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不死の六兄妹の仕事の話  作者: 柚木 命
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宗教施設潜入編~第七話~

誤字脱字は気づき次第修正いたします。

「…たくっ、なかなか無茶をするよ本当に」

「でもまぁ、仕方がないよね状況的に」

伊吹と小夜は、一夜の吐き出した血液と舌の先を処分しながら和やかに会話をしている。

舌の一部が無くなってしまっているためか、活舌が悪く聞き取りづらかったが日食の間での出来事は一夜から聞かされた。

「しかし…結局薬の正体がつかめなかったか」

汚れた両手を軽く払いながら伊吹はため息をついた。一夜は小夜から噛んでおけと渡されたハンカチを口から出すと残念がっている兄に対し、

「一滴でも採取したかったんだけどさ…如何せん目の前でガン見だぜ?」

と、舌を出し入れしながら話す。どうやら回復したらしいが、違和感が取れないのだろう。

顔をしかめて何度も確認をしている。

「その女、スピカって言ったか?なら今のところ逆らわなくて正解だよ。そいつ元刑務官だかでな、抜け目のない腕っぷしに自信のある女だ。目をつけられたら面倒なことになる。ま、とりあえず今日はいったん解散だな」

再度女性信者から得た情報を伊吹は思い出し、話した後三人は解散をした。

伊吹は自身の居住区に戻ろうと道を歩いていると、なにやら籠をもった女性信者数名が歩いてくるのが見えた。彼女たちは伊吹を見ると顔を染めなにやら、コソコソと話し始めた。

スマートな体つきで表向きは紳士的な性格の伊吹は、若い女性信者の間で人気であったのだ。

それを良いことに、いろいろと楽しんでいた伊吹は案の定彼女たちに近づいて行った。

「お疲れ様。何のお仕事してたのかな?」

笑顔で伊吹は二人に話しかけると、彼女たちはさらに頬を染める。

片方は長い髪を一つに結んだスレンダーな美人だが、少しきつい顔をしており、もう一人はグラマラスなおかっぱのたれ目だ。雰囲気の違う二人だったが、どちらも好みだと伊吹はさらに二人に近づくと、もっている籠に意外なものが見えた。

「…それはぶどう?なんでこんなところに?」

伊吹は籠の中に入っているつやつやとした紫色の果実を指さして、疑問をぶつける。

長髪の女はそれを聞くと媚びをうるような口調で答えだした。

「これは『星の雫』のもとなんですよぉ。この畑の奥で育ててるんです」

「『星の雫』?」

女の言葉を聞くなり、伊吹は一瞬声色を変える。しかし女たちはそんな様子に気づかず、さらに話を続ける。

「そうなんですよ。これは特別な種から育てられたぶどうで、教祖様が種に祝福を与えることでできるんです。その種を植えることができるのはリラ様だけなんですよ!」

「そうそう。私たちができるのは収穫だけなんです」

笑顔で相槌をうちながら伊吹は女たちの話を聞く。

なるほど。面白いことを教えてもらえたようだ。

隣にいたおかっぱの女にピッタリ密着をする。いきなりの行動に、顔を真っ赤にして戸惑う女に伊吹は耳元で、あることをささやき始めた。

「それさ、一粒食べさせてよ」

「え、だ、だめですよ、これはだって…」

「ダメなの?じゃあそっちの君は?」

つっかえながら断ると、その男はもう一人の長髪の女性を見て首をかしげて頼みだした。

「こ、これは聖なるものだから口にしたりなんか、」

「え~?でもこんなつやつやして立派なぶどう…美味しそうだしさ」

スッと今度は長髪の女性の肩に手をかけ、色気を含んだ声で話すと片手でぶどうを一粒つまむ。通常のぶどうよりも粒が大きく皮が固い。色も紫というよりは黒に近い色だ。

そしてそのまま二人が止めるのも聞かず口に放り込む。

果汁がはじけ口にあふれる。

その味に思わず眉をひそめる。舌とのどが痺れるような感触。

鼻をぬけるアルコールのような匂い。

「三人とも何をしているんです?」

その声にふりかえると、リラとプロギオンの二人が並んでたっていた。

相変わらず微笑みを浮かべているリラと、気難しい顔をしているプロギオン。対照的な二人は伊吹たちに近づいてくる。

女性信者二人が突然現れたリラたちに気を取られているうちに、伊吹は再度ぶどうの籠に手を入れて、果実を数粒隠し持つ。

「申し訳ありませんリラ様!伊吹さんが『星の実』に興味があると…」

おかっぱの女性が頭を下げながら慌てる。どうやらこれは『星の実』というらしい。

すると、リラは聖母のような笑顔で伊吹の前に立つと穏やかな口調で

「まあ、伊吹さん。あなたももっと輝きを取り戻せれば、こういった重要なお仕事につけますわ」と話した。

「精進します。リラ様」

伊吹はリラに負けず穏やかな笑顔でそう言うと、リラは女性信者に声をかけて立ち去る。

その際、信者の二人はなにやらこそこそメモをすると伊吹のそばにより、

「私たち同室なんですけど…窓を開けておきます」

と、耳打ちをしてメモをポケットにいれてきた。伊吹が返事する間もなく足早にさっていった二人を見送ると、背後から不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。

「ずいぶんとまあ、女性から人気だな?色男君」

「お褒めの言葉ありがとうございます。プロギオン様」

眉間にしわを寄せているプロギオンに、微笑で返すとさらに不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「言っておくが、楽園の教えは禁欲だ。あまり女性信者たちと必要以上に触れ合わないでもらいたいがね」

どの口で言っているんだ。と、思わず伊吹は口に出しそうになるが、言葉を飲み込む。

一通り小言を言うと満足したのか、プロギオンは本題を切り出してきた。

「霞教祖様が、夜の祈りの後に部屋へ来るようにとの事だ。失礼のないようにするんだぞ」

そこまでいうと、立ち去っていくプロギオン。その後ろ姿をみながら伊吹は先ほどのメモを取り出す。

部屋番号が書かれている。どうやら部屋は一階らしい。先ほどの信者たちの言葉を思い出しながら、思わずクスリと笑う。

「長居はできませんからね。楽しませてもらいますよプロギオン様」

隠し持っていた『星の実』を弄びながら、女好きの男は夜の準備のため、自身の居住区に戻っていった。

ありがとうございました。

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