寄生虫編~第五話~
誤字脱字は気づき次第修正いたします。
被験者の一人がこめかみに穴をあけて倒れる。
琉偉は眉間にしわを寄せ、周囲を見渡す。だいぶ人数は減ってはきているが次から次へとわいてくる被験者たちに、うんざりし始めていた。咄嗟に入った検査室らしいこの部屋を覆いつくすような量の被験者だ。用意してきた銃弾も残り少ない。
どうにか一気に片付けれないものかと考えていると、近くの壊れた薬品棚からあるものがはいった瓶を見つける。
琉偉はそれを手に取ると、少し離れた場所で被験者を相手にしている弟に声をかける。
「誉、弾まだあるかぁ?」
兄を横目で見つつ、中年の被験者の頭をつぶしつつ
「あと一発ってとこだな」
と、低く答えた。その様子に満足した様子の琉偉は、瓶を弟の方に掲げると被験者達の集まっているちょうど中心部を指さし楽しげな様子で言い放つ。
「これ、そこに投げるからよ、うまく狙えよ?」
誉は瓶のラベルを確認すると一瞬驚いたように目を見張るが、すぐに同じように笑みをうかべる。
「後は…うまく隠れろよ!」
琉偉は思いっきり振りかぶると被験者たちの中心部に瓶を投げ入れる。
ガラスの割れる音が響き渡り、中身が飛び散った瞬間を見逃さずに誉はその場所を撃ちぬく。
その瞬間、あたりに爆発音が響き渡った。二人はとっさに近くのデスクをや本棚を倒し、その物陰に身を潜める。激しい爆発が数度おき、あたりに血や肉片が飛び散るのが見える。
ようやく、爆破が収まり二人が顔を出すとそこは未だに燃える炎と肉の焼ける臭いに包まれていた。
袖口で口元を多い、部屋を脱出するとようやく一息をつくことができた。
「しかし、マグネシウムの粉末なんて…なんの検査に使うんだよ」
誉が軽くスーツの埃をはらう。もはや埃どころではないもので汚れているのだが、気持ちの問題か、やや神経質そうに汚れを気にしている弟を見ながら、琉偉は肩で息をする。
「結構吸っちまったな…まあこの程度なら…」
軽く咳き込みながら廊下の先を見ると、明らかに異様な雰囲気の部屋があった。
鉄製の両扉なのだが、その周りの床は血痕が引きずられたような跡が無数にある。
そして何より彼が気になったのは、その扉の隙間から漏れる少量の白い煙たち。
二人がドアの前まで行くと、漏れているそれらが冷気であることがわかった。
兄弟は目を合わせると意を決したようにドアノブに手をかけ、若干凍り付いているドアを力づくでこじ開ける。
ドアが開いたとたん、刺すような冷気が二人に襲い掛かる。
今までいた場所がまるで暖かく感じるような寒さだ。一瞬のうちに五臓が締め付けられる感覚に陥った。
しかし、そんな異常な気温の中にいても二人がそれ以上に気に留めたのは部屋の中の異常な光景。
食堂であったであろう場所の中心に、小高く積み上げられた物体。
霜がつき、すでに凍って固まりかけているそれらの正体は死体たちだ。被験者のほかにここの職員たちだろう。白衣を着ているのから警備担当の制服を着ているものまである。
どうやら、死体を運んではここに積み上げているらしい。
誉は寒さに弱い兄の代わりに、近くに行き観察してみるとところどころ、無理やりはがれたような跡がある。
ふと思い立ち、小型ナイフで近くの死体の眉間を思い切り突き刺し傷をつける。
しばらくして、案の定口から先ほど見たものよりもさらに小さい寄生虫が現れた。
どうやら幼体らしい。弱弱しく口から這い出るとそのまま力尽きてしまった。
「何かわかったかー?」
出入り口から震える声で琉偉が声をかけると、誉は振り向き冷えた両手をこすりながら
今見た光景を伝える。
琉偉はそれを聞くと苦々し気に部屋を見渡し、寒さで出ずらい声を絞り出す。
「ここはあいつらの繁殖場ってことかよ…てことは、この寒さは死体を腐らせないようにするためか…」
「そのようだな。どうするこれ。そのままにしておくとまた動き出しちまうぞ」
誉は死体たちを指さし兄に尋ねると、何やら瓶を投げ渡された。
ラベルには『マグネシウム粉末』の文字。どうやら先ほどの瓶をもう一つくすねていたらしい。
さらに彼はマッチを投げると、白い息を吐き出しながら、
「燃やしちまえそんなもん。サンプルならほかでとる」
と、うんざりしたように言い放つ。それを聞いた弟は手慣れた手つきでマグネシウムをセットすると、出口まで戻り火をつけたマッチを投げ込む。
量を調節したせいかそこまでの爆発はおこらなかったが、盛大な炎が部屋を包む。
パチパチと嫌な音と臭いをさせ燃えるそれをしり目に、二人は部屋を立ち去ろうとしたその時、
「そこの二人…止まるんだ」
ぼろぼろの白衣を着た一人の男が、猟銃を片手に立ちふさがった。
ありがとうございました。