Revive memory‼︎
どこを見ても、土しかなかった。原野というべきか。その土は湿っていて、とにかく冷たかった。門の外へと一歩踏み出す。
「……」
俺はこれからどうすればいいんだ。冷たい風が吹く。そして、門の前で立ち尽くす。
「久しぶりだな。天月要」
「誰だ!?」
声のした方向を振り返ると、黒ずくめの格好をした、メガネをかけた男が壁に持たれかけていた。だが、俺はこいつを知らない。なぜ俺の名前を知っている?
「覚えていないのも当然だろうな。なんせ、お前は"光ノ宮グループ"により記憶を消されているのだからな」
記憶を消されているだと?じゃあ、俺が持っていた違和感の正体はそれだったということか?というか、今の現代にそんな技術があるのか?頭の中にクエスチョンマークがたくさん浮かぶ。
だが、こいつなら何か知ってるかもしれない。
「光ノ宮グループ?光ノ宮学院とは違うのか?」
黒ずくめのメガネの男は壁から離れ、俺の近くに寄ってくる。
「光ノ宮グループは、光ノ宮家が作り出した財閥グループだ。そのグループの中に、光ノ宮学院はある」
難しい話をする男。財閥付属ってことか?それにしても、記憶を消されているのは、なんとなく察してはいたが、なんか消されたことがわかると気持ちが悪いな。
「やはりか。パーセントでいうと、人生の1パーセント未満しか忘れていない気がするが、それは大事なことで、忘れてはいけない思い出だった」
「あぁ、そうだ。お前はそれを覚えていてはいけないんだよ」
こいつのことを覚えていないのも消されたから?それが大事なこと?いや、違う。その大事なことは、俺にとって、今後の人生を大きく左右する出来事だったはずだ。
「生徒会長から連絡があって来てみたが、まさか、今回の被験体が早速逃げ出すとはな」
被験体……?ああ、俺のことか。そして、生徒会長とは有栖川健一郎のことだろう。まさか、もう俺が逃げ出した情報が伝わっていたとは。
「そりゃ、ご苦労様で」
「今回は見逃してやるが、今後は門の外には出るなよ。お前は人類の希望なのだから、逃げ出してもらっては困る。わかったら早く、学院に戻れ」
外に出れば、なにもない更地。学院にいれば、女装男子の群れ。まだ、学院にいた方がマシってことかよ……
「それで、お前は何者だ?」
黒ずくめのメガネの男に聞く。こいつが誰だろうが俺には関係のない話だが、こいつを忘れているということは俺の記憶に関することだ。だからこいつのことを知らなくてはならない。
「ただの光ノ宮グループと光ノ宮学院の関係者だ。名乗るものではない」
当然、こいつは生徒でもなければ多分、教師でもない。じゃあ、有栖川の言っていた関係者っていうのは、生徒と教師だけではないのか。
「いや、名乗れよ」
「スバルだ」
「名乗るのかよ」
スバルと名乗る男はその場を去ろうとする。結局、なんだったのだろうか。
「ついでだ。あの時、お前が落としたものだ」
スバルは俺のほうに一度振り返る。そして、胸ポケットに手を入れ、あるものを取り出し、俺に投げた。それを俺は受け取る。
「イルカのストラップ?」
水色の可愛らしいイルカのストラップだ。頬がピンク色なのがまた可愛らしい。こんなもの、持ってたんだな。
ピキッ
ものすごい頭痛とともに、記憶が蘇る。頭がかち割れそうなくらいの頭痛。俺はとっさに頭を抱え込んだ。
「あぁーーーーーッ!!」
黒ずくめ……骨折……告白……デート……彼女……
頭の中に、いろんな言葉が出てきて交差する。これで全てを思い出した。
俺にはこころという彼女がいて、あの夜、こころに別れてと告げられた。そして、黒ずくめの男たちに囲まれ、俺はそいつらを倒した。だが、一瞬の隙をつかれ、この男、スバルに気絶させられた。
「どうした!?大丈夫か!?」
スバルは頭痛を起こした俺を見て、こっちに駆け寄ってくる。俺はゆっくりと目を開けた。
「お前、あの時俺に襲いかかってきた黒ずくめだな」
「なん……だと……思い出したのか!?」
スバルはかなり驚いていた。自分でもなにが起きたのかはわからない。だが、あのストラップが引き金となり、記憶が蘇った。
「そんなことよりも、俺はあの時、お前に両腕と首の骨を折られたはずだ。なのになぜ、俺の体はピンピンしている?」
首の骨なんかが折れたらまともに動くことさえできないはず。ましてや、リハビリすらもした覚えないぞ。
「それも、光ノ宮グループによって治されたものだ。光ノ宮グループの作った都市エリアは、全てにおいて発展しているからな」
骨折すらも治せる医学……光ノ宮グループは、ただの財閥グループではないことはわかった。この医学が世界中に広まれば、不治の病も治せる未来が来るのかもしれない。
「そんなことはどうでもいい!緊急事態だ!今すぐ、学園長に連絡を……!!」
スバルは急いでスマホを取り出す。記憶が戻ると、そんなにやばいのか?記憶……?
「おい!今日は何日だ!?」
俺はあの時、こころを向かいに行こうとしていた。だが、こいつらに邪魔をされたせいで行けれなかった。だったら、行かなきゃならないだろ……!こころの元へ……!!
「なんだまた!俺は今忙しいんだよ!」
スバルはでスマホを触っており、電話をしようとしているのがわかる。だが、こちらもそれどころではない……!
「いいから答えろ!」
「うるさいな!9月1日だ!!」
9月1日……俺が誘拐された日は、8月19日。あれから約二週間も立っているだと!?
「もしもし、学園長!!例の被験者が、記憶を取り戻したようで……」
スバルは電話の方に集中して、こちらには気づいていない。
今なら……!!
俺は、全速力で走り出した。どれだけ走っても、土しか見えない。だが、俺はここから出て、こころと話をしなければいけなかったんだ!待ってろよ、こころ!!今からお前の家行くから――
バンッ
「あ……」
あれ……身体が動かない……右肩を見ると銃弾のようなものが命中した。出血もしている。方向からして、スバルが撃った……?
「はぁ……はぁ……お前が逃げるから悪いんだ……」
微かに、スバルの声が聞こえる。だが、そのあとの言葉はあまりよく聞き取れない。というか、目がかすれて……
「ここ……ろ……」
どうも、Trap High school‼︎の作者ゆいたんです!光ノ宮グループの力はすごいですね!今後、光ノ宮グループの謎も解けていくころだと思われます!2度にわたり、謎の黒ずくめのスバルに攻撃された要くん。果たして、彼は無事なのでしょうか!?一様言っておきますが、これバッドエンドではありませんよ!!