寄生虫編~第一話~
今回から新シリーズとなります。
誤字脱字は気づき次第修正いたします。
『お疲れさん。兄妹たち今回の仕事は…おい、顔色悪いぞ。どうした」
長男は、パソコン越しに見える兄妹たちの顔色を見て心配そうに声をかける。
特に顔色の悪い誉が苦々し気に口を開く。
「昨日、小夜が持ってきた映画が…なんというかインパクトすごくて」
「小夜以外の全員、夢に出てきたんすよ…エイリアン」
誉の言葉につけたすように、自前の白い肌をさらに蒼白にした琉偉が話す。
ホラー映画に強い伊吹ですら参ってしまったらしい。琉偉の後ろで伊吹は時折気持ち悪そうに呻いている。一夜に関してはパソコンの前にすらおらず、テレビの前のソファで倒れていた。
唯一、小夜のみが平然とパソコンの前に座っていた。長男はそんな小夜を見ると、クスリと笑いながら尋ねた。
『タイトルはなんなんだ?』
「えーと『エイリアン!謎の恐怖生物の襲撃!』ってやつです」
小夜の言葉を聞くと、さらに声をあげて長男は笑う。驚く兄妹たちを尻目に一通り笑うと
息を整えながら
『今度俺も見てみるかな』
と一言。
「マジでやめといたほうが良いですよ。地獄みたいな映画でしたってあれ」
そんな長男に対し、真剣な表情で警告する次男。そんな様子を見てさらに笑いがこみあげてくるのをこらえると、長男は口調を変える。
『ただそんな様子じゃ、今回の仕事はきついかもな』
それを聞き、一転して真面目な表情をする兄妹たち。
『今回の仕事、表向きはとある研究施設の調査。だが秘密裏に進めてほしいことがある
それは…』
長男の指示から二日後五人全員、某県の山道を車で移動していた。
道は狭く、少し運転を間違えると落ちてしまいそうながけの道を慎重に運転していく。
揺れの激しい車内は会話が少なく、全員が何かを考えているようだった。
長男からの指示は表向きは調査だといった。だが、本来の任務は一味違った。
『その施設はな、表向きは寄生虫の有効活用とその対処法なんかの研究をしているんだよ。
だがな、どうやら一人の博士がとんでもないの寄生生物を作り出してしまったらしくてな
どうやら手に負えなくなったしまったとのことだ。俺らに来ている情報はそこまでだ。
ただ正直、これはあくまでも上からの指示でな。現場は俺らの介入を望んではいないということを覚えておいてくれ』
一夜はトランクに積んだ荷物を一瞥する。
スポーツバックに大量に仕込んだ今回の荷物たち。これが使われることがないよう願っていると、急に車が停止する。
運転席にいる誉が急に崖の下を指さし始める。
目を向けると無機質な建物が見えた。おもむろに双眼鏡片手に琉偉は車を降りると、施設を観察し始める。
施設の入り口は厳重に管理されており、一筋縄ではいかなそうだった。
「荷物を隠すぞ」
そう一言良い、琉偉は車に戻る。おそらくだが、チェックが厳しいだろう。危険物は持ち込みすらできないかもしれない。
「どうやって隠す?厳しいボディチェックは確実にあるだろうし、金属探知機なんて使われたらアウトだ」
「あんなところの金属探知機なんてちょっと頭を使えば簡単に突破できる。ボディチェックはこいつを使う」
琉偉は後部座席の三人に黒い布に包まれた物を投げ渡す。
布を剥ぎ取ると全長40cmは超える大ぶりなサバイバルナイフだった。
伊吹がナイフを眺めると、琉偉は上着を脱ぎながら
「俺ららしい方法で切り抜けようぜ。若干荒いがな」
兄の言葉に、他の三人は首をかしげた。ただ一人、なにやら感づき、嫌な顔をしている小夜を除いて。
研究所に到着すると、すぐさま警備担当の職員が走ってくるなり身分証明を求めてきた。身分証明をすると車を降ろされ建物の中へと誘導される。入り口をくぐるとなにやら、機械をもっている職員たちに囲まれ、数人がかりのボディチェックが行われはじめた。
全員そろいの紺の制服を着ている。どうやらこういった警備を担当するスタッフたちらしい。五人は大人しくボディチェックを受けていると、金属探知機らしい機械がけたたましく次々と鳴り始める。
「申し訳ありませんが…こちらは持ち込めません」
そう言って職員は、琉偉の上着の下に隠されたものを指さす。どうやら、だいたい職員側は何を隠し持っているかは察しているらしい。
琉偉は上着から拳銃。ベレッタM92を取り出すと、一言。
「そっちが陥っている状況じゃあ、こいつは必要だと思うんだがな。身の安全を図るためにも一つぐらい持ち込ませてくれないか?」
と、交渉にはいるが担当職員は「許可できません」と即答する。
「博士の命令です。危険物は持ち込めません」
それを聞くと、琉偉はしょうがないと言った風にため息をつきベレッタを手渡す。
琉偉が手渡したのを確認すると、ほかの兄妹達も素直に拳銃を渡しだす。
「これで全員だしたよ。もういいだろ?さっさと教授に合わせてくれ」
最後に誉が拳銃を渡したのを見ると琉偉が職員に尋ねる。
担当した職員は頭を下げると淡々とした口調で話し始めた。
「はい。ご協力感謝いたします。これより博士の元へとご案内させて頂きます」
他の職員たちはが一歩下がると、目の前にいた担当が先陣を切り建物の中を進んでいく。
その後ろをついていく兄妹が、目配せしこっそりと微笑んでいたのはだれも知らない。
ありがとうございました。