何とはなしに
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異世界事務所(仮称)から出た三人は、いつも通りの帰路についていた。時間も昼過ぎ。日も高く、通りには足早に歩くサラリーマンの姿が多い。
(今回の研修の報酬は仲介料を差し引いて通帳に振り込みましたの………)
マリアが何時の間にか用意した三人分の通帳には、マリアの言ったとおり日本円、日本円で金がふりこまれていた。
「一…十…百……万……十万………八十五万!?」
誰とは無しに発した言葉、勿論三人全員が通帳を見て驚愕の声をあげる。
「うぉ、半日仕事で百万近いって………嬉しいような……引くような……」
「確かに、ここまで順調ですけどヤッパリ詐欺でしょうか?」
「まぁ、まだあり得ねぇとは言えねぇけど、実際何度か死ぬ思いしたしな……」
「熊……に猫に……あそこは動物王国っすかねぇ……」
通帳に刻まれた金額を見つめながら、三人は色々思い浮かべる。
と、その時。
「あぁっ、昌晃!!」
道路いっぱいに響く声を耳にして、三人は声の方へと視線をやる。
「岬……」
「昌晃、授業さぼったでしょ!!?」
顔を確認するや否や、岬が昌晃に詰め寄る。
「いや、今日はバイトでトラブルがあってよ」
「何言ってんのよ!学生の本分は?」
「…………」
「学業に決まってるでしょ!眠いとしても授業にはでなさい!」
岬は鬱陶しそうにする昌晃などお構いなし、周りの目も気にせずに説教を始める。
「ま、まぁまぁ海堂さん、昌晃も…多分反省してますし」
そう言って仲裁に入る淳。が。
「多分じゃ困ります!それに千鳥さん!」
「はっ、はい」
「あまり昌晃を甘やかさないで下さい!コイツ高校の時凄い荒れてて、やっとの思いで大学に入ったんです、それなのに一年目からサボリとか有り得ません!」
なんか段々と母親みたいな感じになってきた岬。流石にそう言われてたじろいだのか、淳も一歩下がって様子を伺う。
「お、おい淳」
「うぅん、すいません正直、海堂さんが正しいと思いますからここは大人しく……」
「ちょっ……苦笑して誤魔化すなよ!」
「だから………って、昌晃聞いてる?」
苦笑しながら純一と共にもう一歩下がる淳、すでに静観モードだった。
「兎に角、ちゃんと私から店長にも言っといたあげるから、授業にはちゃんと出なさいよ!」
異世界事務所(仮称)
「と、言う訳なんです、ですから余り昌晃に夜勤は………」
昼から授業は無く、岬は昌晃達と入れ替わりで事務所に入る。そこでマリアについさっきまでの顛末を話し、要望を伝える。
「それは……解りました、どうしても人手の足りないときのみ、夜勤に入ってもらうようにしますの」
「すいません、店長」
「構いませんの、それにしても岬はしっかり者ですのね」
純粋に感心するマリアは大きく頷き、昌晃の待遇について改善すると約束する。
「それにしても店長は、その……あの……本当に異世界人なんですか?」
未だに異世界人と言うのがにわかに信じられない岬は、もう一度その事について質問する。すると。
「そうですのよ、異世界ヴォバック、こことは完全に別の世界からきましたの、良いところですわよ岬も一度来て下さいまし」
隠す仕草や悪びれる様子もなく、マリアは自分の出身地について話し始める。
「異世界かぁ……昌晃達はそこで作業してるんですか?」
「その通りですの、ヴォバックで冒険者見習いをしてますの」
「冒険者……見習い……」
「そうですの、冒険者はその名の通り色々な任務を受けて色々な場所へと行きますの……危険はありますがロマンがありますの」
「そうなんですか、店長、私もなれるんですか?」
不意の質問、マリアは一瞬だけ逡巡して。
「残念ながら……ヴォバックの人間ならだれでも適性はありますが、地球……こちら側の人間は相当の適性が無いと………勧誘は出来ませんの……」
「そうですか……」
少しだけ表情を暗くしながらも、それほどショックは受けずに岬は気持ちを切り替え。
「店長、私お茶入れますけど?」
「ありがとう、貰いますの」
執務机に座り直し、マリアはゆっくりと頷く。
時間は四時を過ぎたあたり。と、その時、異世界と繋がる奥の扉が光を放ち、ガチャリと扉が開かれる。
「あ、お客様でしょうか?」
「多分そうてすの、岬、お客様の分もお茶を」
「はい!」
そう言って、お茶を用意するため、シンクへと向かう岬。マリアは客人を迎えるために扉へと近づく。
ガチャリ……
ドアノブが下に回り扉が開く、と、そこにはマリアと似た人物が現れる。それを見てマリアは。
「アラ?マリナちゃんじゃありませんの、珍しいどうしましたの?」
と、親しげに声をかける。すると、マリナと呼ばれた女性は。
「姉さん、お願いがあるの……」
開口一番、何かを懇願してくる。
「あら?珍しいですわねマリナちゃんがお姉ちゃんにお願いなんて、どうしましたの?」
「それは………」
周囲を見回し、マリナは口ごもる。
「安心して下さいまし、ここには女性しかいませんし、岬は信頼出来ますの」
まぁ、とりあえずと何時の間にか準備されていたソファーにマリナを座らせ自身もその対面に腰を
おろす。と、そこにタイミングよく岬がお茶を持ってくる。
「あの、お茶で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
岬からお茶を受け取り、マリナは一息つく。
「店長、私少し席を外しますから……」
岬はそう言ってマリアの回答を待たずに、事務所を後にする。
………
少しの静寂。すると。
「姉さん、私もこの日本という場所を見てみたいの!」
「はぁ?」
いきなり発言だった。