【Ⅹ】絶体絶命
【第1章10話】
1948年5月14日:
ユダヤ人のシオニズムは、イラエル国を宣言した。初代大統領は、ハイム・ヴァイツマン。初代首相はベン・グリオンだった。ヨシュアは特に、ベン・グリオンに気に入られ13歳という若さだったが、ベンの横で付き人のようについてまわった。その歴史的なイスラエル国の宣言日に、間近でその瞬間をみていたのだ。大統領の役目は最終決定であって、実務など実際に行動に移し、影響力があるのは首相のベン・グリオンだった。
パレスチナ人との諍いがないような国を作ると言う宣言だったが、うらはらに次の日、5月15日第一次中東戦争が勃発した。レバノン、シリア、トランスヨルダン、イラク、エジプトのアラブ連盟5ヶ国はイスラエル建国宣言を聞いてパレスチナと共に戦争を宣言したのだ。
ヨシュアの一声で集まったのは、HM隊と大学の生徒でシオニズム派のメンバーだった。50人ほどを集めたヨシュアに対してベンとハイム大統領は驚いたという。
イスラエル国宣言をする3ヶ月前、もうすでにパレスチナ、アラブ人のフサイニーがアラブ救世主軍を結成し15万人の義勇軍でイスラエル国を取り囲んでいた。そして、
『我々の攻撃はモンゴル人や十字軍の蛮行と並び称されるような徹底的な虐殺と根絶の戦いになるだろう』
と、義勇軍をあおりユダヤ人の殲滅へと今まさに襲いかかろうとしていたのだった。
ヨシュアもHM隊と共に、ユダヤ人民兵組織ハガナーの一部隊として参加することになった。しかし、相手は義勇多国籍軍15万、そしてこちらは民兵7万だった。ユダヤ側はこういった事態を想定して欧州各地から武器を買いあさってはいたが、やはり戦力的にはとぼしかった。
そんな中の、イスラエル独立宣言だったのだ。国を立ち上げ第一次中東戦争を起こさなければユダヤ人は滅亡する。
ベンは苦悩しながらハイムと話をする。
「この戦いは大勢の犠牲者が出るだろう。しかし玉砕覚悟で立ち向かうしかない!」
それを近くで聞いていたヨシュアが大げさに顔に手をやって横に顔を振った。それに気付いたハイム大統領が
「何か言いたい事でもあるのかね?ヨシュアくん」
ヨシュアは敬礼をしながら言った。
「この戦い、玉砕覚悟で相手に挑めば負けてしまいます。」
ベン首相が言う。
「そんなことは分かってる。だが、玉砕もしなければ何もせずに負けてしまうではないか。」
「はい。その通りです。何もしなければ負けるのも必然でしょう。」
ハイム大統領が聞きなおす。
「何かいいアイディアでもあるのかね?」
「はい。この戦いは勝とうと思って戦うのではなく、時間を長引かせるように戦うのです。まずは、外の町のテルアビブと手を結び、なるべく町の人と共に時間稼ぎをします。その間に軍事力の強化をするという考え方です。」
「ふむ。軍備強化はもちろん大切なことだが、それだけの時間稼ぎが出来る方法はあるのかい?」
「はい。敵側のアラブ軍が狙うのは市街を占領することが我々に勝ったという証になると思っているはずです。ですから、わたしたちは、別の場所で本体を置き準備を着々と進めておきます。アラブ軍が狙う市街地には時間稼ぎをする防衛部隊を配置しておいて、ある時期にきたら、わざと降伏するように言っておくのです。そうすることによって、ユダヤ人の被害も最小限に抑えれるでしょう。次にアラブ軍はユダヤ軍本隊があることに気付くでしょう。そこで勝つ戦いではなく、休戦に持っていくような戦いをするのです。そして、休戦の間に戦力強化をして反撃に移るのです。」
その意見を聞いてハイムとベンは目を合わせ、何度もうなずきベンが話した。
「やはり、最新鋭の武器というとアメリカだな。ヨシュア、わたしの部下と一緒にこれからアメリカへ行ってみる気はあるか?」
「はい。もちろんです。」
ヨシュアの戦略を採用してユダヤ政府は戦争に勝つのではなく、休戦へ向かうように動いた。その間にヨシュアはアメリカに行きユダヤ政府からの派遣として重要な人物たちと出逢うのであった。
【第1章10話】完