Project start‼︎
さて、まずは何から聞こうか。俺は、有栖川に目線を合わせ、真剣な眼差しで口を開く。胸のことは……まあ、許すとしよう。
「まず、学園長が言っていた被験体ってなんのことだ?」
体育館での話の時、学園長の口から被験体って言葉が聞こえた。学園長だけじゃない。他の生徒も知っている様子だった。
「被験体とは、光ノ宮学院創立10周年を記念して、普通の高校生を1名、光ノ宮学園に入学させるといったものですわ」
それに選ばれたやつ、なんて可哀想なんだ……って、話の流れからして俺なんだろうな。
「そして、それに選ばれたのが、要さんというわけですわ」
やっぱりか。なんて迷惑な話なんだか。だが、俺はここに来るまでの記憶はない。誰かとなんらかのやりとりをしたときから記憶が曖昧なんだ。それに、無理やり入学させるなんて、こんな強引なやり方犯罪でしかないだろ。まあ、ここで怒っていても仕方がない。まずは、情報を聞き出すことが最優先だ。
「被験体ってことは、俺は何かの実験にされるのか?」
「されるというより、すでにされていますわね」
「すでにされている?」
俺がここに来た瞬間からすでに実験は始まっていたということか?有栖川はブラウスのボタンを締め始めた。それと同時に、一旦深呼吸をし、口を開く。
「少子高齢化が進む、この社会。高齢者の割合か増え、子供の割合だけが減っていく……それを打破するために始まったのが、"男の娘妊娠計画"ですわ」
「……」
ん?今、変なのが聞こえたんだが・・・?男の娘妊娠――はい?
「悪い有栖川、もう一度言ってくれるか?」
「男の娘妊娠計画ですわ!」
なぜか嬉しそうに言う、有栖川。いや、俺の聞き間違いかと思っていたが、そんなことはないようだ。
「男の娘妊娠計画ですわ!!」
声を張り上げて再び言う。
「男の娘妊娠――」
「だーーーっ!聞こえてる聞こえてる!それで、どういう計画なんだ?」
自然と俺も負けずと声を張り上げていた。男の娘妊娠計画……驚きもあるが、俺の性格上、興味本位というものがあった。
「言葉通りの意味合いで言えば、男の娘が妊娠するための計画ですが……」
まあ、そうだろうな。いや、人体的にありえない話なんだけど。男の娘が妊娠だあ?馬鹿馬鹿しい。俺は非科学的なものは信じないタイプなんで。
「それと被験体とどう関係があるんだ?」
再び、問い詰める。あえて、男の娘がなんで?とは聞かないでおこう。
男の娘が妊娠……ってのはわかった……いや、わからんが。それと被験体は直接的には関係ないはずだ。
「何を言っていますの?関係ありますわ!大ありですわ!!」
「俺は本当に、何をされるって言うんだ?」
人体の解剖とか、注射を打ち込むとか言い出したらたまったもんじゃない。というか、人体実験は法律で禁止されている。おそらく、それはないだろう。
「あなたには、この光ノ宮学院に通い、恋をしてもらいますわ」
だが、思っていた言葉とはある意味もっと過酷なものだった。ここって確が生徒の男女比率が10対0だよな……そんな中で恋をしろと?
「ふざけるな!こんな、男だらけの学校で恋だなんて、できるわけないだろ!!」
当たり前だ。男の自分が目を覚ませば知らない学校にいて、そこは男子校で、そんな中、恋をしろだって?
「いいえ、してもらいますわ!」
「嫌だね!」
「してもらいますわ!」
「いーやーだ!」
謎の攻防が続く。
「するって言うまで、この部屋から出ません!」
「勝手にしろ」
「え……いいの……ですか……?」
有栖川は視線を俺から逸らす。そんな仕草に少しドキッとしてしまったり、しなかったり……いや、ないな。
「やっぱりダメだ」
「えー!いいって言ったじゃないですか!?」
顔を膨らませてきたぞ、この男。ほんと、なんなんだこいつ……
「適当に返事をしただけだ」
「じゃ、じゃあ……要さんのためになんでもしますわ……」
その言葉につい、生唾を飲み込んでしまう。なんでもって……あのなんでもだよな……
「な、なんでも……」
そして、有栖川は再びブラウスのボタンを外して、俺に谷間を見せて近づいてくる。
「要さんの気持ちのいいことしてあげますわ……」
「気持ちいいこと……か……」
一体、どんなことだろうか……あんなことやこんなことだろうか……
それなら、いいか……
「って!だからお前は男だろうが!!」
「えー!作戦失敗ですわ……」
有栖川は、うつむきながら、ブラウスのボタンを再び締める。色仕掛けでもしようとしたのだろうか。まじで何がしたいかわからない。
「とにかく、男との恋愛なんて俺はごめんだ」
「あ、忘れていましたわ。恋はしなくても良いものでしたわ」
有栖川はにっこり笑った。
そして、俺の中で何かが切れた。
「からかうのもいい加減にしとけ。そろそろ怒り狂うぞ」
じゃあ、さっきの茶番はなんだったんだよ?もしかしてこいつ、俺で遊んでるのか?
「怒った要さんも素敵かもしれませんので見てみたいのですが、今は計画の内容を話さなければいけませんわね」
「話を晒したのは、お前だろ」
「要さんには、この学院の生徒たちと仲良くしてもらいますわ」
仲良くするだと?俺はすぐ帰るっつーの。
「なんでだよ?」
「結論から言いますと、男の娘と仲良くなった男性は、果たして男の娘と恋愛できるのか!?という感じですわ」
なんだその、頭のおかしい実験は。要は、その実験を俺がやり、男と仲良くなって恋に発展しろと……いやいやいや!?
「そいつらと関わることには変わりないのかよ」
またしても興味本位で聞いてみる。
「当然ですわ。男の娘たちといろんな意味で触れ合った時の感情をデータ化して記録させてもらいますわ」
いろいろな意味で触れ合うって、コミュニケーション的な意味だけではなく、身体と身体の関係……おぉぉぉぇぇぇぇぇ……!!
「そして、学院生活が終わるまで、3ヶ月に1回、要さんのデータを更新させてもらいますわ」
「それはどうやって更新するんだ?」
別に、仲良くしようとは本気で思っていない。俺はこの学院に入るとも言っていないし、すぐに帰るつもりだ。
「都市エリアにそちらの設備が整っておりますので」
また、よくわからない単語が出てきたぞ。
「そういえば、都市エリアについての話をしておりませんでしたわね」
しなくていい!しなくていいから!!
「都市エリアには、先程説明した、要さんのデータを更新する研究室の他にも、乙女たちが日常生活に飽きないように、コンビニやデパート、ゲームセンターまで、なんでも揃っておりますわ」
乙女たちというのは、ここの生徒のことだろう。というか、もう頭が追いつかない。
「どれも、光ノ宮学院の関係者しか使えないようになっておりますので、ご安心してプライベートも楽しめるようになっておりますわ」
関係者というのは生徒や教員のことだろう。学院生活とプライベートで分かれているということか。楽しそうではあるな。
「先程、東京ドーム53個分の敷地面積と言いましたが、こんなに大きな面積を誇っておりますが、本当の意味では、その6個分ぐらいしか学院に当ててませんのよ」
それでも、十分でかいよ。そもそも、この話が本当かどうかもわからない。
「残りの面積は?」
「その残りの4分の3程度が、都市エリアというわけですわ」
4分の3?学校の面積を除いて4分の3。残りの4分の1たりない。
「4分の1は?」
「現在、開拓中なので、そちらが光ノ宮学院の外につながっておりますわ」
おかしい。やっぱり、明らかにおかしい。俺の知る限りでは、土地は日本のどこにもない。
「ここはどこなんだ?」
「光ノ宮学院ですわ」
「それは知っている。日本のどこにあるかと聞いているんだ」
そもそも、日本じゃないかもしれない。海外か?宇宙か?それとも異世界か?わからないことだらけだ。
「どこでしょうね。ふふっ」
またこの笑みだ。こいつ、絶対に何か隠してるだろ。
「知ってるんだろ?」
「ひ・み・つ、ですわ」
有栖川は、唇に人差し指を当ててウインクをする。考えれば考えるほど奇妙な話だ。
とりあえず、一旦考えないようにしておこう。
「それでは、編入の手続きをしますので、学園長が学園長室でお待ちしておりますわ」
「待て」
「はい?」
はい?じゃねえよ!ふざけたことばかり言いやがって!
「勝手に話を勧められてるところ悪いんだが、俺はこんなところに入るなんて一言も言っていないぞ。てことで、俺は帰るからな」
無難な対応だ。こんなところにいたら頭がおかしくなる。さあ、さっさと帰って――
「残念ですが、それはもう手遅れです」
「え?」
有栖川は真顔で言った。手遅れ。こいつは今そう言った。何が手遅れなのか……俺の思考は理解していなかった。というか、その時の俺は理解したくなかったのだろうか。
「だって、光ノ宮学院と要さんとの間では、"ある取引"がありますのでそれを破ると大変なことになりますわ」
「ある取引?俺はそんな取引をした覚えはないぞ」
本当に身に覚えはなかった。もしかすると、俺の知らない間に、何かが起こっているのか?記憶のこともそうだ。誰かとやりとりをしたらいつのまにかここにいた。どうなってるんだ?
「あなたはすでにこの学院に入学したも同然です。それは、今あなたが持っている生徒手帳が証拠ですわ」
「まあ、いい。なんとでも言え」
こんなもの、あとで捨てるからな。
「あなたにはここで、2年半の学院生活を送ってもらいますわ」
「ちょっと待て!2年半だと!?」
2年半?2年半こんな学校にいろってことか?冗談じゃない!そんなことしてたら、せっかく推薦で行けるはずの志望校の大学にも行けなくなるだろうが!
「はい。要さんに不自由はさせませんわ。この学院での学費の免除もされますし、都市エリアでもプライベートも楽しめますわ。それに、将来の進路もご心配なく」
絶対進路なんてろくな学校に行かせやくれない。この推薦は、元いた学校で取れた推薦だ。
それに、さっき言っていた日常生活って、そういうことかよ……というか――
「不自由しかないだろうが!なんでこんな女子生徒が一人もいない学校に入学されるんだよ!」
有栖川は口笛を吹いて全く聞いちゃいない。こいつは知らないのだろう。俺の苦労を……!聞かせてやるよ……!俺の1年半の苦労を……!!
「俺の苦労はなんだったんだよ……!あの中学2年生の夏休みから始めた受験勉強は!?土日や大型連休をほぼ全て潰した意味は!?充実していた生活はどうなるんだよ!?俺は……俺は……」
気づいたら、床に手をつき、涙をこぼしていた。
充実?俺はどうして充実していたと思った?思い出せない。なにか……なにかを忘れている。まるで、俺にとっての都合のいい記憶だけを消されているような。
「そんなこと、知ったことではありませんわ。この学院があなたの青春や未来の全てですわ」
「鬼かよ!?」
あははっ……無意味……無意味だったのか……今の俺にはそんな言葉がお似合いだ……
「それに、今私たちがいるのは、光ノ宮学院の寮ですわ。だから、寮生としても、学院に通ってもらいますわ」
「……」
呆れてなにも言い返せなかった。だが――
「それに、この学院から外へは抜けれませんわ。すみません、長話が過ぎましたわね。それでは、学園長室にご案内しますの――」
ガチャッ
俺は部屋のドアを開け、寮とやらを出ることにした。
「って、要さん!?」
有栖川の制止も聞かずに走り続ける。こんなところにいたら、頭がおかしくなる。逃げないと……逃げるんだ……!!
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
外に出た。寮だけでこんなにでかいとは……
しばらく道に沿って走っていると、門のようなものが見えた。おそらくあれがこの学院の正門。門にたどり着き、それを力一杯両端に分ける。
「ふあーーーーーっ!!」
ギーーーーーッ
血管がものすごく浮かんできた。
だが、これで門が開いた。
これで……これで俺は自由なんだ……!!
「なんだよ……これ……なんの冗談だよ……」
門の外はなにもない更地だった。
どうも、Trap High school‼︎の作者ゆいたんです!今回は少し長くはなってしまいましたが、プロジェクトの内容が伝えられて良かったです!このプロジェクトの内容、実は、このタイミングで伝えようか、物語の最後らへんで伝えようか悩んだんですよ!でも、何でもかんでも楽しみをとっておくのもよくないと思い、このタイミングで伝えることにしました!次は、どう物語が動くのか楽しみですね!それではまた次回!!