【Ⅱ】精鋭部隊
【第1章2話】
無理やりドイツ兵に召集されたこどもたちは、一列に並ぶように命令され、次々と後ろから黒いマスクを被せられた。ヨシュアも例外ではない。
視界は閉ざされ、うっすらと朝日の光が照らすだけで何をされるのかも分からずに腕を一直線に伸びた一本のロープにこどもたちはみな縛られ、それをたよりに見えない視界の中、歩き移動させられるのだった。母は、そして幼い3歳のリベカは大丈夫なのだろうか・・・・。
硬い木の椅子に座らされてやっと黒いマスクを数人の銃を構えたドイツ兵が取っていく。その場所はまるで教室のような部屋で連れて来られた10歳から5歳ほどのこどもたちが座らされていた。その人種はユダヤ人が多かったが他の国の子どもたちもいた。部屋の前方中央にある教卓の前には一人のドイツ将校がものすごい圧力のある目でこどもたちを見降ろし、突然右腕を斜め上へ勢いよくビシっと伸ばし大きな声を上げた。
「ハイルヒットラー!!」
こどもたちの間で陣をとっていた先ほどマスクを取ったドイツ兵4人がその声のあと続けて、腕を上げた。
「ハイルヒットラー!!」
将校は圧力のある凛とした態度で話始めた。
「我々は栄誉あるドイツ軍人ナチスである!!」
こどもたちは固唾をのんでじっと将校を見つめる事しか出来なかった。
「ヒトラー閣下はアーリア人至上主義によりこの神聖なるドイツの占領下の国においても情け深い方でお前たちアーリア人以外のこどもを救ってやろうという考えだ。しかし!」
ビクッ!!?
将校が話の途中大きな声を出したのでこどもたちは驚いた。
「救えるは少人数の限られた人間だけだ。能力の無いもの、体力の無いものについてはこの中には含まれるはずもない!ただ一欠けらの望みだけは残してやろう。わたしの命令を聞き従い、わたしのいう通りに実行出来た者だけが生き残れるものと心しろ!」
そしてナチスは、みなを立たせ同じようにヒトラー総統を誇示する構えをさせて叫ばせた。
「ハイルヒトラー!!」
「ハイルヒトラー!!」
「ハイルヒトラー!!」
「・・・」
何度も何度も同じことを言わされその緊張感からかひとりのこどもが泣きだした。
「黙れ!!」
ナチスが、こどもに命令するがその感情を年端もいかないこどもが制御できるはずもなく泣く事を止める事ができなかった。
パン!!
一発の銃声が部屋に響いたと思うと、こどもの泣き声も止んだ。ヨシュアも他のこどもたちも振り向くが、そこにはさきほどの子どもが横たわり、こめかみより血を流していた。
ここは戦場、生き残る為には命令を聞き感覚を研ぎ澄ましナチスの銃に撃たれないように指示に従うしかない。
戦後よく聞く情報は、ナチスはユダヤ人を600万人を虐殺し、その話の中に含まれた事は捕虜にした人間に対して色々な人体実験を繰り返したといわれている。皮肉にも現在の医療が進んだのもこの人体実験の資料があったおかげだとも言われている。
ヨシュアたちが入れられたこの作戦は、【HM作戦】と言われた。主に子どもの軍事強化であり英才教育。ナチスの軍服を着せられ、銃器の扱いから仕草そして言語と戦闘ナチスの精神ありとあらゆる教育をされその都度ついてこれなかった者は命を失うのである。3年間この建物の中で教育されたのだ。その中にあって唯一の心の支えは一緒に労苦を共にする友だった。こどもたちはお互いを励まし合いながら支えった。
だが、しかしそれもナチスの手の内の事、その中で育まれた友情も二つのチームに分けられ、お互いに殺し合いをさせられ、その適応力を測られる道具として使われたのだった。相手は友。だが命の取り合いであった。
ヨシュアは生き残り、そして優秀であった。その容姿と明晰な頭脳はナチスでも評価され、どのこどもよりも優秀でエメラルドグリーンの瞳は同じドイツ人にとって近い人種だと感じたのか、HM部隊のリーダーとして一番年下のヨシュアが選ばれたのであった。
先頭に立って先導するのはヨシュア
「ハイルヒトラー!!」
それに規則正しく応答する優秀なこどもたち今では30人ほどと人数を減らされてしまった。
「ハイルヒトラー!!」
3年の過酷な訓練を終えて建物から出る時がやってきた。そこには太陽の光がHM隊のみなに久しぶりに照らし出した。太陽をさえぎるかのようにみな手を顔の前に出す。母と妹は今どうしてるのだろうか・・・。
【第1章2話】 完