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不死の六兄妹の仕事の話  作者: 柚木 命
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宗教施設潜入編~第六話~

誤字脱字は気づき次第修正いたします。

男性信者に囲まれながら一夜は廊下を歩いていく。畑のすぐそばの建物の二階から空中回路を渡った先にその部屋…日食の間はあった。

ちらりと横を見ると右頬を赤く腫らしている少年がいる。口を尖らせ、時折何か小声で不満をもらしながら一夜と二人、日食の間に放り込まれた。

室内は薄暗く、何本もの蝋燭の火が揺らめいていた。正面には小さな祭壇とこの部屋には不釣り合いなモニターが壁に飾られており、一人の女性が座っていた。

黒い髪を短く切った目元に傷のある女だ。

「来たか問題児どもめ。二人ともそこに座れ。今から聖なる儀式を始める」

女は二人を睨みつけると、中央に敷かれている赤い絨毯を指さす。

一夜はおとなしく中央に歩み寄るとそこへ正座をし、正面を見据えた。

妙にけばけばしく飾られている祭壇の上には、蝋燭と香炉が数個。そして陶器の瓶とカップが置かれている。

「早く座るんだ!これ以上の反抗は重罪だぞ!」

先ほど一夜が殴った少年は出入り口のそばで立ったまま動かなかった。

まだ反抗するつもりかと、呆れ半分に一夜は振り返るとおやっと表情を変えた。

先ほどの態度とはうってかわり、不安げな表情であたりを見ている。どうやら予想外の展開に怯えているらしい。

(意外と可愛いところあるじゃないか)

一夜はそう考え、思わず微笑を浮かべるが目の前にいる女は違うらしい。

あからさまにイラつき、それを隠そうとしない。再び女が口を開こうとする。

が、すかさず一夜は女の言葉を遮るよう手を少年の方に伸ばし、

「大丈夫。まずは座りなよ」

と、優しい声色で手招きする。先ほど自分を殴った人物とは思えぬほどの、穏やかな口調と表情に彼は少々面食らうが、その雰囲気にほだされたのかおずおずと一夜の隣に座る。

二人が座ったのを確認すると、女は鼻をならし祭壇にある香炉に火をくべる。

甘い香りがあたりをただよい、一夜の鼻を刺激する。

「私の名前はスピカ。魂に星の輝きを取り戻した人間だ」

二つ、三つと香炉に火がつけられる。もうもうと匂いがたちこめ、普通に呼吸することも辛く二人は咳き込む。しかし、スピカと名乗った女はそんな二人に構わず話を続けた。

「今から輝きを失い、鈍った魂を輝きに近づけてやろう。二人とも前を見るんだ」

モニターのスイッチが入ると、星座の映像が流れる。そのタイミングで音楽が大音量で流れだす。重低音が腹の底に響き渡る。キツイにおいと大音量の重低音。そして激しく切り替わる映像に思わず吐き気を催しそうになっていると、スピカは瓶からコップに何かを注いでいる。赤紫色の液体。『星の雫』よりも濃い色をしていた。

スピカはそれを二人の鼻先につきだす。そして一言、

「飲みなさい」

あきらかに危険を感じ取ったが、飲まないわけにはいかない。一夜はコップを受け取ると、

どろりとしたそれを飲もうとコップのふちに口をつけ、傾ける。

唇に触れた瞬間。一夜はそれを本能的に拒否しようとしてしまった。

今までの星の雫なんかよりも濃厚な薬物の味がしたのだ。とっさに隣の哀れな少年を見ると、すでに飲み干してしまったのかコップを片手にぼんやりとしている。

虚ろな目で目の前の映像を見続けていた。慌てて、声をかけようとしたがスピカの視線に気づく。冷たく、情のない目つき。この液体を飲み干すことは危険。だが、ここでこの女と揉めるのはさらに危険だ。一夜は意を決して一気に口にふくみ飲み干した。

のどが焼けるように熱くなり、口の中が痺れる。『アムリタ』に適応した体が危険を察知し解毒を開始しているのがハッキリとわかった。通常であれば問題はないはずだった。

だが、この環境がそうはさせなかった。

一夜は自分の思考がおぼつかなくなっているのに気付いた。息が荒くなり、体がふらつく。これは明らかなる洗脳だ。

薬や病原体には対応できるものの、一度すりこまれた洗脳を解くことは彼らとて容易ではない。必死に一夜は他の兄弟たちや任務のことを考える。意識をほかに移すことで、何とか抗おうとしていたのだ。が、スピカは二人の真ん中にしゃがみ込むと耳元でつぶやき続ける。

「『星の楽園』の教えこそ真実。教祖様だけが信じる道。逆らってはいけない。逆らってはいけない…」

(…やべぇな…しっかりしろ…しっかり…)

一夜の戦いは、一時間続いた。


小夜と伊吹は居住スペースの入り口で一夜の帰りを待っていた。

伊吹は腕を組み、落ち着かない様子であたりをうろうろし、しきりにあたりを見渡していた。すると、数人の足音が聞こえてきた。二人が信者たちにつれられ戻ってきたのだ。

二人ともおぼつかない足取りで入り口まで付くと、先導していた信者の男は二人に対して大声で怒鳴った。

「今後、このような不祥事は起こすなよ!いいか!!」

「はい…」

返事をしたのは共に連れていかれた少年だ。その隣で一夜は小さくうなづいただけ。

その目をみて小夜は背筋が冷たくなった。光も何もない。完全に意識を封じられた人間の目だ。信者たちがその場を去ると、もう一人の少年はフラフラと居住スペースに入っていく。小夜と伊吹は一夜に駆け寄った。

「一夜。大丈夫??」

「何をされた?返事をしろ一夜」

一向に呼びかけに反応しない一夜。兄と双子の片割れはその様子に、不安を感じ必死に声をかける。すると突然二人の手をとり、明後日の方向に早歩きで進みだした。

いきなりの行動に、伊吹と小夜はなすがままに進んでいく。そのまま再度畑へと向かい、

例のゴミ捨て場への小道を進む。目的地のゴミ捨て場にたどり着くと、一夜は二人の手を放し、少し距離をとりはじめた。焦れた伊吹は、一夜に話しかける。

「ここまでつれてきてどうするつもりだ。一夜、しっかり、」

「うげぇ…ごほっ」

伊吹がそこまで言うと一夜は急に、前かがみになり口から鮮血と共に何かを吐き出す。

べちゃっと音を立て、薄ピンク色の何かが一夜の足元に転がる。

口から大量に出血しながら、一夜は固まっている兄妹の方に顔を向ける。

眉間にしわをよせ、血まみれの口元から、先がなくなっている自身の舌を見せ

「……ひょういへぇ(超いてぇ)…」

と、呟いた。

ありがとうございました。

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