付喪神
二章になります。今回はまだ前世の記憶がありません。今回は和風?な世界に転生しています!(☜前も言った気が(-ω-;))
「ええか柊花、神様はなぁいつも儂らのそばにおるんじゃ。儂らの側で見守って下さっとる。じゃから悪い事はしたらあかん。ぜーんぶ神様に見られとる。じゃからええ事をし。ええ事してたらいつか神様が儂らが困った時に助けてくれる。」
それがおじいちゃんの口癖だった。
幼い頃に死んでしまったらしい両親の代わりに私を育ててくれたおじいちゃんはいつもそう言って私を撫でてくれた。
私が十歳になった日おじいちゃんは綺麗な藍色の石が付いた首飾りをくれた。日にかざすと中で星の様なキラキラとした銀色の光が見える。貰った時にすぐにお気に入りになった。
その日から、
「いつも神様は儂らの側にいて下さっとる、ええ事してたら困った時に助けてくれるて言うてるやろ?そん時にな、どうやって助けてくれるかにもよるけど依り代が必要な時があるかもしれん。そん時依り代になるんは儂らがいつも持っとるもんや。そやから柊花、それはいつも肌身離さず大事にするんやで」
と言うのも口癖になった。
その話を私は話半分に聞いていた。だって、この世界には沢山の神様がいるけど人間を助けてくれる様な神様は滅多にいない。ましてや私みたいな子を見守ってくれてる様な神様なんている訳がない。でも、そんなことは無かった。
私が十二歳の時におじいちゃんが死んだ。病気だった。それから私は一人で生活をしていた。私の家は都の外れにある。私とおじいちゃんが二人で暮らすには広く立派な家だ。普通なら盗賊などに押し入られる可能性が高いがそんなことは一度もなかった。おじいちゃんは若い頃は知らぬ人はいないと言われるほど優秀な祓い師だったらしい。祓い師は悪鬼を倒すだけでなく身を守る為の力も持つ。おじいちゃんは私が悪鬼に襲われないように、そして盗賊が家に押し入らないように結界を張っていた。それはおじいちゃんが死んだ後も張られていた。
そして私が十五の時、神様に出会った。
その日は都に買い出しに出ていた。おじいちゃんが遺してくれた遺産と私が時々市で売る刺繍を施した布を売ったお金で生活している。だから無駄遣いはせず必要な物、その日は食べ物だけを買って帰っていた。
帰り道での事だった。都を出て家まで帰っているとふと後ろで音がした。私以外にこの道を通る人は滅多にいない。嫌な予感がして後ろを見ると悪鬼がいた。悪鬼はだいたい群れで行動していることが多いがこの時は一体だけだった。
悪鬼は私が気づいた途端奇妙な鳴き声を上げ飛びかかってきた。間一髪で避け家に向かって走り出す。家は結界が張られ悪鬼は入って来れない。家に逃げ込めればこっちのものだ。そう思い走ったが甘かった。悪鬼はすぐに私に追いつき行く手を阻む様に目の前に立ち塞がった。もう駄目かもしれない。震えながら後ずさる私と距離を詰める様に悪鬼が近づいて来る。私はおじいちゃんに貰った首飾りを握り締めながら誰か助けてと強く願った。
すると、突然首飾りが光始めた。光は次第に大きくなり目の前を覆い尽くした。
「俺を呼んだのはお前だな」
その声が聞こえると光の中から人が現れた。とても綺麗な人だ。藍色の髪に金の瞳。都の貴族が着るような上等な布で出来た服を着て控えめに銀の装飾品を着けている。初めて会うはずなのに何故かずっと一緒にいたような気がする。
「おい、聞いているのか?」
そう言われてはっとする。今はこの人に見とれている場合じゃない。悪鬼がいるんだ。
「あの、後ろ!逃げないと!」
青年の後ろを指して見ると悪鬼が飛びかかろうとしていた。
「ん?あぁ、鬼か」
振り返りそう言うと手を振った。すると悪鬼はまた鳴き声を上げて消えた。青年の手には刀が握られていた。
「これで邪魔はいなくなったな」
そう言うと鞘に刀を納めた。もう私には何がどうなっているのかわからない。
「どうした?怪我でもしたのか?」
心配そうに声をかけられてはっとした。助けてもらったのにまだお礼を言っていない。
「いえ、大丈夫です。助けて頂きありがとうございました」
「いや、お前が無事なら構わない。じゃあ行くか」
そう言って青年は歩き出す。その手には私が落とした荷物がある。
「え?あの、それ私の荷物なんですけど・・・」
「?知っているが」
何を言っているんだ、という顔で返されてしまう。
「ほら、早く帰るぞ」
今度は私の腕を掴んで歩き出した。
「え、あの、貴方は一体・・・?」
誰?
そう聞くと足を止め振り返り首飾りを指しながら言った。
「俺はお前の持っている首飾りの付喪神だ」
それだけ言ってまた歩き出す。
これが私と佳宵の出会いだった。
あの後、家に帰り佳宵に説明を求めたところどうやら私の首飾りにはおじいちゃんが何らかの術を施しており私に危険が迫ったら付喪神が降りて来るようにしてあったらしい。本来付喪神は長い年月、例えば百年くらい大事にされた物にしか宿らないらしい。場合によっては二十年くらいで宿る事もあるらしいが私が首飾りを貰ったのは十歳の時つまり五年前だから付喪神が宿る訳がない。しかし、おじいちゃんが術を施していてくれたお陰でこうして付喪神が宿ってくれたのだ。
そして、すぐに名をくれと言われた。いくら術を施されているとはいえまだ五年そこらしか持っていない物に宿ったのだ。名を貰えなければまた消えてしまうらしい。
名はその存在を現し世に縛り付けるもの。名があるから人はそれを認識出来る。名が無ければそれはいずれ消えてしまう。そうおじいちゃんも言っていた。だから名前は大切にしなさいと、信用出来ない人に名前を教えてはいけないと言っていた。
私にはよく分からないけれど名前を付けるのはいいことだと思った。名前がないと呼ぶ時に不便だし名前が無ければ誰にも呼んで貰えない。誰にも名前を呼んで貰えないのは凄く寂しい。だから名前を付けることにした。
でも、誰かに名前を付けるなんて初めてでどんな名前にすればいいのかわからない。凄く期待に満ちた目で見られているからおかしな名前は付けられないし。何かいい名前を思いつかないかと首飾りを見ている時に思いついた。彼はこの首飾りに付いているこの石の付喪神。この石はとても綺麗で中に見える銀の光は星のようで、この石を見ていると夜空を思い出す。藍色の部分が空で銀が星。なら月が足りない。目の前の彼に視線を向ける。彼の目は金色でまるで月の様。石には金色は無いのに彼にはある。彼はこの石の付喪神。なら彼もこの石の一部。この石に欠けた月は彼なんだ。なら月に近い名前を付けたい。じっと見つめる。見れば見るほど綺麗だ。藍の髪に金の瞳、銀の装飾品。綺麗な夜空の色。確か綺麗な夜を、月の美しい夜を表す言葉があったはず。
記憶の中からその言葉を思い出した。
「佳宵」
そう言うと佳宵は嬉しそうな顔をした。
それから四年間私は佳宵と一緒におじいちゃんと暮らしたこの家に住んでいる。最初は慣れない人型に戸惑っていた佳宵ももう随分慣れてしまっていた。眠り方がわからないと言っていたのに今では毎日の様に縁側でのんびり昼寝をしている程だ。
あの日以来悪鬼に遭遇する事が少しだが多くなった。もちろん家には入ってこれないし都への道中は佳宵が護衛してくれるから怪我はしていないけれど少し不気味だ。降神滅鬼の乱があってから悪鬼は姿を見せなくなっていたのに。また同じ様な事が起きるのだろうか。起きたとしても私は祓い師でも何でもないただの平凡な娘だから何も出来ないのだけど。
数日後、佳宵と共に都に買出しに行った帰りのことだった。いつ悪鬼が出てもいいように刀に手をかけたまま隣を歩いていた佳宵が立ち止まり私を背後に隠す様に立った。私は悪鬼が来たのかと身構えた。予想通り悪鬼が現れた。だがその悪鬼はいつもとは違った。
「ミツ・・ケタ・・・」
そう言ったのだ。
悪鬼とは武神に倒された荒神の眷属であり武神に復讐するもの。武神や水神の末裔を武神達そのものだと思い込む程に知能は低い。そして今までの悪鬼に喋る悪鬼がいたなどと言う話は聞いたことがない。
「ヤット・・ミツ・・ケタ・・・」
目の前の悪鬼は不気味な声でそう言いながらこちらに手を伸ばしてくる。
「見つけた?何をだ」
私を背後に庇ったまま悪鬼に刀を向けて聞く。
「ヨコセ」
今度は右から声が聞こえた。そちらを向くとそこにも鬼がいた。
「ヨコセ」
気がつけば囲まれていた。数は五体。佳宵一人で私を庇いながら戦うのは難しいだろう。
「お前達はいったい何を言っている?」
背後に庇ったのでは攻撃を受けてしまうと考えたのか片手で私を抱き寄せもう片方の手で刀を握り直した。
「ヨコセ」
「ミコ・・ヨコセ・・・」
「『みこ』?」
悪鬼が『みこ』と言った途端私は言い知れない恐怖に襲われた。『みこ』。どこかで聞いたことがある。思い出そうとすると心臓を掴まれたような気がして怖くて苦しくて恐ろしくて思い出したくなくなる。思わず佳宵の服を握り締めていた。
「『みこ』とはなんだ?」
再度佳宵が問うが何も答えない。
「ヨコセ・・・ミコ・・ヨコセ!」
そう言って一斉に飛びかかって来た。私は目を瞑り佳宵にしがみつくことしか出来なかった。
悪鬼が飛びかかって来たのに佳宵は一切動かずそれなのに何の痛みも感じない。ただ何かがぶつかる様な音だけが聞こえた。恐る恐る目を開けて見ると結界が張られていた。
そして、私達に飛びかかろうとしていた悪鬼が全て倒されている。
訳が分からず呆けていると悪鬼に刀を突き立てていた青年がこちらに来た。
「ご無事ですか?」
そう声をかけてくる青年を警戒したまま佳宵が答える。
「お前達は誰だ」
お前達と言うことは他にも誰かいるのだろうか。見ようと佳宵から離れようとしたが先程より腕に力を込められ彼らに私の顔が見えない様にされた。お陰で私も彼らが見えない。
「失礼しました。我らは護剣省に所属している祓い師です。名は規則ですので名乗れませんがご了承ください」
護剣省、確か剣皇直属の祓い師がいる省だ。おじいちゃんも所属していたことがあると言っていた気がする。
「なぜこんな所にいる」
護剣省は煌皇を中心とする煌族を守護するのが役目だ。稀に都で悪鬼討伐をすることもあるが普段都の悪鬼討伐を担当しているのは祓除省だ。なのに何故護剣省が出張っている?
「最近また悪鬼が現れ始めたのです。降神滅鬼の乱から十四年経ちましたからそろそろ懲りずにまた来ることは予想通りだったのですがいささか気になる事がありまして。此度の悪鬼は女人ばかりを狙うのです。それだけなら女人の方が男より力が弱く殺しやすいと学習したからだと考えるのですが・・・」
一度言葉を切り考える様な仕草をした後続けた。
「先程あなた方に言った様に『みこ』を寄越せと言うようなのです」
「『みこ』とはなんだ」
「わかりません。神子なのか巫女なのかそれとも皇女なのか。いづれにせよ『みこ』と呼ばれる存在が居てそれを悪鬼が狙っているのであればこちらとしては保護しなければいけません。なので我らが動く事になったのです」
『みこ』。それを聞く度に頭が痛くなる。先程悪鬼が言った時のような恐怖は感じないけれど思い出すのを妨害するかの様に頭痛が強くなる。
「お前達がここに来た理由はわかったが何故ここに悪鬼が来ると思ったんだ?こんな人通りの少ない所で悪鬼に襲われる者がいるなど普通は考えないはずだが」
確かに人通りの多い所なら悪鬼を警戒して監視していてもおかしくはないがこの道を通るのは私達かたまに都に来る商人くらいだ。わざわざ監視する程の場所でもない。
「祓い師にも様々な者がいるのです。剣に秀でた者、弓に秀でた者、術に秀でた者、占に秀でた者。今回は占に秀でた者がここに悪鬼が出ると言った為来たのです」
「そうか」
そう短く答えると歩き出す。私は顔が見えない様に抱き寄せられたままだから歩きづらい。それに気づいた佳宵が片手でひょいと抱き上げた。その時もう片方の手で私の頭を自身の方に引き寄せて「そのまましがみついていろ。決して顔を上げるな」と私だけに聞こえる様に小声で囁いてきたので大人しく従った。
「お待ちください。どこに行かれる気ですか?」
先程と違う声が引き止めた。
「家に帰るだけだ。これも悪鬼に襲われかけたせいで怯えて疲れている。用が済んだのならもう帰る」
と言ってまた歩き出す。
「そうもいきません。先程申した通り本当に『みこ』が存在するのならば保護しなければなりません。なので狙われていたそのお嬢さんが『みこ』かどうか調べなければなりません」
「それはお前達の事情で俺達には関係ない」
祓い師達の言い分をバッサリ切り捨てて歩き続ける。
それでもしつこく祓い師達は言い募る。声が遠ざからないから付いて来ているのだろう。
「もしそのお嬢さんが『みこ』だったらどうするのですか?」
「そうです。もし『みこ』だった場合我らといた方が安全です」
他にも理由を付けて私がみこか調べると言い募る。もうそろそろ限界だ。頭痛が酷くて意識を保つのも辛い。
「調べると言ったがどうやって調べる気だ。そもそもお前達は『みこ』が神子か巫女か皇女かわからないと言っていただろう。何かもわからないのに特定する方法があるとでも?」
そう返すと祓い師はぐっと押し黙った。
「そもそも護剣省の祓い師などとお前達が勝手に言っているだけで真偽は定かではない。ただ身分を偽っている可能性だってある。そんな奴らにこれを調べさせる訳にはいかない」
「しかし」
なおも言い募ろうとした時、佳宵は足を止め振り返った。
「いい加減にしろ。とっととここから去れ。さもないと斬る」
佳宵の声はとても冷たかった。今まで聞いたことがない。心做しか周りの温度が下がった気がする。暫くそのまま立ち尽くしていたかと思うとまた歩き出した。今度は追ってくる声が聞こえない。やっと諦めてくれたのだろう。そう考えた後私は気を失った。
誤字、脱字、これおかしくない?などありましたら是非教えて下さい!!
次は三月の中旬くらいに投稿予定です。(もしかすると下旬になるかもしれないです・・・)