双子の弟1
一つの章で一つの世界を書いていこうと思ってるんですけど、なんか一章短くなりそうです(^ω^;)
お兄ちゃんが死んでから数日後。私は久遠の屋敷で生活していた。最後に来たのは四年前だったけれど家は相変わらず綺麗なままだった。結界もまだ健在だった。何も変わらない。
ただ一つを除いて。
「澪〜夜〜!」
聞こえない振りをして本を読み続ける。
「見つけた!ったく、もうご飯出来てんだよ!」
書斎のドアをノック無しで開けて入って来たのは双子の弟の氷夜だった。
「ほら、早く食べよう!俺が腕によりをかけて作ったから美味しいよ〜」
喧しい。本を読んでいるのがわからないのだろうか。
「ねーねー澪夜〜いい加減返事してくれないと俺泣いちゃうよ?」
めんどくさい。どうやったらこう育つのだろうか。
「ねえ、本当返事して?せめてこっち見て?そんなに無視されると心にグサって来るんだけど・・・」
「はぁ・・・」
ため息を付きながら氷夜の方を見る。どうしてこうなったのだろうか。
***********************
「ごめんなさい」
そう言いながら泣き続けていた。私の家族。私の大事なお兄ちゃん。また守れなかった。守れる力があったのに、忘れていたせいで死んでしまった。
激しい自己嫌悪に陥っていた時に現れた。
「あの、」
また敵が来たのかと警戒し振り返るとそこにはお兄ちゃんがいた。いや、違う。そっくりだけど別人だ。お兄ちゃんと同じ白金の髪に澄んだ青い瞳。髪はお兄ちゃんより少し長く、ハーフアップにして長さの足りない部分が落ちない様にピンで止めている。
「もしかして澪夜?」
「そう・・・だけど・・?」
何故だろう。何処かで会った事があるような。
・・・まさか
「氷夜・・・?」
確証はない。でも私の中の何かが言う。目の前にいるお兄ちゃんによく似た彼は、生まれてすぐ離れ離れになった、いずれ私を殺す双子の弟だと。
それを聞いた彼は嬉しそうな顔をして頷く。
「うん。氷夜だよ。やっぱりわかるんだね」
やっぱり氷夜だった。お父様の言った事は本当だった。
『会えばきっと弟だとすぐに分かるだろう』
その通りだ。
「それで、澪夜だけ?澄夜兄ちゃんは?一緒じゃないの?」
「っ!」
お兄ちゃんは・・・・もう・・・。
お兄ちゃんを抱きしめる腕に力が入る。体は固くなりまた涙が出そうになる。そんな私の様子に気付いた氷夜が不思議そうな顔で口を開こうとした。しかし、すぐにその顔は驚愕に固まった。たぶん私が抱きしめていたせいで私の体に隠れていたお兄ちゃんの顔が見えたからだろう。
「そんな・・・」
愕然としている。それもそうだろう。やっと会えた兄が既に死んでいるのだから。
暫く二人とも何も話さなかった。
先に沈黙を破ったのは氷夜だった。
「とりあえずここを出よう。澄夜兄ちゃんは俺が運ぶから」
そう言ってお兄ちゃんを背負った。
「ほら、澪夜も早く」
私の手を取って立たせる。私はされるがままついて行った。
その後氷夜に手を引かれたまま地上に上がり安全な久遠の屋敷に向かった。
少し落ち着きお兄ちゃんを見るとまた涙が溢れて来た。その日はそのまま泣きじゃくっていつの間にか眠ってしまっていた。
翌日、氷夜とお兄ちゃんの遺体を埋めた。墓石などが用意出来なかったから簡素なものになってしまった。その時気付いたのだが、お兄ちゃんのお墓の隣に似たようなお墓がもう一つあった。氷夜に聞くとお父様の墓らしい。数年前に私と同じ様に遺体を見つけた氷夜が埋めたらしい。
その後、お互い離れていた間に起きた事を話し合った。
どうやら氷夜はお兄ちゃんに会っていた様だ。二年前に偶然出会いそれから時々会って情報を共有していたらしい。四年前に私が見つけて預けていた本も受け取ったらしい。氷夜は読んだらしい。でも、その本の内容は聞いても教えてくれなかった。
氷夜も望月家に仕えあの蕾の調査に行ったらしい。そしてその時調査員の一人が化け物を生み出す所を見たそうだ。そこで、わざと囮になり死んだ事にして組織から離脱し、色々調べ始めていたそうだ。その事をお兄ちゃんにも伝えようとしたらしいがその前にこんな事になってしまった。
昨日あの場所に来たのは偶然だったらしい。いつも通りお兄ちゃんと情報を共有しようと待ち合わせ場所に行く最中に地下に行く私達を見つけたらしい。それから隠れて出入口を見ていたが一向に出てくる気配はなく痺れを切らして入ったらあの現場に遭遇したそうだ。
ある程度話し終えた後、これからの事について話し合った。
組織にはもう帰れない。帰りたくない。お兄ちゃんを殺した奴らの所になんていたくない。それに、私が生きている事を知ったら殺しにくるだろう。だから見つからない様に隠れないと。
それと予言の事も気になる。
『白き子、全てを焼き尽くす聖なる白き炎を持つ。
黒き子、神なるものと悪鬼魍魎をその身に封ずる力を持つ。
黒き子いづれ封敗れ悪鬼魍魎に呑み込まれる運命なり。
白き子、聖なる炎をもって悪鬼魍魎となりし黒き子を滅す運命なり。』
白き子が氷夜で黒き子が私だ。という事は氷夜は『聖なる白き炎』を持っていて私が『神なるものと悪鬼魍魎を封ずる力』を持っている事になる。
『黒き子いづれ封敗れ悪鬼魍魎に飲み込まれる運命』というのは封じる力か解かれて体に封じていた悪鬼魍魎に飲み込まれるということ。
『白き子聖なる炎をもって悪鬼魍魎となりし黒き子を滅す運命』は悪鬼魍魎に飲み込まれた私を氷夜が炎で殺すということ。
でも、この予言にある『悪鬼魍魎』が何なのかわからない。もしかしたらあの化け物のことを指しているのかもしれないが倒した事はあっても封じた事などない。あれじゃないとしたらいったい何が悪鬼魍魎なのだろうか。
それに、氷夜は予言にある『白き炎』を持っているのだろうか。
聞いてみたが本人もわからないそうだ。誰かに白い炎を渡される夢を見た事はあるらしいが使えた事はないらしい。
お互い予言についてはお父様の手紙に書かれていた事しか知らない。だから予言が何を示しているのか、本当に私達が予言の子で間違いないのかわからない。手がかりは地下室にあった古い文献くらいだ。
結果、お互い組織に見つかるのを避けるために暫く外に出ない様にし、その間地下室の文献を読んで予言について手がかりがないか探す事になった。
***********************
そして今に至る。
この愚弟は文献の解読が苦手らしくすぐに根を上げた。そして、解読を私に押し付け自分は家事をしている。いや、家事だけではない。食料確保の為と言い庭に家庭菜園まで作る始末だ。・・・こいつ本当に私の弟なのだろうか。
「それで、なんかわかった?」
「特になにも」
文献の殆どはこの家の歴史などで予言については一切載っていなかった。まだ目を通してない文献もあるがおそらくそれも似たような内容だろう。
「そっか〜。載ってないならどうしようにもないなぁ」
頬杖をつきながら言う。
「それで?氷夜は何も調べてないの?」
まさか私にだけ調べさせて自分はのんびり家事をしているということはないよね?何か別の方法で調べているよね?
「・・・・えっと・・」
あからさまに視線を逸らす。
「氷夜」
名前を呼ぶとビクリと体を揺らし、恐る恐るといった体でこちらを向く。目が合うと観念したように小さな声で呟く。
「何も・・・調べてないです・・・」
この阿呆は・・・
「氷夜」
「はい!」
ピンと背筋を伸ばして返事をする。そんな弟を見ながら笑顔で告げる。
「正座」
「はい・・・」
私は椅子に座ったまま床に正座した弟を見下ろし今日も説教を始めた。
土下座した氷夜を放置して書斎に戻る。あれから地下にある文献はこの部屋に移動させてある。もう殆ど読み終わっている。これらの文献は古い言葉で書かれていたけれど私はスラスラ読めた。
先程まで読んでいた文献を読み終わり、次の文献を読み始めた時、強烈な睡魔に襲われ眠ってしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は一人真っ暗な闇の中に佇んでいた。ここはいったいどこ?先程まで書斎で文献を読んで・・・そうだ。文献を読んでいる最中に眠ってしまったんだ。ならここは私の夢の中か。早く目覚めて続きを読まないと。
『本当に目覚めていいのかい?』
声が聞こえた。振り返ると小さな少女がいた。不思議なことにこの闇の中で彼女の姿ははっきりと見えている。
「誰?」
そう聞くと彼女は笑う。
『酷いなぁ。ボクのこと忘れちゃったの?』
忘れる?そんな事はない。
私はもう全て思い出している。何もかも。
だけど、どの記憶にもこの少女はいない。ならいったいどこで出会った?それ以前に彼女の話は真実なのか?
『まあ、仕方ないね。この姿で会うのは初めましてだからね。でもボクは君と出会っている。姿は知らなくても声は知っているはずだよ?』
姿は知らなくても声は知っている?いったいどういうこと?私はこの声を聞いた事があるの?
──『これは君が望んだ事だ。君の背負うべき罪だ』
まさか、
「メテオ?」
『せーいかーい!』
あははっ、と楽しそうに笑う。私は信じられない思いでそれを見ていた。
「どうして・・・何でここにいるの!?」
あれから私は転生した。だから、
『どうしてって、あの時も言っただろう?ボクはずっと君の中にいるって』
ふわりと宙に浮き私を至近距離で見下ろす。
『あの時から、君が化け物になった時からボクと君は鎖で繋がってしまった。だから何度転生しようがボクから離れる事は出来ないんだよ?』
そう言うと細い鎖が現れた。その鎖は淡く光っており、メテオの首と私の心臓を繋いでいた。
『でも、安心しなよ。この鎖のお陰でボクは自由に動けない。だから表に出る事はないんだ。それにボクは君の事を気に入ってるからね。よっぽどのことがない限りちょっかいは出さないよ』
それは信じてもいいのだろうか。確かにメテオは何もしていない。でも、メテオはやつの子だ。100%信用は出来ない。
疑わしく思っていたのがわかったのだろう。
『まあ、あんな事があったから信じられないかもしれないけどね。それでさ、本当に目覚めてもいいの?』
「・・・なぜそんなことを聞くの」
『だって目覚めたらまた死ぬんだよ?また人間は君を裏切るよ?いや、もう裏切られていたね。その裏切りで君はまた大切な人を失った。目を覚ませばまた失うよ?』
「そんなことわからないでしょう?それに私はもう何も失わない。失うものなんてない」
私にはもう大切な人なんていない。
『あるだろう?大事な大事な君の弟が。兄の次は弟を失うよ?』
「それが?弟と言ってもつい最近出会ったばかりの弟を大事に思う事なんてある訳ないでしょう。死んでも何の感情もないわ」
お兄ちゃんの様に長い期間共に居たならともかく出会って間もない弟に大事と思える程の感情が抱ける訳がない。
『そうかなぁ?君が気付いてないだけじゃないかな?』
あははっとまた楽しそうに笑う。
『まあ、いっか。君は頑固だからね。ボクが何を言っても聞かないだろう?じゃあもう好きにしなよ』
そこまで言うと急に真剣な顔になる。
『だけどこれだけは覚えておいて。本当に危なくなったらあの世界での力を使うんだ。君が大嫌いなあの力を。躊躇ってはいけない。君が選んだ道は手を抜いたまま歩けるほど楽じゃない』
言い終わるとまた楽しそうに笑う。
『ボクが言いたかったのはこれだけ。じゃあまたね』
視界が白く染まっていく
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目を覚ますと書斎にいた。寝る前と同じように椅子に座っている。
「『手を抜いたまま歩けるほど楽じゃない』か・・・」
あの時、この選択をした時に覚悟は出来ていた。私一人が苦しむ覚悟は。
でも、私以外の誰かが・・・私の家族が苦しむ覚悟はない。私のせいでお兄ちゃんは死んだ。私ではなくお兄ちゃんが。お兄ちゃんが死んだ時悲しくて苦しかった。今もそう。多分両親が亡くなった時も同じだった。
家族が死んだら私は苦しむ。メテオの言い方だと、氷夜も死ぬかもしれない。氷夜が死んだら私は悲しむのだろうか。・・・さっきはああ言ったけど、きっと悲しむだろうな。なんの感情も抱いていなかったはずの両親が死んだ時でさえそうだったのだから。
まさか私を苦しめる為に私の家族は死んでいるの?まさか。考えすぎだろう。頭をよぎった馬鹿な考えを振り払おうとするとある言葉を思い出した。
──『愚かな人間よ。この怨み決して忘れぬぞ。貴様を呪いを掛けてやる。決して消えぬ呪いを。我を殺した事を悔い改めながら苦しむがいい。逃れる事の出来無い絶望に打ちひしがれるがいい』
今際の際に放たれた怨嗟の声。もし、あれが呪詛だったなら?だとしたら今のこの状況は私のせい?
軽く頭を振ってその考えを振り払う。やめよう。分からないことを、証明しようの無い事を考えても時間の無駄だ。今は私に出来ることを、予言について調べる事が先だ。
誤字、脱字、これおかしくない?などありましたら是非教えて下さい!
来月は一月だし一日に投稿したいですね!・・・間に合うかわからないですけど(¬_¬)