宗教施設潜入編~第五話~
誤字脱字は気づき次第修正いたします。
双子が潜入してから四日がたっていた。楽園の生活の基本は自給自足であり、毎日朝の祈りを終えたのち、畑に出て仕事をさせられる。畑といっても、家庭菜園に毛が生えた程度のものだが、広さがあるためなかなか労力がいった。
一夜と小夜は、じゃがいも畑の雑草を抜きながらちらりと向こうを見る。
白地に首元に金のカフスがついているワンピースを着た、豊満な体つきの女がいた。
まるでシスターのように頭をベールで多い、笑みを絶やさず浮かべている。農作業の指導者。リラと名乗っていた女だ。農作業の際は彼女の指示のもとで行われていたのだ。
「リラ様。こちらの畑の作業は終了いたしました」
「まあ、早いですね。助かりますわ」
信者の男が雑草で満杯になったゴミ袋を数袋足元に用意し、話しかけると相変わらず微笑を崩さずにリラは感謝の言葉を言った。そしてそのままくるりとふりかえると、
「ではだれか…このゴミを捨てに行ってくださらないかしら?」
と、周囲を見渡す。
すると、スッと一人の男がリラに近づいていった。
その男は柔和な笑みを浮かべながらゴミ袋を一つ持つと、穏やかに話はじめた。
「僕が行きますよリラ様」
「伊吹さん。ありがとうございます。ですが量が多いですよ?」
その男…伊吹はその言葉を待っていたかのように、双子を指さし言った。
「では、そこの二人に手伝ってもらいましょう。いいかな二人とも?」
二人はすぐに了承し、ゴミ袋を持ち伊吹の後についていく。
畑の横にある小道を十分少々歩いた場所に、ゴミ捨て場はあった。
小道を歩き、充分ほかの信者と距離を取ったのを確認すると伊吹が小声で二人に話し出した。
「昨日、兄さんから連絡がきた。こいつら、政党をつくるつもりだ」
「政党?」
その言葉に小夜が聞き返す。伊吹は頷きながら続ける。
「宗教政党をつくり、政界に自分の信者たちを潜り込ませるつもりらしい。そのための下準備も始めているようだ。その際に薬を使い、女性信者たちに無理やりご奉仕させている…まぁ、俺たちの仕事はあくまでも薬のデータの収集だけどな」
そこまで言うと、伊吹は改めて二人の顔を見る。
小夜と一夜は何かを決心しているようだ。それを見ると伊吹は心なしか口角があがる。
ゴミ捨て場につくと、各々持っていたゴミ袋を専用のボックスに投げ入れる。
「さて、そして薬のことだが。お前ら『星の雫』は飲んでいるな?」
伊吹はボックスのふたを閉めながら、二人の方に体をむける。
「毎日飲まされているよ。最悪な気分になるよまったく」
一夜は吐く真似をする。『星の雫』は毎晩行われている祈りの時間のあと、必ず信者全員服用させられていた。
「まずはあれだが、どうやらあれの上位版があるらしい」
「上位版?」
小夜が聞き返すと、伊吹は頷きながら唇に指をあてる。
再度あたりを見渡すと、小道を引きかえすように歩き出す。
双子は兄に慌ててついていくと、小道の途中で見えた建物を指さされた。
他の信者たちの生活スペースとは離れた場所にある、小さな建物だ。
「あの建物はな、ベガの間と呼ばれているらしい。若い信者たちの中でも特に信仰が強く楽園風に言えば、『輝きの強い』人間が集められている建物だ」
伊吹は建物の方を向きながら話を続ける。柔らかいくせ毛が風で少しゆれる。
「だがな、不思議なことに。そこに選ばれる人間は最初、かなり反抗的な問題児が多かったらしい。なのにだ、ある時突然従順になり頃合いを見てあそこにつれていかれる」
小夜は一歩前に出る。耳を澄ませると、建物のほうから何か聞こえてくる。
どうやら、祈りの時間を過ごしているらしい。
「ここでは、問題を起こした人間は一度日食の間につれていかれ、儀式をうける。そうすると、みんな驚くほどおとなしくなるらしい」
「じゃあ、そこで…」
一夜が聞くと伊吹は頷くと、再度歩き始める。
「みんな、帰ってきたら口をそろえて言うらしい。輝きを口にした…と」
来た道を帰りながら、伊吹は仕入れた情報を語る。そこまで聞き、ふと一夜は兄の横顔を眺めながら疑問を口にする。
「ていうか兄さん。よく短時間でここまで調査できたな」
それを聞くと、伊吹はとたんに胸を張り得意げな顔をする。
が、そんな様子をみて小夜はどこか冷ややかに、
「伊吹兄さんですからね。女の子からでしょ?」
と、言い放つ。
「女の子はどんな環境でも噂好きのおしゃべりさんだからね~まあ、だからこそ可愛いんだけどさ」
いろいろ楽しい思いをしたのか、思い出し笑いをして何やら呟いている伊吹を無視し、先に二人が進んでいくと畑の方から騒ぎ声が聞こえた。顔を見合わせると、双子はその騒ぎの方角へと走り出す。
先ほど雑草を抜いていた畑で一人の少年が、大声で何やら抗議をしていた。
道具があたりに散乱しており、成人の信者たちが周囲で諫めている。
しかし、少年は髪を振り乱しリラに抗議を続けていた。
「なんでこんな雑用ばっかり俺たちにやらせるんだよ!!おかしいだろうが!」
「これは輝きを取り戻す作業の一つなのです。全員で共同作業をすることで、」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言うなばばあ!!」
どんな罵倒にも感情的にならず、穏やかに説得をするリラだったが少年にとってはそんなこと関係なかった。しかし、周囲の信者たちは少年に対する怒りをあらわにしだしている。
「…日食の間にいけるのは問題を起こした信者のみ…か」
一夜は小さな声で呟くと、小夜の制止する声も聞かずに飛び出した。
遅れて駆け付けた伊吹がたどり着いたときには、すでに一夜は暴れていた少年を殴り倒し、日食の間に連行されていくところであった。
ありがとうございました。