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不死の六兄妹の仕事の話  作者: 柚木 命
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宗教施設潜入編~第八話~

誤字脱字は気づき次第修正いたします。

夜の祈りが終わってすぐ、教祖の部屋を訪ねる男がいた。

部屋に入ると教祖はソファにどっかりと座り、相変わらずの嘘くさい慈悲の笑顔を浮かべていた。

「よく来たな信者、伊吹よ。君に頼みがあるんだ」

「霞教祖様直々の頼みならば、お断りする理由はありません。なんなりとお話しください」

訪ねた男…伊吹は、仰々しく頭を下げる。霞教祖はその様子を見ると、一つのポスターを出してきた。

そこにはプロギオンの写真と『楽園党』とかかれていた。

「実はこんどわが楽園は政党をつくることにしてな。秘書のプロギオンが出馬することになったんだよ。そこで君に広告塔の一人になってほしい」

「それはそれは…なんて恐れ多い。喜んでお引き受けいたします」

その返事を聞き、教祖は満足気に頷く。そして、テーブルに置いてあるワインを差し出し、

「座って一杯いかがかね?」

と、伊吹を誘う。が、伊吹があくまでも笑顔を崩さないように慇懃に断り、部屋を後にした。

霞教祖のみとなった部屋に、電話が鳴り響く。教祖はデスクに移動し、先ほどとは正反対の尊大な態度でなにやら受け答えをする。その電話か数分後。再度、ノックする音が聞こえ、プロギオンが数名の少女と共に部屋に現れた。

少女たちは全員虚ろな瞳をしており、言われるがまま教祖の前に並んだ。

「教祖様、次回の『接待』に同行させる予定の信者たちです。試作品の『星の雫』を摂取させましたので、ぜひ一度祝福を授けて一度ただけますか?」

プロギオンの言葉に教祖は舌なめずりをし、少女たちを舐めまわすように観察をする。

「良いだろう。全員、私の寝室に連れて行きなさい。ところで…あの双子はまだか?」

「残念ながら『星の雫』の効果が薄いらしく、連れてきても抵抗するでしょう。ですが、

今しばしお待ちください。信者リラに命じて、より強力な『星の雫』を作成させています」

教祖はふむふむと鼻息を荒くし、粘着質な声を出し、例の双子を思い浮かべながらいやらしい笑みを浮かべる。

「あの双子が堕ちたら、『接待』には使うな。あれほど美しい容姿はそうはいない。私専用の人形として扱わせてもらう…おっと」

そこまでいうと、わざとらしく教祖は口をふさぐ。

「この可愛い信者の前で言うことではないなぁ?プロギオン?」

「おやおや教祖様…おわかりのくせに」

そう言うとプロギオンは、唐突に近くにいた少女のシャツの胸元を引き裂く。

白くまだ未発達の体があらわになるが、少女はまったく反応がない。

「この通り…何もわからないですよ」

「ふふ…そうだったなぁ?ではその子たちを寝室へ…ああ、ところで信者伊吹は広告塔を了承したぞ」

伊吹の名を聞くと、プロギオンは一瞬眉をひそめる。

「あの男は女癖が悪すぎます。悪影響に思えますが?」

どことなくイラついた様子のプロギオンを見て霞教祖は低く笑いながら、

「女に人気がある男が広告塔ということは、女どもの票がお前に入るということだぞ?

考え方次第であの男はいくらでも使える」

「さようですか…では、彼女たちを寝室へ連れていきます」

まだ納得のいってない様子のプロギオンは再度少女たちに命令し、部屋を出ていった。

教祖の下品な笑いが響く部屋。その戸棚の裏側にある小さな機械に誰も気づくことはなかった。


「バレているよ兄さん。女好きって」

「隠してるつもりないから大丈夫さ」

小夜の言葉に気取って答える伊吹。

三人は教祖の部屋につけた盗聴器で、先ほどの会話を聞いていたのだ。

「それにしても伊吹兄さんがここまでお気に入りだったとはね」

「ああ。機械の装着するのには楽だったが、何かにつけて部屋に呼ばれてなぁ…」

一夜の言葉に伊吹は思い出したくもないといった風に唸る。どうやら、頻繁に呼び出されていたらしくそのたびに機会を取り付けたものの、彼の気力を削ぐ結果となっていたらしい。すると、三人のスマホが同時に鳴る。どうやら外で調査をしていた兄達からだ。

「この間手に入れた『星の実』の調査結果がでたらしい」

「私が誉兄さんに渡したやつだね」

伊吹はこの間こっそり拝借した『星の実』を小夜に渡し、それを面会に来た代理人役の誉が受け取り調査に回していたのだ。

「やっぱりな。『星の実』の正体はぶどうを品種改良してつくった薬物だ。果汁や果肉はもちろん、皮まで高濃度の特殊薬物だってさ」

「特殊薬物?」

送られたデータを読み上げている伊吹に、一夜が聞き返す。

「既存する薬物にはどれも該当しないらしい。どうやら、独自で開発したらしいな。

効能は幻覚、幻聴、強い精神的依存性と酩酊感、判断能力及び思考能力の低下、心拍数の増加などの交感神経の興奮状態…なるほど、洗脳にはもってこいの効能ばかりだ」

「普段は希釈して、日食の間では原液飲ませてるわけか…」

一夜は『星の実』を伊吹から味を確認するように言われ、食していた。

その際にはっきりと、日食の間で飲まされた液体の味だと断言できたこともあり、『星の実』

の調査に踏み込めたのだ。

「さて…俺たちもずいぶん長居したことだし、さっさと続きをするか。小夜はリラの自室に行ってデータの削除。一夜。この気味の悪い果物の木。皆燃やしてこい。一応あと何房かは回収した後でな」

「わかったけど…伊吹兄さんは?まさかまた女の子と…」

小夜は必要な道具をそろえながら、伊吹に問う。何かを勘ぐっている妹を見ると、肩をすくめ、ふざけたように答える。

「それも良いんだがな…お前らここの教団好きか?」

その伊吹の言葉に双子は動きを止め、同時に兄を見る。無表情で怒りの満ちた目をしてただ一言。

「死ぬほど嫌い」

と、二人同時に呟いた。おそらく、こういった二人はあまり見ることができない。

それほどまでにこの環境を、気に入っていないのだ。しかし、伊吹はその返事をわかりきっていたかのように、静かに頷いた。

「だから、もう一個面白いこと仕掛けにいってくるよ。そっち頼んだぞ」


ありがとうございました。

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