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  作者: takayuki
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【Ⅰ】貨物列車の音

この小説は空想小説であり登場人物や出来事が似ていたとしてもそれは単なる偶然である。歴史的背景をもとに書かれてあるが、史実とは異なる点が出てくる。



【第1章1話】



1940年10月:


ガタンゴトン ガタンゴトン


その日は、冷えはじめた季節が全員の体を覆うような日だった。


ドイツの西に位置した国ポーランド、そこにはある施設があった。ポーランドの下、南にはスロバキアという国があるがポーランドとスロバキアとの国を分かつ境線沿い近くのポーランド内にその施設はあった。


あたりは夜に近づきうす暗くなっていた。広大な大地には、何も無くただ一直線に伸びる電車のレールがその施設に向かうだけのように続いていた。


ガタンゴトン ガタンゴトン


うす暗さのせいか、それともこの貨物列車の中にひしめき合っている人々が老若男女、年齢関係なく押し籠められている異様さのせいか、その施設に一直線に伸びるレールがとても不気味に見えた。


その施設はポーランド人が建てた工場だったが、占領したドイツ人はその施設をこう呼んだ。




『アウシュビッツ』と。





ガタンゴトン ガタンゴトン


人々の声と貨物列車の音がいりみだれて5歳になったばかりの子どもヨシュアは、3歳の妹リベカを抱っこする母の服をギュッと握りしめ母も何度もヨシュアを気にしながらヨシュアの頭をさするのだった。


「お母さん、この列車はどこに向かってるの?」


「そうね・・・ごめんなさい。お母さんにもわからないの・・でも、お母さんがあなたたちを守るからね。絶対にわたしから離れたらだめよ。」


母の顔は不安に満ちていたが、小さい子ども二人を強く抱きしめながら祈りを捧げるのだった。5歳児になったばかりの子どもにさえ不安は心を誘うのだった。



何時間も走りつづけた貨物列車のスピードが落ちてから数分後、何十車両もつらなった列車が施設へと到着し停止した。


すると、丸い緑色のヘルメットをした多勢のドイツ兵が腕に卍のマークをつけ貨物列車の扉を勢いよく開けた。


「降りろ!」


この列車には色々な人種の人々が乗ってはいたがその大半はユダヤ人だった。ぞろぞろと人々がカバンや荷物を持って貨物列車から外へ出た。隣もそのまた隣の車両も同じように扉が開かれ何百人という数の集団がドイツ兵の指示のもと誘導される。持っていた荷物は全て没収され、ネックレスはもちろん指輪、時計なども全て籠の中にいれるように命令された。

 ドイツ兵の緊迫した面持ちのせいか、誰ひとり文句すら言わず大人たちがいう事を聞いているのをヨシュアは不思議そうにみるのだった。ドイツ兵と貨物列車に乗せられていた人々との間には子どもでも分かるかのような格差があったのだ。

 多勢の人々が一斉に歩く中、はぐれないように母の手をしっかりと握りヨシュアは誘導されるまま向かった。アウシュビッツの周りは鋼鉄線で張り巡らされその網には看板が貼ってあった。その内容は、


【働いたものには自由が与えられる】


と、書かれてあった。

多勢の人々が向かったのは倉庫の様な小屋でそこは、狭く動物でも入れるかのような場所でお世辞にもきれいだとは言えない場所に人々は詰め込まれた。


その夜は何事もなく、ただ小屋に詰め込まれただけだった。10月という季節のポーランドは寒かったが、小屋の中には人々が詰め込まれるように入れられていたせいか温かさも感じるのだった。ヨシュアは立ちあがり全体を見える位置でただ一点だけを見るようにずっとその小屋の様子を窺がっていた。


「おい。坊主。」


「・・・。」


「おいって言ってるだろ?お前だよ。お前。何ぼーっと見てるんだ?頭でもおかしいのか?」


一人の男がヨシュアに話しかけるが反応する気配がなかった。その様子を見て心配した母がヨシュアを守るように抱きしめて


「すみません。この子は感受性がつよくて、頭の良い子なのでみなからは少し理解されない事が多いのです。そういった目で見てやってくれませんか?ごめんなさい。」


ヨシュアの母は、ユダヤ人でその容姿はとても美しく品のある女性だった。父はオーストラリア人で第一次世界大戦の時にドイツに勝ちその後のドイツを監視する役目の為にドイツに来ていた。そこで、母と出逢い二人の間にはヨシュアと妹リベカが生まれたのだった。オーストラリアの血が半分はいったヨシュアとリベカの目は綺麗なエメラルドグリーンで、外見はユダヤ人だが目だけは西洋の血が入りまた容姿もユダヤ人とオーストラリア人の混血の為かとても整った顔立ちをしていた。

 母はユダヤ人にはめずらしくキリスト教徒であった。オーストラリアの父の影響からだろう。幼き頃より教わっていたのは、赦しと仁徳であった。


夜は耽り、不安な人々の気持ちとはうらはらにとても静かな時が流れたのだった―――



次の日の朝、ドイツ兵が3人ほどヨシュアたちの部屋にずかずかと入って来た。そして、10歳以下ほどのこどもを連れていくのだった。ヨシュアもその中にもちろん含まれた。母は、ヨシュアを連れて行かれそうになるとヨシュアを抱きしめ離さないように抵抗をするがドイツ人が銃を母へとかまえると、まわりのユダヤ人が驚き手伝いヨシュアと母を引き離したのだった。泣き崩れる母を横目にヨシュアは他のこどもたちと共に連れて行かされた。


「ヨシュア・・・。」


こどもたちを連れて行かれた母親たちの声だけが静かにしずまりかえった小屋の中に響き渡るのだった。



【第1章1話】 完

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