表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の六兄妹の仕事の話  作者: 柚木 命
4/18

宗教施設潜入編~第三話~

誤字脱字は気づき次第修正いたします。

誉と別れたのち双子は、秘書の後を歩いていた。長い廊下と階段のぼったのち、空中回路へと出た。

ガラス張りの屋根がついたその空中回路からは、日の光が降り注いでいた。

「これから小夜君はデネブの間。一夜君はアルタイルの間で生活してもらう。そこには、君たちと同年代の信者が生活している。共同生活となるのだからしっかりルールを守るのだよ」

秘書の男が歩きながら早口で伝えてくる。男女で生活の場が別れているらしい。潜入済みの伊吹はデネボラの間だと言っていた。どうやら、性別以外でも成人と未成年で住み分けをしているようだ。

「わかりました。ええと…」

小夜が返事をしつつ悩むと、秘書はピタリと歩みを止めて二人の方をふりむく。

「プロギオンと呼びなさい。ここで強い星の輝きを持つ者には、教祖様からお名前を頂けるんだ。そうなれるよう、君たちも精進しなさい」

そこまで言うとプロギオンは、再度空中回路を進み始めた。そのやや傲慢な態度を見た一夜は、一言嫌味でも言おうと口を開いたが、すぐさま小夜が口をふさぎ、

「はい。プロギオン様」

と、従順な返事をした。一夜は小夜の手を口元から避けながら、少し睨む。

「いきなり反抗してどうすんの。様子見てからじゃないと…」

「そんなこと言っても腹立つだろうがあの態度…あれ絶対女にモテないタイプだよ」

小声で小夜が苦言を言うと、一夜も同じく小声で文句を言い出した。そんな小競り合いをしつつも双子は天空の間と呼ばれる聖堂に到着した。

聖堂内にはすでに信者たちが集まっており、全員白無地のコットンシャツを着用させられている。

どうやら一般信者の服装らしい。プロギオンのような星の輝き…もとい役職のついている信者は同じく白色のスーツだが、金のカフスで飾られていた。

中央には二人と同年代の青少年が集められていた。

様子を見るにこの子たちも新たな入信者たちらしい。全員、不安や不満を隠せないでいた。

双子もそこに混ざると、右に並んでいる信者たちの中に見知っている顔を見つける。

切れ長の瞳にややくせ毛の黒い短髪。スラリとしたスマートな体格。伊吹だ。

二人が見つめると、伊吹も気づいたらしい。微笑を浮かべ手で軽く合図をしてきた。

周囲の信者と和やかに会話している様子を見るに、どうやらうまくやっているらしい。

…周囲にいるのが女性信者ばかりなのが気になるが。

相変わらずの伊吹に若干呆れていると、信者たちの歓声が起こる。

聖堂の二階の中央にあるテラスに、黒いローブの初老の男が現れた。笑顔を浮かべ、威厳たっぷりに登場した男こそが、霞教祖だ。

「信者諸君、静粛に」

教祖は腹の底に響くような低音の声を張り上げる。その声に即座に信者は反応する。

「新たに星に導かれてきた少年少女よ。安心しなさい。ここは星の楽園。君たちの失くした輝きを再び取り戻す場。この私のもとで天の導きを学び、輝かしい星となるのです」

もっともらしく語る教祖。一夜はさりげなく周りを見渡す。

教祖の言葉に心酔している様子の信者たち。すると、盆をもった人間が数名現れた。

盆には小さなワイングラスが数個ずつ乗っており、中には赤紫色の液体が半分ほどはいっている。

「それは星の雫」

一人一つ配られていると、教祖が語りだす。星の雫と言われたそれは、ぶどう酒と似た匂いがする。

「それを飲み干すことでまずは一つ。星の輝きに近づけるのです。さあ、恐れることはありません。思い出すのです。輝きを…」

その言葉を合図に、配っていた信者が飲むことをせかしてくる。

一人、また一人と戸惑いつつ飲み始める。

小夜と一夜の番だ。ゆっくりとグラスを傾け、星の雫を口に含む。どうやら本当にぶどう酒らしい。もっとも、大量の薬物入りだが。

『アムリタ』に適応した彼らの体は、老いや死をはねのけるだけではない。

ありとあらゆる病原体や劇薬にも対応する。体にそれらが侵入してきた際、彼らの体は即座にワクチンの精製および解毒を開始する。そのためか、このような薬物入りの飲食物を摂取した際、体が敏感に反応するのだ。

(かなり強力だな…スコポラミン?いや違うな…もっと何か…)

(植物ベースなのはわかるけど…定番の朝鮮朝顔さんではないねぇ)

素知らぬ顔して飲み続けるが、ほかの少年たちは虚ろな瞳をしている。

(そりゃあ普通の人間には効果すごいよねこれは)

小夜が目で一夜に合図する。一夜も飲みながら、星の雫の危険性を感じ取っていた。

かなり強烈な幻覚剤だ。こんなもの飲ませられたら、通常の思考は難しい。

それに加えて、さきほどから重低音の音楽が繰り返し流され、大量の香がたかれている。

トランス状態になるにはもってこいの環境だ。星の雫を飲んでいない信者も、どことなく虚ろになっている。

もう一度、伊吹と双子が目をあわせる。先ほどの笑みはない。言葉を交わさずともお互いの考えはわかっていた。


――『星の楽園』は危険だ――と。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ