……いやいやいや待て待て待て。俺たち出会ったばっかだろーが」

「前世で間接的に会ってたわよ」

「液晶という壁があっただろ⁉︎」

「あら、私みたいなタイプの女性は好みじゃないかしら?」

「……マリアンヌとリディアならリディアを選ぶレベル」


 本音は好みドストライクである。泣きぼくろの色っぽさとか、仕草の女らしさ、言葉遣いの良さなど表面的なところはもちろん、はっきりした物言いとか、メンタルが強いところなど内面的な部分もクリスの好みそのものだった。


「でも、さっきの理由からして俺にメリットがないだろ⁉︎」


 婚約者避け、親孝行、没落回避……どれを取ってもクリスにメリットはない。むしろ一緒に危ない橋を渡る羽目 になってる。


「あるわよ、メリット。「クリス」じゃなくて「学ロマファン」としてのメリットだけど。」


 にいっとリディアが笑う。

 この笑い方はロクでもないことだとクリスは僅か数十分で学んだ。


「ずばり、「ヒロインをハッピーエンドに導くことができる」よ!」

「……何言ってんだお前?」


 「当て馬と悪役令嬢が手を組んでどうやってヒロインをハッピーエンドに導くんだよ」と抗議する前にリディアが口を開く。


「ヒロイン、攻略対象、そして悪役令嬢。乙女ゲームの黄金比はこの3つで成り立っているわ。少なくともこの「学ロマ」ではね」


 確かに、第1作…つまり当て馬が出てくる方でも、ルートごとの悪役令嬢はいた。

 当て馬のインパクトに負けてたけど。


「つまり、どれか一つでもかけたら意味がないのよ」

「…そうか!」


 2人は同時に言った。


「「悪役令嬢のいない「学ロマ」は成り立たない」」


 考えてみれば当たり前だ。攻略対象と同じくらい、下手すればそれ以上の登場回数を誇るのが悪役令嬢だ。(ただし第1作では悪役令嬢たちと当て馬だが)そのキーパーソン的存在の悪役令嬢がいなくなって「学ロマ2」は成り立つのか。正直言って難しいどころじゃないだろう。悪役令嬢がヒロインをいじめるから攻略対象が助ける。攻略対象と悪役令嬢が婚約するからヒロインが選ばれる。悪役令嬢がいるからヒロインと攻略対象は思いを深め合うのだ。

 その存在が消えるということは「学ロマ2」を根底から覆すということ。


「悪役令嬢を消すという代償の代わりに、私はヒロインと攻略対象を全力でサポートしなくてはいけないの。だから私はヒロインをハッピーエンドに導くことができるし、誰よりも近くでヒロインと攻略対象のハッピーエンドを見れるのよ」


そんな存在と一緒に行動すれば、確実にヒロインと攻略対象のハッピーエンドを見れる。


「それでも協力しないって言うならとストーキングの件、バラすわよ」

「あれは未遂だ!」

「未遂といえば未遂だけれど、その前からしつこく付きまとってたじゃない」


 若干引き気味に言うリディア。

 もうそう言われると何も言えない。

 クリスは頭を抱えこんだ。


「頼む側だったらもうちょっとそれらしく頼めよ…」

「わかったわ」

「は?」


 すくっとベンチから立ち上がると、リディアはクリスを正面から見据える。


 「1人じゃできないの。お願い、助けて」


 そう言い放つと真っ直ぐに手をクリスに伸ばす。

 その言い方は懇願とは程遠く、むしろ命令のようだった。

 それこそまさに悪役令嬢のごとく。

 はぁっと呆れ気味にクリスはため息をついた。

 どこが頼む側だよ。命令の間違いじゃねーの?


「わかった、協力しよう。あんたは婚約者避け、親孝行、没落回避のため、俺はストーキングの件を秘密にしてもらうため、そしてハッピーエンドを見るために。な」


 手をぐっと握り返すクリス。


「あんた、じゃなくてこれからはリディアって呼んで?」

「わかったよ。リディア」

「ふふっ。交渉成立ね」


 リディアもクリスの手をぐっと握り返す。 

 そしてお互い、にっと笑い合った。


「そういや、第2作のヒロインはいつ転校してくるんだ?」

「多分、貴方が転校して来る日と一緒よ」

「?なんでわかるんだ?」

「さぁ?女の勘、かしら」


 そうリディアは美しく微笑んで言った。

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