0.来宮天音
入学式を終え。
まこととの待ち合わせ前、時間があったからと、とりあえず食堂の場所は把握しておこうと大学内を彷徨っていた。
見知らぬ部活名やサークル活動、その数なんかに圧倒されながらも、足は確実にそちらへと近づいている様子だった。
そんな折だ。
「すみません、少しお時間よろしいでしょうか?」
ふと背中に投げられる声。
鈴を振ったような、と表現される声音は、正にこの声の為にあるのだろうな、と一声でも考えてしまうくらいに綺麗な音だった。
振り返り、その主に問い返す。
「な、何か…?」
第一印象、綺麗な人。
私と同じくスーツでの登場ということは、同じく新入生か何でもないただの社会人か、だけれど。
「急に声をかけてごめんなさい。貴女と同じく新入生の、来宮天音と申します」
答えは前者だった。
「新入生…?」
「はい。今年よりここの一回生になります」
「は、はぁ。それで、要件は?」
聞くと、「そうでした!」と姿勢改め、ふわりと優しく微笑んで続けた。
「私を是非、記憶堂へと連れて行って欲しいのです」
「記憶堂に?」
「はい。所用ありまして、その内一人で行こうとも思っていたのですが、こうして出会えたのも運命というものでしょうから」
「所用…藍子さんに依頼?」
「それもあるのですが——」
溜めて、一言。
「私、是非、神前真様にお会いしてみたくて!」
「……は?」