日本への道のりは……
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「……日本を見てみたいの」
「…………」
「姉さん?」
「…………」
「ね、姉さん……」
「何が目的ですの?」
「え?だから……」
「嘘おっしゃいな、マリナちゃんがそんな俗物っぽい理由でいきなり来るなんて信じられないですの」
「うっ……」
「それにマリナちゃんは嘘をつくのが下手ですの、さぁ、本当の理由はなんです……」
芯をつかれマリナがたじろぐ、流石は姉。伊達では無い。しかし、マリナはじっと何かを思案して。
「実は……」
と、そこで更に言葉を区切り言いよどむ。どうやら相当の事なのかマリナは話すべき言葉を吟味する。
「まぁ、話すべきことが決まったら呼んで下さいな、マリナちゃん」
そう言ってマリアは岬の淹れたお茶を口に運ぶ。
市街地
仕事の話だろうと思い岬は席を外した。事務員とは言ってもマリアは岬に異世界の任務の話をしたがらない。正直話してくれてもと思わなくも無いが、岬自身も何となく理解して追求はしない。そのために席を外したのだ。
「さぁて、あの事務所本当に何にも無いからなぁ、何か買っとこうかな」
そんな事を呟きながら岬は歩道を歩く。時間は五時前、まだ仕事帰りのサラリーマン達も少なく、動くには調度いい時間帯だ。
オフィス街を抜けると商店街があり、アーケードのそれは歩行者天国で、両側に様々な店が立ち並ぶ。
「そう言えばお茶請けのお菓子も少なくなってたなぁ……後はトイレットペーパー」
事務所の足りないものを頭の中にリストアップしながら、岬は商店街を歩く。人を見れば、夕飯の支度の買い物だろうか主婦の姿もおおい。それを微笑ましく思いながら見ていると。
?
と、路地に入り込む人影。普段なら気にもとめなかったが、今日は何故か気になった。
「…………」
別に無視しても構わない事案であったが、岬の足は自然に路地へと向いていた。心中では何故か危険だと警鐘が鳴っているが、好奇心がそれを無理やり抑えつけ、岬の足をその方向へ向かわせる。
一歩一歩。歩く度に緊張感が増し、自然に手のひらに汗がにじみだす。まだ路地に距離がありアーケードには多数の人がいる。
………
更に緊張。次第に歩く速度も慎重になり、ゆっくりとした足取に、そして何時しか警戒した足取りになる。
更に一歩。路地まで後数歩。
そして……
「………あれっ?」
路地の中、覗いた先に岬の確認した人影はなかった。路地は一本道で次の路地にぶつかるのは百メートル程。走ったとしても今のタイミングで見失う筈はない。疑問に思いながらも岬は一歩、更に一歩と路地に足を踏み入れる。
路地の中。アーケードにならぶ店の合間の路地を見回しながら、更に数メートル。既にアーケード側から見えずらくなった、その時。
「動くな………」
と言う声と共に岬の首筋にナイフの切っ先が突きつけられる。
異世界事務所(仮称)
「姉さんはカイラス・クインスって知ってる?」
「カイラス・クインス?」
「冒険者………というよりも殺し屋と言ったほうが言いと思う……けど」
「あぁ!ナイフのクインスですの?」
「そう……そのクインス……」
「で、そのクインスがどうしたんですの?アレは確かBランク上位の魔導剣士だったと思いますけど……マリナちゃんが手こずる相手では無いでしょう?」
クインスの名前が出た時点で、マリアが反応。彼女の能力を考えればクインス程度に手こずるとは思えない。なら、何故わざわざコッチまで来てマリアに相談したのか。少し考えてマリアははっとする。すると、その表情をみて。
「そう、クインスがコッチに来てるの……」
マリナがそう告げる。が、告げた瞬間今度はマリアがそれを否定。
「そんな事あり得ませんの……現状日本とヴォバックを繋ぐゲートは……」
「それが出来るとしたら……」
「まさか……」
マリナの言葉にマリアが驚愕の声を上げそうになる。しかし、マリナの表情はマリアの推測を否定し現状を肯定する。
「まぁ、姉さんは解ると思うけど、ゲートを繋ぐ空間魔術はおいそれと使えるモノじゃない」
「当たり前ですの、それこそ膨大な魔力と制御、針の穴を通すくらいの精密さがいりますの……」
と、そこでマリアが再び何かに行き着き。
「まさか!ギルドの空間魔導士が……」
と、そこまで言ってマリナが頷く。そして。
「そのまさか……空間魔導士の一人が買収されていて……今回は事前に発見して捕縛出来たけど、どうも一人コッチに送ったみたいなの……」
「それがクインスですの……?」
と、そこで互いに一度だけ息をはき、間をあける。
「でも、どうしてこちらにくる必要があるんですの?どこの誰かは解りませんが、メリットが不明確ですわ」
「そうね、姉さんの言うとおりだわ……その件に関してはギルドも真相にはいたってないの……もしかすると相手もこちら側の人材を欲しているかも……」
ギルドがそうしているのだから相手も、そう考えるのは解らなくも無いが、それを聞いてマリアが否定するかのように首を左右にふる。
「それは無理ですの……」
「えっ!?」
「理由は一つ、こちら側の、そう日本からの来訪者には必ず魔導石がいりますの、ヴォバックの人間と違い、こちら側の人間の才能は判別出来ても、発現させるには必ず魔導石の力がいりますの、でも魔導石はあの場所の人間が一括管理し、そして冒険者ギルドのみがそれを使用することが許可されていますの、だからこちら側からいくら人員を連れて行こうが、それは無駄に終わる確率がありますの……」
「そっか……そうなると冒険者ギルド以外が、こちら側から人員を連れて行くのは、メリットが無い訳ね姉さん?」
「そう、でもそうなるとどうしてこちら側にクインスが来たのか……」
「捕まえてみないと、という訳ね………」
「そうですわね……」
既に冷めたお茶を再び口に含み、マリアとマリナは大きく息をはくのだった。