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不死の六兄妹の仕事の話  作者: 柚木 命
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宗教施設潜入編~第九話~

今回で宗教施設潜入編最終話です。

誤字脱字は気づき次第修正いたします。

深夜、一夜は携行缶を片手に厳重に施錠された扉の前にたっていた。

二人と別れたのち例の『星の実』畑に侵入しようとしていたのだ。有刺鉄線に囲まれたその畑は、夜の暗闇と静寂に包まれている。

腰にぶらさげたポーチからロックピックを取り出すと、扉に南京錠に突き刺して動かす。

数分もしないで金属音を鳴らし、南京錠は地面に落ちた。

ギィっと耳障りな音を出しながら扉をあけると、大量の木とそこにぶら下がる『星の実』が見えた。

「…気持ち悪い」

無数に並んでいる不気味な果実たちを見て、一夜は忌々し気に呟くと乱暴に果実をもぎ取る。持ってきていた保管ケースに放り込むと、手短な樹木の目の前に立ち携行缶の中身をかけだす。マッチを取り出し火をつけようとしたが、ふと何かを思いついたのか再度ポーチをあさりだすと、小型の細長い缶を取り出した。

「生木だし、こいつもあったほうがいいだろうな」

と、独り言を言いながら中身の粉を樹木にふりかける。マッチに火をつけ木の根元に放り、その場を立ち去ろうとした時だった。一夜の背後から爆発音が響いた。パラパラと木片が頭の上にふってくる。彼はさび付いた人形のように、ぎこちない動きで後ろを見る。

先ほど液体と粉…ガソリンと火薬をぶちまけた木が大爆発を起こしていたのだ。

木はいまだ爆発音を何度か響かせ、周囲の樹木を凄まじい勢いで燃やし尽くしている。

建物の方から警報が鳴りだしているのが聞こえた。

一夜は伊吹に言われた「なるべくすぐにバレないように、少しずつ燃やせ」という指示を思い出し、目の前の悪夢のような光景に頭を抱えた。

一夜が大火災を起こす数十分前、小夜はリラの自室に忍び込んでいた。

どうやら今日は居住スペースでの宿直当番らしい。簡単に忍び込めた。電気をつけず、デスクにあるパソコンを開くとパスワードの場面になる。

彼女は一夜からロックがかかっていた場合にと渡されたUSBを差し込み、中に入っているデータをダウンロードする。ダウンロード完了の文字とともにあっさりとロックが解除され、ホーム画面が目の前に現れた。

小夜はあまりにも簡単すぎる作業に、あっけにとられた。

「どういう仕組みなのこれ…どんなウイルスなの?てかウイルスなのこれ?」

双子の妹は片割れの作成したウイルスデータ入りのUSBを眺め、若干の恐怖を感じながら言った。

気を取り直し、ファイルデータをあさり『星の実』に関するデータを探し出すとそれらをすべて削除し始めた。小夜が最後のファイルに手をかけたとき、突然部屋の明かりがつく。

驚いた小夜がドアの方を見ると、珍しく笑顔が消えたリラが立っていた。

怒りと悲しみが入り混じった表情を見せているリラを、まっすぐに見据える小夜。

そんな小夜を見て、リラが口を開く。

「スピカが、あなたたちが怪しい動きをしていると言っていました。私はそれを信じていなかったのに…なぜこんなことを?共に輝きを取り戻そうと言ったじゃないですか!」

意外な人物の名前を聞き、少々面食らうがそんなことはおくびには出さずに小夜は答える。

「こんな薬を使って輝きを取り戻す?洗脳する。の間違いでしょうリラ様」

「あなたは何か勘違いしているのです。教祖様を信じなさい。信じる心を忘れなければ希望は見えます」

説き伏せるように語るリラの瞳を無言で凝視する小夜。その様子にリラはたじろぐ。

そんなリラを見るなり小夜は一言。

「嘘つき」

と、淡々と言う。その言葉にリラは顔を赤くする。

「嘘つきですって!この私を嘘つき呼ばわりするんですか!!」

そして彼女には珍しく怒りの感情を露わにして小夜に問い詰めだした。

しかし小夜は顔色一つ変えず、相変わらずリラの瞳を見つめたまま口を開く。

「あなたは教祖を信じてなどいない。あなたは自分の農学の知識をいかに使えば金を稼げるか、そして自分をコケにした学者連中に一泡ふかせたい…その思いだけでここまでの事をしている。そんなに大学に残れなかったのが悔しかった?そんなに自分の研究を認めさせたかったのなら石にかじりついてでも残ればよかったのに…まあでも、こんな危険な品種改良、普通じゃ認められないけどね」

それは、リラが隠し通していた過去だった。

なぜこの少女はそれを知っている?

なぜそこまで見抜いている?

「…調べたのね?」

「いいえ。調べてなどいません」

リラが苦し気に一言聞くと、小夜は即否定をする。

「ただ、見えただけです。貴方の中が」

小夜がそこまで言うと、外から低い爆発音がする。驚いた小夜は窓まで駆け寄り、カーテンを乱暴にあけると、そこには真っ赤に光る畑が覗けた。

言葉を失い唖然としていると、後ろからリラが悲鳴を上げる。

「私の畑が!私の研究が!!いやあああああ!!!」

そう叫んだかと思うと部屋を飛び出していった。部屋に残された小夜は、すぐに一夜の元に向かおうとしたが、先ほどのリラの言葉を思い出す。

『スピカが貴方たちが怪しい動きをしていると言った』

すぐに彼女は無線機を取り出すと、伊吹へと連絡をとろうとした。

一方伊吹は、本部のガス管の前でその爆発音を聞いていた。

居住スペースのガス管に細工をしたのち、こちらに移動したのだが予想外の爆発が起きたらしい。一夜が何かミスをしたとすぐに察した彼は、すばやく作業を始めようと、工具を取り出すと、後頭部に何か固いものがぶつけられる。

いきなりの衝撃に思わず低い声を出すと、さらに続けざまに数発、頭をぶたれる。

そのまま地面に伏せると大量の血液が流れていることに気付いた。

殴った人物は荒く息をして、そばに立っている。

「…裏切り者が。死をもって償え」

どうやら殴った凶器らしい警棒で乱暴に顔を向かせられると、短髪の目元に傷のある女、スピカがその場にいた。冷たい目でこちらを見ている。どうやら殴ったのは彼女らしい。

瞳だけ動かし彼女を見ると、気づいたらしい。もう一度警棒をふりあげると、

「まだ生きていたか。汚らわしい男め」

と、伊吹の頭をさらに殴り始めた。スピカの凶行が終わるころには、警棒は赤く滴り彼の頭はぶよぶよに柔らかくなっていた。

スピカは肩で息をしながら、伊吹の死体を見下ろす。すると、伊吹の腰にセットされていた無線機から女の声がし始めた。

『もしもし?伊吹兄さん?スピカが感づいて動いているかも!気を付けてください!

あと、一夜君がヤバいことしてる!!どうしようこれ!!』

スピカは乱暴に無線機をとると、耳を当て確認をする。

「なるほど…やはりあの双子もグルか」

憎しみを込めたように言うと伊吹の死体に背を向け二人のもとへ行こうとする。

「すぐにでも同じように始末を…!?」

いきなり背後から自身の首に巻き付けられた腕に驚き、言葉を失うスピカ。

その背後から先ほど殺したはずの男の声がした。

「さすがに、いきなり背後からっていうのは無しですよスピカ様?せめて可愛らしく抱き着くとかなら大歓迎ですがね」

「お、お前なんで!?」

頭の血を空いている方の手でぬぐい、余裕な顔で話しかける伊吹に驚きを隠せないスピカ。

当たり前だ。普通の人間ならとっくに力尽きている。しかし、伊吹は相変わらず飄々とした口調で続ける。

「ちょっと訳アリでしてね…僕らを殺すのは一苦労ですよ?」

そういうと素早くスピカの首を締め上げる。スピカは抵抗の甲斐なくそのまま気絶させられ、力なく倒れる。伊吹は気を失ったスピカを近くの床に優しく、横にするとそのまま無線機を取り返し妹に返事をする。

「やあ、小夜。スピカなら大人しくなったよ。まあ、俺も一回死んだけどな」

『伊吹兄さん!一夜君が!』

かなり慌てた様子の妹を落ち着かせるように伊吹は語りかける。

「正直、俺の仕掛けがいらないくらいのことしたな一夜は。今行くからこのまま兄貴たちと合流だ」

そう言うと、双子と合流するべく走り出した。まだ頭の傷は回復しきってはいないが、そうは言ってられない。二人は燃え盛るぶどう畑を、有刺鉄線の外から眺めていた。

その周囲を信者たちが消火器片手に走り回っていた。伊吹は並んでいる二人の隣に並ぶと、ぽつりと一言。

「盛大だな」

とだけいった。一夜はうな垂れると、兄の顔色を確認しながら申し訳なさそうに話し出した。

「…ガソリンの揮発性がここまでなんて思わなかったんだよ。それで火薬も一緒に…」

「火薬まいた時に爆発しなくてラッキーだな。火だるまになってたよ。折角の俺の仕掛けも本部に仕掛けるひまもなかったぜ。まあ…いいか」

一夜の肩に手を置き、慰めるように言うと小さなスイッチを取り出す。

おもむろに伊吹が真ん中のボタンを置くと、居住スペースの方から爆発音と悲鳴が聞こえる。あちこちで次々と小規模な爆発が起き、信者たちが逃げまどっているのが見えた。

「ガス管にちょっとな。居住スペースがダメになったら、さすがに未成年の信者は帰宅になるだろうしな。それにここまで建物も畑もダメになったら、しばらくまともの活動できないだろう。」

遠くから消防車とパトカーのサイレンが聞こえる。どうやら、さすがに通報されたらしい。

「今まで教団内に介入できなかった連中も、これでおおっぴらに捜査できるだろう。少なくとも、政治活動なんてしばらくはできないだろうな」

伊吹はそういうと、教団の外で待っている兄たちのもとへと歩いていく。

「いい気味だよ本当」

「さっさと帰って休もう。もうこんな所うんざり」

双子は疲れたように話しながら兄の後ろをついていく。

『星の楽園』の霞教祖とその幹部たちの逮捕のニュースが流れたのは、彼らが帰宅した数日後の話だった。

ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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