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死神と呼ばれた少女は転生を繰り返す  作者: 結音
第1章 化け物がいる世界
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終わりと始まり4

 任務当日、私達は五十人の部下を連れて蕾の調査に向かいました。五十人と聞いて多いと思う人はいません。寧ろ少な過ぎます。あれがどれだけ危険な存在か分かっているはずなのにこの程度の戦力しか与えられないなんて。私とお兄ちゃんの力を余程信頼しているのかもしくは・・・・いえ、なんでもありません。



 午後二時、本家を出発します。あの化け物は時間によって強さが変わります。一番強いのが夜、その次が朝と夕方。そして一番弱いのが昼間です。本家から蕾までは約一時間程かかります。蕾が現れる前は二十分間程でしたが今はあの化け物を相手にしながらなので余計な時間がかかります。

 約一時間戦闘し続ける事になるので蕾に到達した後の戦闘に備え体力を少しでも温存する為に一番弱体化しているこの時間帯に行きます。


 午後三時、予定通り蕾の傍に到着しました。本来ならもっと接近したかったのですが化け物の数が多くここまでが限界でした。ここまででかなり負傷者も出ましたしね。私とお兄ちゃんはもちろん無傷です。


 午後三時半、撤退の時間です。帰りの事も考えると帰らざるをえません。それに、調査をする隊員とその隊員を守り化け物を引き付けておく囮役の隊員に分けて組ませ調査をしていましたがそろそろ囮役の隊員の体力も危ないです。


 急いで撤退を始めました。お兄ちゃんが先頭で指示を出しつつ前方の敵を排除、私が後方で追い掛けてくる敵を排除しています。

 撤退を始めて暫くして、突然無数の弾丸が降り注ぎ私達の周囲にいた化け物を一掃しました。何事かと思い見渡すと建物の上に組織の人間がいました。そして驚く事に彼らを率いていたのは燈真様でした。



 その後燈真様の指揮の下、本家ではなく旧地下実験場に向かいました。そこまでは燈真様の部隊が乗ってきた車に同乗しました。その中でお兄ちゃんは隊員から預かった調査書を読んでいました。全て読んだ後難しい顔をして何かをメモし、それを私のポケットに入れました。何かと問おうとしましたが私の顔を見て頭を横に振りました。今は読むなという事ですね。



 到着後、私達は実験場に入りました。地下に降り始めた時点でお兄ちゃんから警戒を解くなと合図をされたので何時でも呪装で攻撃出来るようにしています。


 地下実験場はとても広く私達が全員入ってもまだまだ余裕がありました。中心辺りまで来ると燈真様は振り返りました。

「調査は完了しているな?」

「もちろんですよ。ただ、時間が足りなかったので細部までは出来ませんでしたけどね」

「構わない。寄越せ」

 燈真様はお兄ちゃんに手を伸ばしお兄ちゃんはその手に調査書を渡す。


「それで、何か分かったか?」

 また奥に歩き出しながら燈真様が問いかけます。お兄ちゃんは立ち止まったまま答えます。

「少しだけですけどね」

「構わん。言え」

 立ち止まる事無く言います。


「じゃあ、遠慮なく。あれ、まだ誰かが研究してますよね。公式には研究をしていた裏切り者はあの日死んだ事になっています。そして、望月家の指導の元あの蕾と化け物を排除する作戦が始まった。でもあの化け物作ってるのは蕾じゃなくて望月家なんじゃないんですか?」

 それを聞いた燈真様は立ち止まりました。

「何故そう思う」


「これを見つけたからですよ」

 そう言ってお兄ちゃんが見せたのは黒い卵の様な形のものです。尖った針の様なものも付いています。よく見ると何か模様が描いてあります。あれは、望月家の家紋ですね。


「最初はこれが何なのか分かりませんでした。四年前の調査員が落としたものかもと思ったんですけど、そうじゃないですよね。これと同じものが少し離れた場所にもう一つ落ちていました。拾おうとした時化け物が襲って来たので応戦したんですけど、その拍子に落ちてあの蔓に刺さりました。するとどうなったと思います?みるみるうちに大きくなって化け物が出てきました。しかも上位種でしたよ。つまり、あの化け物は、少なくとも上位種は人為的に生み出されている。恐らく望月家によって」


 望月家があの化け物を作っている?・・・充分有り得ますね。過去にも色々な実験を行い奇妙な生物を作ったという記録もありますから。

「そうか」

 燈真様が振り返りました。その顔は残念そうな、それでいて楽しそうな顔でした。

「お前の言う通りあの化け物を作っているのは望月家だ。正確には化け物の上位種を作っているのは、だがな」


「いったい何のためにですか?」

「さあな?」

「知らずに作っているんですか?」

「知る必要はないからな」


「さて、知ってしまったからには分かっているだろうな」

 燈真様の部下が私達を取り囲み銃を向けます。

「口封じの為に殺す、って所ですかね」

「正解だ」

 それを聞いたお兄ちゃんが合図をしました。それを確認しすぐに呪装を使おうとしましたが使えませんでした。

「なぜ・・・!?」


「無駄だ」

 呪装が使えず動揺している私達に燈真様が言います。

「呪装は望月家が作ったものだ。当然無効化する事も可能だ。ここは呪装を無効化する為の結界を張っている」

 つまり、私達は武器を持っていないも同然の状態という訳ですね。

「後は任せた。俺は先に戻る。一人残らず殺せ」

 そう言ってもう一つの出入口から燈真様が出ていきます。


「澪夜」

 お兄ちゃんが小声で話しかけてきます。

「どうにかしてここから逃げるよ。出来れば全員で逃げたいけどそれは無理だ。だから僕らだけでも逃げるよ」

「はい」


 燈真様の部下達が引き金に指をかけ撃とうとします。その前に私は隠し持っていた拳銃で相手を撃ちます。相手が動揺している隙に拳銃をお兄ちゃんに渡し、私は暗器で攻撃します。

 後方の私達が入って来た方に向かって走ります。逃亡しようとしているのに気付いた奴らが撃ってきますが気にせず進みます。幸いまだ弾丸は当たっていません。この調子なら逃げ切れるでしょう。


「澪夜!」

 突然横を走っていたお兄ちゃんに腕を引かれ抱きしめられました。何事かと思い離れようとするとお兄ちゃんの肩越しに真っ赤な血が見えました。それはお兄ちゃんの背中から溢れだしています。

「お兄ちゃん?」

 従者としての呼び方を忘れ妹として声をかけてしまいました。


「大丈夫だよ・・・。やられた。まさか彼等まであっち側だったなんて」

 見るとお兄ちゃんを斬ったと思われる刃物を所持しているのはお兄ちゃんの部下で今回の任務に同行していた者でした。

「申し訳ございません澄夜様。ですが、我々は望月家に仕える者。望月家にとって害となりうる存在を排除するのが我らの仕事です故」


 最初から全て仕組まれていた。おそらく今回の事は私達を排除する為に、排除する名目を作る為に与えられた任務だったのでしょう。

「澪夜、よく聞いて」

 お兄ちゃんが私だけに聞こえる声で言います。

「僕が時間を稼ぐからその間に澪夜は逃げるんだ」

「え・・・・」

 私だけ逃げる?お兄ちゃんを置いて?

「僕の大事な妹を死なせる訳にはいかないからね。僕が攻撃を始めたら出口に向かって走るんだ」


 そこまで言うと立ち上がりお兄ちゃんを斬った部下を撃ちナイフを奪って奴らの方に突っ込みました。

「急げ!澪夜!」

 奴らはお兄ちゃんに向かって攻撃を始めます。攻撃が当たる度にお兄ちゃんの体から血が溢れます。

「いや・・・・」

 このままでは死んでしまう。

「嫌だ・・・・」

 また家族を喪うのは嫌だ。

 ()()()()()()()()()()()なのは嫌だ。


 私はお兄ちゃんの方に走った。それに気付いたお兄ちゃんは目を見開いて驚く。そんな事お構い無しに私は奴らを、敵を殺す。反撃され怪我を負ったけどお構い無しに殺す。

 背後から敵が私目掛けて刀を振り下ろそうとしているがそれより目の前の敵を殺さないと。全員殺さないと。また家族が殺される。もっと沢山、敵を殺さないと。もっと、もっと、もっと、もっと


「澪夜!」


 お兄ちゃんの声が聞こえる。大丈夫。()()()()私が守るから。

 お兄ちゃんの声が聞こえた先、私の背後を見ると私に振り下ろされようとしていた刀と私の間に立ち肩から腹にかけて斬られたお兄ちゃんがいた。


「お兄・・ちゃん・・・?」

 私の方に振り返り弱々しく微笑んだ後その場に倒れ込んだ。

「お兄ちゃん?」

 持っていた暗器を取り落とし崩れ落ちる様にお兄ちゃんの傍に座り込む。

「お兄ちゃん・・・?お兄ちゃん!!」

 いくら呼びかけても応えてくれない。いつもならすぐ返事をくれるのに。


 目の前でお兄ちゃんを斬った奴がまた刀を振り下ろそうとする。それを見た瞬間私の中に強い感情が生まれた。


 許さない 絶対に許さない


 殺そうと手を伸ばした。私の手は首を引き裂いた。沢山血が出て真っ赤に染まる。そして、残った敵も殺す。首を折り、心臓を貫き体を斬り裂いて殺す。殺す。殺す。



 気付いた時にはもう私以外に立っている人間はいなかった。辺りは血で真っ赤に染まっている。真っ赤な血溜まりの中で私一人。以前にも、どこかで見た事があるような・・・・

「っ!!!」

 思い出そうとすると激しい頭痛に襲われる。頭痛と共に思い出した。


 あの世界での事を



 声が聞こえる


『あーあ。また守れなかったね。それにほら、周りをよく見てご覧よ。あの時と同じだ。だから言っただろう?君は化け物なんだ。命を狙われる憐れで孤独な化け物。転生したってそれは変わらないんだよ?』


「黙れ」


『まあ、別に認めなくてもいいよ?でも事実は変わらない。でも良かったじゃないか。思い出したお陰で化け物の力を使える様になったんだ。あの世界で君が持っていた力を使える様になったんだ。その力があれば君の大事な大事なお兄ちゃんを殺した奴らを皆殺しにだって出来る。どうする?殺しちゃう?』


「黙れ。お前に指図される言われはない。私は私のしたい事をする」


『そうかい。じゃあ僕は大人しくしておいてあげるよ。面白い事になりそうだからね』


「用が済んだなら消えろ」


『あははっ酷いなぁ。消えろって言われてもボクは君の中にいるんだよ?まあいっか。じゃあね』



 声は聞こえなくなった。


 やっと思い出した。あの世界での事。もっと早く思い出していればお兄ちゃんを救えたかもしれないのに。

 私は覚束無い足取りでお兄ちゃんの元に行く。先程まで暖かかったのにもう冷たくなっている。お兄ちゃんを抱きしめながら呟く。


「ごめんなさい」



 救えなくてごめんなさい

 私のせいで死なせてしまってごめんなさい

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