「魁」は「さきがけ」って読むんだよの巻③
「一般的な『帰宅バトル』のルールが、目的地まで帰るタイムの速さを競うものだというのは当然知ってるとは思うけど」
(知らないよ……)
「昼休みの間で本当に帰宅し、学校まで戻ってくるのは流石に無理だから……この部室からお互いの教室に戻るまでのタイムで勝負しない?」
「えっ……いいんですか? ここ、3階ですけど」
桃がそう疑問を呈するのも無理はない。
白百合女子高校の校舎は全部で三階建てであり、1階が3年生、2階が2年生、3階が1年生のフロアになっている。
帰宅部の部室と桃のクラスは同じ3階にある。それに対して田中のクラスは1階、つまり部室から2フロア分下らなければならないのだ。
「流石にハンデをあげないと。かわいそうだし、そもそも勝負にならないでしょ」
「…………」
「どう、桃ちゃん?」
桃は心の中で、自分と田中の条件を比較していた。
部室と自分の教室はどちらも3階の端と端にあるが、それでも2、30秒ほどダッシュすれば移動可能な距離だ。
一方の田中は、2フロア分の階段を下り、さらにそこからやはり校舎の端の方にある自分のクラスまで戻らねばならない……どう考えても1分程度掛かるだろう。
ならばこちらが有利────そう判断するまでに時間はさほど要らなかった。
「はい、それでいいです。
……でも、私が勝ったら約束はちゃんと守ってくださいね」
「ええ、ちゃんとイケメンを紹介してあげるわ」
「ち、違います! もう私に付きまとわないって方ですよ」
「あぁ、そっちね。いいわよ! 私に二言は無い」
「絶対勝ってくださいね先輩! あんだけ厳しい特訓されて試合出られないなんてオチ嫌ッスから!」
半泣きになりながら明石がすがりつく。
「それは無用な心配よ、何故なら私は必ず勝つから」
「マジ先輩かっけーっス! マジリスペクトっス!」
先程の「厳しい特訓」という言葉、そして田中の自信満々の態度……桃は若干気圧されていた。
(大丈夫……私が有利、多分勝つ)
そう心の中で呟き、自分を奮い立たせていた。
それと対象的に余裕綽々の田中は、朗らかにこう告げる。
「そろそろ昼休みも終わりそうだし、早速始めましょうか。じゃー明石ちゃん! バトル開始の宣言をして!」
「了解したっス! では………………帰宅開始ィィィィ!」
開始が宣言されるや否や、2人はほぼ同時に動き出す。
ただ、向かう方向は真逆であった。
桃は当然部室の扉の方に、その一方田中は窓の方に向かっていった。
(えっ…………なんで?)
内心困惑している桃をよそに、田中は勢いよく窓を開け放ち────そして飛び降りた。ちなみに、ここは3階である。
「…………ええええええ?! なんでぇぇぇぇ?!」
繰り返すが、ここは3階である。




