【Ⅲ】虐殺
【第1章3話】
将校の号令が響いた。
「全員整列!」
ナチスの軍服を着たHM隊は速やかに行動し、将校の前へと整列する。
将校が手をぐっと顔の横で握りしめたあと、手を開くと、ヨシユアが命令を下す。
「作戦開始!」
30名のHM隊は各々散らばって、それぞれに割り振られた小屋へと向かい。ランダムに収容されている大人を30名選び整列させ、指示に従わせる。人に指示を出しそれを規則正しく従わせる事も訓練の内だ。
1944年:
その年に入るまでは収容所も特に虐殺といわれるほどの軍事行動はされていず、ただユダヤ人に対しての迫害は続いているだけだった。
数十名の大人たちがHM隊の誘導により壁沿いに並ばされ、後ろを向けさせられた。
HM隊もその列に平行に整列して、自分たちと同じようにここへ連れて来られたひとに対して銃を向けるように命令された。
将校が叫んだ。
「撃て!」
パン パン パン・・・・。
その掛け声とともに特に何も問題を起こしたわけでもないであろう大人十数名はHM隊のこどもたちの銃で銃殺された。それが何度も何度も違う大人が並び行われ、こどもたちはもうマシーンになったかのように号令とともに撃つのみであった。その行動には躊躇は無く感情や道徳観念は消え去っていくのであった。
HM隊はアウシュビッツの収容所の見周りもするようになった。外に出てナチス兵と共に収容された人たちが命令通りに働いているのかをチェックするのだ。ヨシュアたちにはナチス兵と変わらない食事が与えられていた。ヨシュアはいつか母たちに会える事を考えてパンなどを軍服の中にしのばせて二人を探していた。
やっと母たちがいるところが分かり自分の分の食糧を母に内緒で渡せるようになってきた。3年ぶりにあった我が子をみて母はヨシュアの顔に震える両手でさわりとても喜んでくれた。
「あなたが無事で本当によかった。働けばここから解放されるから頑張ろうね。」
と話しあった。たぶん自分の食事をリベカに与えているのだろう、体がやせ細り前の面影がうすらぐほどの身形になっていた。
「どうかお母さんもパンを食べてください。」
と、一言だけ言い残しヨシュアは軍へ戻っていった。
HM隊はそれから武器もなくナチスの兵隊たちの手伝いをさせられた。ナチスは大量の捕虜たちを歩かせてある巨大な倉庫へと誘導していった。
「口を開けろ!」
ナチス兵が捕虜たちの歯をみて金歯があるものと無いものにわけた。金歯があるものは別の場所で歯を引き抜かれまた先ほどの巨大な倉庫へつれてこられた。
「全員服を脱げ!!」
ナチスの命令は絶対だ。老若男女関係なく子どもでさえ、みな服を脱ぎ捨て、隣の部屋へと移動させられた。
その部屋の天井にはシャワーのノズルのような物が広いへや一面に設置されていた。その部屋にぎゅーぎゅーに押しつ籠められてただ、時を待つだけだ。すると
ザーーー
と、雨のように水が部屋にいた人たちに降りかかった。みな水だと思ってよごれた体を洗おうとしはじめるが、次の瞬間苦しみ悶えはじめた。
「あ゛ぁあ゛ーーぁーーー」
それは猛毒だった。
大量の死体はあらかじめ掘られていた穴にいれられた。死体の土がもられたのだ。その死体を穴にいれるのも同じく捕虜の仕事だった。同じ民族の死体を捨てるか、死かどちらかを選ばなければいけなかった。
その虐殺が連日続いた。
このアウシュビッツの大虐殺はのちの1979年『負の世界遺産』として、世界遺産に登録された。
【第1章3話】完