終わりと始まり2
二章から一話分の文量が少なくなるのでそれに合わせて一章の話を一話が短くなるように調節しています!内容は変わっていません!
その一週間後化け物を倒す為の武器の試作品が完成しました。そして、その性能を確かめる為の部隊に私は選ばれました。
当然でしょう。まだ十二歳の子供と言えど大人より遥かに強く人間相手ではありますが実戦経験も豊富で『殺戮人形』と呼ばれる程沢山殺してきましたから。
澄夜様は反対なさっていましたが当主様には逆らえず渋々私を参加させる事に承諾なさいました。出発前に
「もし何かあったら命令違反をしても構わないから無事に帰って来るんだよ」
と言って下さいました。元より澄夜様以外の者の命令を聞く気は無いので大人しく聞き入れました。
化け物を倒す為の武器──呪装はとても効果的でした。通常装備を使った戦闘の映像を見た時はなかなか傷を付ける事が出来ていなかったのに呪装だと簡単に出来ます。
五体程倒し性能の確認も取れた為帰還しようとした時にそれは現れました。
今までの個体よりも巨大な体の化け物。すぐにわかりました。この化け物には勝てない、と。だから急いで撤退しようとしましたが愚かな隊長はあろう事か戦闘命令を下したのです。私は逃げるべきだと意見しましたが却下されました。
その後の事は想像通りでした。
命令に従い攻撃しようと近づいた者達は次々殺されて行きました。それを見た隊長は私を囮にして逃げようとしました。まあ、既に私はその場から離れていましたからその目論見は失敗しましたけどね。
急ぎ帰還し事の顛末を報告しようとしましたが化け物は隊員達をすぐに殺し私に狙いを定めました。このまま引き連れて帰還すれば澄夜様に危険が及ぶかもしれませんので撒く事にしました。
しかし、化け物はかなりしぶとく付いてきました。屋根伝いに逃げようとした時に背中に羽を生やして飛んできた時はとても驚きました。
暫く逃げていた時です。
ある家の敷地の中に入ると後ろからぶつかるような音が聞こえたのです。振り返ると私を追っていた化け物が何かに阻まれていました。何度も入り込もうとしますが見えない壁に阻まれて入ってこれません。まさかこれは結界?でも結界は本家と各支部にしか張られていないはず。ここはもしかして支部の一つなのでしょうか?
周りを見渡すと見覚えがありました。何か懐かしい感じがします。私はここに来たことがあるのでしょうか?
外を見るとまだ化け物は結界に挑んでは阻まれています。あの化け物が諦めるまでは出られませんし丁度いいのでこの家の調査をする事にしました。
玄関には鍵がかかっていなかったので簡単に侵入出来ました。中は普通の家のようですね。ふと床を見ると赤い染みが転々と家の奥の方に続いていました。恐らく血でしょうね。そこまで古くもなく新しくもない血痕。ここ一ヶ月の間に着いたという所でしょうか。何処に向かっているのか気になるところですが先にこの家の調査をしましょう。
全ての部屋を周り終えた頃にはここが何処か検討がつきました。ここは私が生まれ育った家でしょう。所々見覚えのある部屋がありましたし、子供部屋と思われる部屋には私の名前が書かれた物が幾つかありました。その中には日記があり、記載されている内容に覚えがあるので間違いありません。
それから血痕を辿りました。血痕は書斎に続いており、本棚の前で途切れていました。恐らく隠し扉があるのでしょう。その本棚を見渡すと一冊だけ気になる本がありました。他の本と何も変わらないけれど私はとても気になってその本を取ろうとしましたが取れません。もしかして、と思い押すとガコンッと音が鳴り本棚が動き、地下へ続く階段が現れました。血痕も続いています。どんな罠があるかわかりませんが降りてみることにしました。
気を抜かずに降りていましたが罠はありませんでした。
降りた先には小さな部屋がありました。部屋の中には沢山の物が置かれていて一見すると物置の様にも見えますが本棚にあるかなり古いと思われる本や巻物、箱に貼られた御札などからただの物置ではない事がなんとなくわかります。
その奥に机と椅子がありました。椅子には一人の男性が背もたれにもたれかかっていました。お父様でした。その顔は蒼白でもう死んでいるのがすぐわかりました。前回の作戦で囮となった後、残った僅かな力を振り絞ってここに来たのでしょう。一体何のために・・・?
机には一冊の本と手紙がありました。手紙の宛名は私でした。お父様が手紙?暗殺者として、道具として、そして従者として必要な事を教える以外で話した事の無かったお父様が何を書いたというのでしょうか?
何が書かれているのか気になり封を開け手紙を取り出し読み始めました。
『澪夜へ
お前がこの手紙を見つけ読んでいる頃には私はもう死んでいるだろう。だからここにお前に伝えなければならない事を記す。この先を読むか読まないかはお前の自由だが、父親としては出来れば読まないでほしい。何一つ父親らしい事をしていない私が父親を名乗れるかは怪しいが。
これから書く事は全て真実だ。だから、どうか疑わずに、気を確かに読んでほしい。
私達久遠の一族は代々近親婚を繰り返して来た。それは一族内部の繋がりを強化すると同時にもう一つの目的がある。それは他の一族の血が混ざる事により違う容姿の者が生まれるのを阻止する為だ。
何故違う容姿の者が生まれるのを阻止する必要があるのかは代々一族の重役にのみ伝わる予言が関係している。
予言ではこう言われている。
「遠き先の世に双生の子が生まれる。一人は我らと同じ白金の髪に蒼き目を持ち一人は我らと異なる姿にて生まれる。その子、闇よりなお暗き漆黒の髪と血より濃き紅き目を持つ。
白き子、全てを焼き尽くす聖なる白き炎を持つ。
黒き子、神なるものと悪鬼魍魎をその身に封ずる力を持つ。
黒き子いづれ封敗れ悪鬼魍魎に呑み込まれる運命さだめなり。
白き子、聖なる炎を持って悪鬼魍魎となりし黒き子を滅す運命なり。
我等が血脈に生まれし子等よ、いづれ生まれし黒き子を見つける為に他の一族と血を交わす事を禁ず。そして黒き子が生まれたその時はその子に一切の感情を持たせてはならぬ。少しでも永く生きて欲しいと望むのなら」
これを読めば聡いお前ならば分かってしまうだろう。この伝承にある黒き子とはお前の事だ。この伝承の為にお前を人間としてではなく感情のない道具として育てた。私達は少しでも長くお前に生きて欲しかった。信じられないかもしれない。それだけの事を私達はお前にして来た。許せないかもしれない。それでも構わない。だがどうか一つだけ覚えていてくれ。
私達はお前を愛している。お前は望まれて生まれてきた子だ。お前は道具などではない。私達の自慢の娘だ。だからこそ少しでも長く生きて欲しい。
ここまで読んで疑問に感じている事があるだろう。黒き子であるお前と対になる白き子の所在について。
黒き子と白き子は双子だ。だがお前には双子の兄弟はいない。そう思っているだろう。だがそれは違う。お前には双子の弟がいる。弟の名は氷夜。生まれてすぐに同じ一族の分家に養子に出した。それからは私達は一度も会っていない。だから今どんな姿なのかも知らない。手がかりは名前だけだがおそらく名前も変えているだろう。だがお前なら分かるはずだ。会えばきっと弟だとすぐに分かるだろう。お前達は双子で同じ予言に縛られている。だからきっと分かるはずだ。その時は仲良くしてやってくれ。
それともう一つ伝えなければならない事がある。先程弟がいると書いたが私達の子は二人だけではない。もう一人、お前達の兄がいる。その子は氷夜と同じく他家に養子に行った。但し、氷夜の様に私達の意思ではなく強制だった。私達久遠の一族は皆似た容姿で生まれるのは知っているな。日本人では珍しい白金の髪と青い目。お前の傍にそれが当はまる人間がいるはずだ。
望月 澄夜
その名を聞いた事があるだろう?お前が仕えている主だ。十二年前、お前達が生まれて間もない頃養子として望月家に連れて行かれた。当時澄夜は四歳だったが物覚えがいい子だったからお前の事も覚えているはずだ。
もし澄夜がお前が妹だという事、久遠の人間であった事を覚えていたならこの手紙と共に置いてある本を渡してほしい。もし覚えていなければこの本は処分してくれても構わない。だが、くれぐれもお前は読んではならない。理由は言えんが決して読んではいけない。
随分と長くなってしまったものだ。ここに来るだけでやっとだったのにここまで書き残す力が残っていたとは。だが、もう限界の様だ。出来ることなら死ぬ前にもう一度会いたかった。
澪夜、これからお前には多くの困難が立ちはだかるだろう。だが決して諦めてはいけない。最期まで諦めずに自分のやりたい事をめいいっぱいやりなさい。予言の事はもう気にしなくてもいい。出来るだけの事は私達がやった。だから自由に生きなさい。
どうか幸せに暮らしてほしい。』
読み終えた頃には何が何だか分からなくなりました。
私が神や悪鬼魍魎を封じる力を持っている?いづれ封印が破れ双子の弟に殺される?お父様達は私を道具ではなく人間として愛してくれていた?澄夜様が私の兄?訳が分かりません。それにいきなり自由に生きろと言われても困ります。自由とは何ですか?
訳が分かりませんがここでずっといる訳にもいきません。だいぶ時間も経っている様ですしあの化け物もそろそろ諦めているでしょう。急ぎ帰還しなければ。
私は本と手紙を持って地下室を出ました。家の外に出ると予想通り化け物はいなくなっていました。今のうちに帰還しましょう。あぁ、その前にこの手紙と本は隠しておいた方がいいですね。
手紙と本を服の中に隠してから外に出ました。