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dybate  作者: 酒匂
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本当にそれでいいの?

注意書き※ディベートとは討論のことです。

(しばらく説明が続きます。++++++の後ろからが本文です。そこまでスキップしてもらってOKです)

与えられた議題に対して賛成派と反対派に別れて議論します。


あらかじめ決められた制限時間内にどちらかが順番に話を展開していきます。話の定義と展開、次に相手の定義展開への応答と、結論を述べてどちらの内容がより説得力のある内容かを決める競技です。


例題として「自動車は人間社会を便利にしたか」を提示すると。

賛成派は、自動車普及前と後の変化、利便さを唱えたりします。遠隔地の移動時間の短縮により、ヒト、物の移動が盛んになり産業の発展に貢献してきた、ということが言えます。

急病者の移送がスムーズになり、早期治療が可能になり生存率が増加したことなどが挙げられるでしょう。


反対派は、自動車普及によるデメリットなどを述べられます。交通事故の死傷者の数、車利用のための公害、そして人体への影響を言います。

運動時間の短縮による廃用性症候群――廃用性筋委縮……運動不足による筋力低下、メタボリック症候群と病気発生の弊害を挙げ連ねて行きます。


この二つの議論を総合して、論理の整合性は取れているか……聴衆をいかに説得し自分の味方につけるかを競う競技です。

いささか極論ですが。「美人はトイレに行かない」という酷い内容でも、賛成派が反対派をやりこめて、聴衆を説得出来てしまえば、それは賛成派の勝ちになります。

……訓練次第で演説の上手い政治家を生むことにつながるかもしれません。


ただし、今回は、ただ、作者たち(友人協力)の意見をある程度表示するために。

ぐだぐだと、意見を述べてもらっています。実際のディベート競技関係者が見ると大いに違うと苦情を受けそうな内容ですが。そこはご了承ください。

以下から本文です。


+++++++++++

「いきなりだけど、ディベートをしてほしいのだけどいいかな? 報酬はアテナのケーキでどうかな?」

本当にいきなりだった。

いつものように雅さんは気配なくいきなり学園に現れて、いきなりそんなことを言って来た。いきなりがゲシュタルト崩壊しそうだった。

雅さんは綺麗なお姉さんだ。同年代の人はたいてい茶髪なのに、珍しく綺麗な黒髪をしている。もう校則とかないし染めてもよさそうなのに黒髪のままだ。

清楚可憐なお姉さんに見える、見た目的には。

だけど中身は違う、絶対違う。ただのおっさんだ、外見と中身が激しく違う。

いつもはわたしに告白まがいなことを仕掛けてくるのに、今回はこれだった。

突然現れて突拍子もない話を繰り出してくるのが常だけど、方向性が少し違う。一体何を企んでるだろ。

とりあえず先を促すことにしよう。情報収集だ、話を聞こう。

「受けるかどうかはまだです、議題の内容はなんですか?」

報酬がアテナのケーキ。

行列の出来るケーキ屋、アテナのケーキは魅力的だけども。



ディベート、つまり討論、議題に沿っての話合いだ。

与えられた議題に対して賛成派と反対派に別れてどちらの議論がより説得力のある内容かを議論する。

あらかじめ決められた制限時間内に順番に話を展開していき。話の定義と展開、次に相手の定義展開への応答と、結論を述べてどちらの内容がより説得力のある内容かを決める競技だ。


「そうだね、内容がわからないと、受けようもないからね。――簡単な話だよ。でも当事者にとっては凄く、悩む話かな。

『初恋を時間が経った後、当人に明かすかどうか。』どうする? そんな話だよ」


「「乗った」」

背後にいた夫婦が答えた。

見た目からして体育会系のちとせ、と文化系のあやが同時に答えていた。

「ちょ、何勝手に」

それまで静観していたおおかみさんだけど、予期しない所から返事が来て慌て出した。

まさかこの2人が返事するなんてわたしも予想だにしなかった。


何より裏がありそうだ、とおおかみさんは雅さんを警戒している。雅さんはおおかみさんのいとこだし、経験則で危険性をわかるんだろう。

ただ、今回は目的がはっきりしないから、わたしたちはまだ判断を保留してたのに。

「もちろん乗らないわけにはいかないでしょ」

あやがなんか良い顔をしていた。ムカつく。

この2人は余計なことを……こちらがまだ受けるかどうか決めてないときに勝手に返事して……おおかみさんと一緒にうらみがましく目線を送った。


「それにしても。一体どうしたんです? あなたがそんなことを言うなんて珍しい」

わたしが言うと雅さんは肩をすくめて苦笑した。

雅さんは基本的に自分の欲望のために動いているような節がある。

かわいいものには目がないから、同じ学年の背の低い女の子を追い回していることもある。

あの子腕っ節強いし、返り討ちに遭ってメタメタにされてるけど。

そんな直情的な雅さんが、こんな風に理性的になっているのはかなり珍しい。雅さん自身、らしくないことは自分でもわかっているようだった。

「だよねー正直、あかねちゃんにも話をしたいんだけど。ちゃんと聞いてね? 今はちょっと調べものがあるもんだから。

実は友人がね。初恋の人にバッタリ会っちゃって、秘めた気持ちを明かそうか、明かさないかで凄くぐらついているの。だから、参考がてらあなたたちにとってそれはどう感じるか、って思ってね」

「それ友人ダシにして」

あなたは楽しんでるんですか。

そう言おうとしたけれど雅さんに遮られた。珍しく語調が強かった。

「ええ。重々承知してるわ。でも格好の機会なの、それを考えるには。

あの子はそういう自分の感情を過去のものとして捉えてる。過去の自分と今の自分は全然違う別人。もう切り離されたものとして考えているの。

でもね、過去の自分と今の自分はつながってる。過去の自分がいるからこそ、今の自分が存在している。過去を切り離すことはできないことになるのも確かよね? 過去の延長線上に今の自分はいるんだから。

だったらその気持ちはどうなのか。風化するものなのか、しないのか。それを、あなたたちの意見を聞こうと思ってね」


「あっさりした内容かと思えば…………相当な難問ですね」

そうした恋愛観は個人で異なる。その答えは、唯一のものではない。

ディベートは聴衆を説得する競技だ、誰もが納得して説得できる内容になるかは解らない。

「そぅなの。個人の見解を伝えはしたけど、あたしもそう恋愛経験はないものでね。だから、あなたたちの一般的な話を聞こうと思って馳せ参じたわけ」

「いいんですか? その人に許可取らなくても?」

「面白いからってGOサイン出してくれたわ、二つ返事で」

「……恋愛事ってかなりの個人情報だと思うんですけど」

普通秘密にしたいもんじゃないのかな。

少なくともわたしはホイホイ自分の恋愛事情を誰かに漏らしたりはしたくない。

「そうなんだけどね、向こうもなりふり構ってられないというか。色々手に付かなくて。

軽いテストしてみたんだけど重傷でね。見えるもの全部、その初恋の子の共通点ばっかり眼に付いちゃって」

がさごそとカバンから写真の束を取り出した。

「はい。これ見て? 覚えてくれる?」

一枚の写真を見せられた。そこには一人の女性が映っていた。

じっくり見て、覚えた。

その一分後。

「次こっちね」

続けざまに写真を見せられた。今度はたくさん人が映っている写真だ。それから2,3人が映った写真と……さっきの女性と似ていると思った人がいたけれど、半分を超える少し前から、全く関係ない人の物ばかりになった。

「これは一体……」

前予告なく、何をさせたいんだろ。

「最初の写真の子と共通点のある、他人の写真」

「え、でも半分以上は全然関係なかったじゃないですか」

写真の人物とは共通点は見受けられなかった。

「残念、服の選び方とか、髪の長さとか。

ふとしたときに出る仕草とか。そういうのが重なってたの」

「え」

そんなのわかるわけない、初見の人間には。……でも、初見でない人間は。

「わかっちゃうの。問題の子は」

「それって」

かなり相手のことを想っている証拠じゃないですか。

そんなことまで知ってるとか、相当相手のことを深く見ていないと気付くことは出来ない。

それも生半可な気持ちじゃ無理だ。そこまでわかるようになる関係は、とても身近でないと無理なんじゃ? かなり近しい立場の人でないといけない。それも長い付き合いのある、親友、とかでないと。


「しばらく会ってなかったから2人ともぎくしゃくしてるし。その上あの子自身は会うのを徹底的に避けてるっていう素敵状況。このままだと何も変わらないってのにね。

そんなだから、あたしが介入してるわけ。見てられないわ」

痛々しくて。

口には出さないけれど、そう思っているのがはっきりわかった。雅さんは当事者じゃないのに、辛そうな顔だった。


ぎくしゃくしてるのは長いブランクのせいもあるだろうけど。

どう想っているか……いや、その当事者2人とも、今のことに対しては確証がないけど。

ぶっちゃけ想われてる相手の人も、どう想れてたか知っているからぎくしゃくしてるんじゃないかな。

ありえない話じゃないと、そう勘ぐってしまう。

「それにね。このままだとしばらく海外旅行に行ったり、出家したり、修行に行きそうな感じだから。飛び出したら帰ってこなさそうな感じ」

ばきゅーん。

指でっぽうの形を取ってあさっての方向に指先を向けた。弾丸は飛び出したら一直線、帰ってこない。覆水盆に帰らず……そういうこと?

「……だからどういう状況なんですかソレ」

「のっぴきならないってヤツですか」

「そりゃなりふり構ってられる状況じゃないですね」

夫婦は解ったようで、重々しく頷いている。

おおかみさんは静かに何かを考え込んでいる様子だった。

しかし、傷心旅行ですか。

そこまで思いつめてるなら、最悪な意味で帰らぬ人になるかもしれない。そう言う意味でも危険性はある、さっさと解決した方がよさそう。このディベートが参考意見として、有用なものになればいいんだけど。

……わたしたち個人の意見が本当に悩んでる人の力になれる? 力になれなかったとしたら――

「安心して? 君らには絶対不利益なことはないようにするし。……最悪な結果には絶対にならないよ、させないから。

それに、本人の名前は絶対出さないしね。ただありふれたような状況にある程度は改変してるから。あっちにも多少の配慮はしてるよ?」

名前は出さないにしても結構な個人情報の大盤振る舞いだ。誰かは知らないけども恋愛事情はもっと大事にしましょうよ。観念してため息をついた。


その当事者の人もせっぱつまってるし、期待してくれているようだし。

それに議論をぶつけあうような人員がすぐそばにいて非常にやる気だし。このばか夫婦は……

……一応は大丈夫みたいだし。

「仕方ないですね」

後ろ向きな了承の返事。

おおかみさんも苦々しそうな顔で、頷いてくれた。

やる気ある賛成派2人と消極的な反対派、もとい賛成が2人。やるしかなかった。

雅さんは嬉しそうににこにこ笑う。

なんかムカつく。報酬のケーキは一番高いやつを買わせてやる。

はしゃぐ夫婦と反対に、おおかみさんは目に見えて不機嫌だった。眉間のシワレベルがひどい。今にも噛みつきそうな凶悪な顔になってる。

それを雅さんは華麗にスル―した。無駄に図太い、慣れてるなぁ。

「じゃ、始めてもらいましょうか」

「議題は、初恋を明かすか、明かさざるか」

「単に、わたしはこういう理由があって反対、賛成って話合う程度で構わないわ」


「え、案外あっさりしてますね。」

賛成派と反対派に分かれて、徹底抗戦的に論戦するものだと思っていたけど。


「恋愛観なんてひとによって違うモノなんだから、望む様な結果になるわけないわ。

それに私が欲しいのは、結果でなくてその結論になった道程、プロセスが欲しいの。なぜ、そう考え、その結論に至ったかがね。

多分、あの子も口には出さなかったけど、ソレを望んでいるはず。自分の考えと気持ちがぐらついている今だからこそ、こういう大きなお世話が役に立つんじゃないかとあたしは思うわけよ」


「本人の許可がある以上、討論するのが良いことなのかな」

おおかみさんは肩をすくめていた。ここまで聞かされても乗り気ではないようだった。

「そんなに重く考えなくてもいいってば。少なくともこれからどうするかは、あの子の行動次第。

あたしたちはこう考えて、こういう結論に至った、って結果だけを伝えるだけ。

最終的に、あの子がどう考えてどうするのかはわからない。だってあたしは当事者じゃないんだから。参考になるデータを提供するだけなの。そうね、これはアンケートみたいなものかな?」

「アンケート、ね」

深い深いため息をついた。その言葉に納得したのか、おおかみさんは目に見えて肩の荷を下ろしていた。

どうしてそこまで、慎重になっているんだろ?

「そ、じゃ反対派と賛成派に別れて話をして下さいな」


「あ。話する前に。これ書いてちょうだい?」

A4用紙を渡された。たいていB4とかB5のプリントをもらうばかりだから違う大きさのは新鮮だった。紙に目を通した。その内容は。

「何これ?」

「自己紹介のスペース」

本当に自己紹介のスペースが書いてあった。何で?

「いんのかコレ? 話の流れをメモるだけだって言ってなかったか?」

おおかみさんが確認する。

「報告する相手は君らのこと知らんからね、つーわけで書いて? みんなもOK?」

わかった、うぃース、はい、わかりました、と口々に了承の返事をする。

自分自身の簡単な紹介、それから他人から見たその人物のことを紹介してくださいと書いてあった。一行目は本人が自己紹介。それ以下は他人から見た評価ってことになるのかな。

言われたままにそのままぽんぽん思いついたことを書いていった。

紙を交換して流れ作業的に各自の簡単なプロフィールを書いていく。

「ほい」

「ん」

お互い書き書き。

出来あがった結果がこう。結構好き勝手に書いてしかもツッコミまで各所にあった。


夫婦①あや

夫婦②ちとせ

㋔おおかみさん

㋯雅さん

㋐あかね、わたしのこと。


あかね:(わたしのこと)見た目成績ともに普通。平均点自動算出機だね。←自分で書いてて悲しくないか?

夫婦①いい子だよ? たまに毒舌ですげぇ胸痛いけど。

夫婦②一般的な女子つって思い浮かべるようなタイプだろ。

㋔悪い子ではない。だが良い子なのかはちょっと怪しいか。時々私の言うこと聞かないし。

㋯将来が楽しみだよね。18になったらお姉さんといいこと(以下は塗りつぶされている、多分おおかみさんの仕業)


おおかみさん:眉間にシワが特徴。このせいで怖そうに見えるらしい不本意だ。おおかみさん言うな。私は尾岡だ。

男らしい口調、かっこいい(笑)←だれだ書いた奴ぬっコロ

㋐おおかみさんは見た目怖いけど、優しいひとだよ。

夫婦①確かに優しいよね、色めがねで見てこないし。だから接しやすいよ。

夫婦②苦労人だ。それ以上でもそれ以下でもないな。

㋯みかはねー、もうちょっと肩の力抜いてもいいと思うの。←大体雅さんのせい ←そう思うなら自重しろ。


あや:文化系。そこらへんに転がってそうな女子だよ。←嘘だぞ。結構言うことは言うぞ。

㋐いい子だよ。時々怖い笑い方してたりするけど。

夫婦②あやは強いぞ。多分俺より。ガチ喧嘩だと勝てるかどうかわからないな。

㋔多分結構腹黒い。悪だくみもそれなりにしてると思う。←後で覚えてなさい2人とも。

㋯あらあら。人って大体二面性あるんだから当たり前じゃない(笑)


ちとせ:運動系だ。格闘技をやってる。尾岡と喋りが似てるってよく言われる。一人称は俺だ。

㋔←似てるか? ←似てるって(笑)

㋐もりのくまさん。優しくて力持ち。←何それウケるー!!(笑) ←あや後で体育館裏に来い。

夫婦①ちとせそれなりに強いよ。だからか弱い私を守って? ←絶対嘘だ ←ああ嘘でしかない。

㋔あやと2人でワンセットって感じだな。

㋯ちとせくんもあやちゃんも仲良いわね。ラブラブいいなーそう思わない紅音ちゃん? ←嫌です無理です絶対ないです。

関係のまとめとしてはこんなものだろう。ちょっとざっくばらん過ぎてアレだけど。


「あれ? 何であたしの紹介まであるの?」

「私らがこき下ろされてるのにお前だけ平然としてるのは気に食わない」

確かに散々な書評だ。ストレートに事実を言い当ててる。だけど不満がないわけじゃない。

なので雅さんも、同じ目に遭ってもらわないと気が済まないのだ。


多分、最初に雅さんのことを書くスペースを作ったのはおおかみさんだろう。

変な所で子供っぽいなーと思った。

「何だよ、こっち見んな」

「おおかみさんたら」

かわいいなぁ。

「ほらイチャ付くなそこ」

人のこと言えないって、あんたら普段から公然イチャ付き倒してんのに。

「ふーん、あたしってこんな風に思われてるんだ」


雅さん:おおかみさんのいとこ。

㋐素直で基本的には良い人です。でもお断りです。わたしにはおおかみさんが←冗談でも書くなボケ

夫婦①何考えてるかわからない人。かなりのトラブルメーカーみたいね。

夫婦②多分強い。尾岡の不機嫌の原因は9割この人のせいだな。

㋔淫乱色魔。あんまり近付かない方が良いぞ。


雅さんの横から用紙を覗きこんで、おおかみさんが頷く。

「うん、良く書けてる」

「みか、これひどくない? 淫乱って」

「間違ってないだろ」

「うん大体合ってるよね」

全員が頷いた。欲望に素直すぎるのも考えものだった。


「尾岡のいとこっていうけどあんまり似てませんね?」

あやがじろじろおおかみさんと雅さんを見比べる。

「わたしの母と雅の母が姉妹だが。雅はおじさん似でな」

「女の子は父親似っていうじゃない?」

「でもわたしは母似なんだよな」

「尾岡は男前だから」

「黙れ」

「お前のがイケメンだろが」

「違ぇし、バレンタインにチョコもらいまくってただろうが」

「お前には負けるっつぅの」

おおかみさんとちとせが口げんかしていた。なんでイケメンって言われて不機嫌になるの? 褒め言葉じゃないの?

武戦派の2人をよそに話を進めよう。なだめるの面倒だし。


「そういうことだから、じゃ、雑談は終わりにして。話を始めようか」




+++++++++++++++

おおかみさん:反対派

わたし:賛成でも時には反対


ちとせ:賛成でも時には反対

あや:賛成でも時には反対


綺麗にすっぱり別れた。みんなが基本的には賛成派なのに、おおかみさんは頑なに反対派だった。


「――――――――――条件はさっき言ったのと同じ。

誓って嘘は言わないよ。ただ、素直な意見を出してもらうために、まだ言ってないことはたくさんあるかもしれない。それ、小出しにしていくけどいいかな? ちょこちょこ指摘してくから多分ウザいかも。ダメ出しもしてくからよろしくね」

ああ、うん、はい、わかりました。

異口同意に、それぞれ頷いた。

「まず最初、2人は同じ学校で、同じ教室で時間を過ごしてた。いつの間にか友情からその気持ちが恋愛のものに変わってた。

ありきたりだと思うけど。それってあんまり長いこと一緒にいるんだから不思議でもないよね」

そんなに一緒にいたら、相手の良い所や悪いところも見えてくる。それでも、相手を好きになる程、恋愛感情の方が強くなっていたのは良いことじゃないかな。


「じゃ、わたし、あかねから最初に述べさせてもらうね。

同じ教室にいた相手に対して想いがあったなら、それは明かすべきだってわたしは思うよ。

だってその気持ちはもう過去のものなんでしょう? 今の自分と過去の自分を切り離すなんて悲しいよ。なかったことみたいにするなんて、ダメだよ。

それに、もう時間が経ってるなら、気持ちは変化しているんじゃないの? 他に好きな人が出来たり、恋人が出来てたりするものじゃないの?」

「残念、かなり一途で不器用でね、そんな惚れっぽくないの。あいつは」

そう出来たらいいのにね、って聞きとり辛い小さい声で呟いた。

「え」

さっそく詰まった。相手のことがつかみきれない分、食い違う齟齬が出るのは覚悟していたけど、最初からとは思ってなかった。

さぁ気を取り直して。

「うう。やり直すよ。

時間が経ってるなら気持ちの変化はあるんじゃないかな。再会してそこまで好きって気持ちを抑えきれなくなるんなら、もう好きって言っても良いと思うんだ。苦しんでるなら、もう楽になってもいいんじゃないの?」

「告白すべき相手にもう恋人がいたら?」

「う」

固まってしまう。

雅さんはさっきから否定することばかり言っている。ふんわりした口調だけど。全否定されてるわけじゃないけど、ダメ出しはダメ出し。かなりきつい。

「意地悪だったね、ごめん。少なくとも今のところどっちにも恋人はいないよ。

でも周りにその子のことを想っていて。それもお似合いだと認められるようなのがいたら? どう?」

「ううううううううう」

難問だった。そんなの、苦しむしかないじゃない。

自分よりかなりスペックが高くて、それも相手とお似合いだと思ってしまうような人が、そんな風に同じ人を想っているんだったら。どうしても怖気づいてしまう。

自分は邪魔じゃないか、って。

「あいつはそんな状況にいるから、だから、ね。どうすればいいか考えを貸してほしいの」

雅さんも考えて考えて、状況を良くする方法を出そうとしたんだろう。

でも、出来なかった。

だからこうして、わたしたちに話を聞きに来ている。

たすけて、手を貸して、と言ってしまえばいいのに。言わない。どうして?

「本当に助けてほしいのはあたしじゃないし?」

身体が震えた。わたしの考えを読んだみたいに、おどけるように雅さんが答えた。考えを読まれた?

雅さんは苦笑を浮かべて。

「正直、そこまで悩まんで良いとは思うんだけどねー」

「それまでの関係を壊す可能性があるから、当事者は気楽に考えられないわけですよね」

あやがぽつぽつと慎重に手探りで道を探すように、不明な箇所を埋めて行く。

ナイスあや!

「そゆこと」

雅さんは苦笑して肩をすくめた。さっきから苦笑しっぱなしだ。

提示してる情報が少ないのもあるけど、固定の条件も多めだと思う。わたしたちはその当事者の人を知らなさ過ぎる。

「それまでがいい感じに、仲良い友達関係だったんだから。その子のことを好きだって言っちゃったら、その関係は終わるよね。

好きって言っちゃったら、どうしても意識しちゃってぎくしゃくするだろうし」

「確かにね」

ちとせとあやが顔を見合わせて苦笑した。

経験上わかるんだろう。それまでの関係を壊して新しい関係を築いた2人だからこそ。

長い付き合いの幼馴染だからこそ。

幼馴染はわたしたちくらいの年になると自然と離れることが多い。多くは性別の差もあるだろうけれど、学校やクラスが別れることで疎遠になりやすいことが原因だ。

それでも仲が良い場合は、仲が良すぎると邪推してくる輩は必ず出てくる。デキてるんじゃないか、と。事実、その冷やかしで2人は散々な目に遭っていた。

「言うべきじゃない。それは最後まで、隠していた方がいい。相手がその気持ちを受け入れられない、ような場合は言うモノじゃない。

お互いが今の関係を維持したいと思ってるんなら、なおさらそれは、ほっとくべきだろう。何もしないのが一番、友達のままでいるのがベストじゃないか」

おおかみさんは頑なに反対派だった。

「でも、好きなんでしょう? その気持ちは隠し通せるものじゃないから、言おうとしてるんじゃないの?」

あやはひとつひとつ確かめるように言う。それをちとせが後付けする。

「それでも。このままでいたいと思う自分と、それが嫌だから言ってしまおうとする自分とがせめぎ合ってるわけだろ。それなら、それまでの関係が壊れてしまうとしても言ったほうがいいだろ」


「相手を想っていることを、誰かに告げられて不利益が生じてしまう場合は?」

ちとせとあやが凍りついた。


「恋愛は1人でするものじゃない。2人でするものだ。恋する方と、恋される方と。

口出ししていいのはその当事者の2人だけだ。だが、それを覆すこともあるのも確かだ。

人は1人で完全に生きてるわけじゃないしな。必ず親しい他人とそうでもない他人がいる。社会にいる限りそれは付いて回ることだ。つまり第三者の目があるってことだ。

こういう言い方は難だが。第三者が何かする……片方に好きだと想われているかもしれないと言ったり、告白している所を見て言いふらしたりすることだってあるかもしれない。

そうなれば自分自身と相手の関係が最悪なものに陥ってしまうことになる。

さらに2人の共通の友人の関係まで壊れてしまいかねない、そんな場合はどうなんだ?

それでも、言うことは出来るのか?」


糾弾するような口調じゃない。ただ淡々としていた。

無表情で、何も感情は読み取れなかった。何を想っているのか全く解らない。知らない人みたいだった。

「そ、れは」

おおかみさんの言い分は正しい、その可能性はかなり高いからだ。

この2人にその話はかなり胸に響く言葉だろう。実際にそんな目に遭った経験者だから。きっと刃物みたいに突き刺さって痛いはず。

だからこそ、そんな言い方ってない。わたしは口を開いた。

「みか」

平坦な雅さんの叱責。ただ名前を呼ぶ一言だけ。それだけでおおかみさんは自分が何を言ったのか解って慌て出した。

雅さんにセリフを取られてしまった。でもいい、おおかみさんが知らない人みたいじゃなくなってほっとしたから。

「っ……すまない」

「いや、考慮しうる話だろ。尾岡は悪くない。」

「そうそ、事実なんだから、へこたれるわけにはいかないわ」

笑い飛ばそうと努力している。強い2人だった。

友達が皆、冷たい目をして孤立してしまえば誰だって辛い。そんなことがあればトラウマになってしまっても不思議じゃないのに。


「確かにな、信頼できる相手じゃないと。そういうことは言えない。

少なくとも、告白したことを誰かに言ってしまわないだけの相手じゃないといけない。最低なやつにバレたらさらし者にされかねないしな」

「大丈夫、そこは配慮できるよ。その子は、絶対誰にも言わないよ」

にこにこ笑って力強く請け負った。

当事者2人の共通の友達である雅さん。

だからわかるんだろうな。時々、雅さんは答えを全部持っていて。それをわたしたちが頑張って導き出すのを待っているような錯覚を覚えてしまう。まるで誘導尋問みたいな感じ。

「そう」

今の今までそのこと、心配していたのかな。安心したようにおおかみさんは肩を落とした。

それから重々しく口を開いた。

「何にせよ。言いふらされたら、最悪な結果になるだけだ。

告白した方は傷つくし、幻滅する。そんな奴だったなんて、ってな。愛憎反転して、憎しみしか感じないようになるかもしれない。

そうなったら絶対にそれまでの2人の関係は修復できない。二度と無理だ」

「だよね」

相当なことがないと無理だろう。わたしには無理だと思う。許せるとしたらもう天使しかいないんじゃないかな。

「まぁそこで、2人の関係を茶化すような奴は、フルボッコにしても問題はないだろ」

「2人の関係に口出しできるのは当事者の2人だけだからな」

「いっそ全殺しにしても問題ないんじゃないの?」

おおかみさんと夫婦の意見が一致していた。

獰猛な笑みを浮かべてるあたり、なんか物騒だ。怖い。

夫婦の場合はなんか経験者なだけに凄味が増している。うわぁ……相手が生き残れる気がしない。

雅さんが最後に言い足した。

「まぁ言うじゃない? 人の恋路邪魔する奴はろくな死に方しないって」

馬に蹴られるのって相当痛そうですよね。死ぬほど痛いって言うか、当たり所が悪いと確実に死にますし。

「ま、解らないように手を下すのもアリじゃないですか?」

確実性が大事。後ろ暗いことがあるなら、相手の自業自得だし。

夜道で突発性の事故が起こる確率はゼロじゃないんだし。

「あかねちゃん、素敵っ」

「「「お前が一番物騒だよ」」」



「さて本題にもどって、と。

共通の友人の関係も壊れる可能性もなく。ただ、2人の関係が変わってしまう場合は、告白すべき?」

雅さんがおおかみさんに問いかける。

「すべきじゃない」

きっぱり断言した。いっそすがすがしい程の否定だ。

「過去の自分と決別することが出来るんなら賛成なんだがな。

それが出来るような状況じゃないのは明らかだ。過去の気持ちに引きずられて再燃しているような状態だ、そんなので長続きすると思うか?

そんなあやふやな気持ちだと。過去と今の違う点を見つけて、幻滅して、すぐに醒めきってしまうのは目に見えてる。告白すべきじゃない」

「その点は否めないわ」

可も不可もない、玉虫色の雅さんの答え。

「俺はそれでもすべきだと考えるな。

仮に、過去に引きずられてしまうとしても。お互い傷つくとしても。最後には酷い終わり方になるとしても。

それでもちゃんと向き合って、答えを出したんだから。結果的に過去の気持ちをふっきることは出来る。悔いは残らない。ただひたすら延々と迷い続けるよりは良いと思う」

スポーツマンらしい、前向きなちとせの答え。

時間がかかっても決してその気持ちから、逃げようとはしなかった。凄いと思う。

「逃げ回っていても何も得るものは無いよ。

何かを変えないといけないんなら。ぶつからないとダメじゃないかな。それで終わってしまうとしても。じゃないといつまで経っても後悔は終わらないよ」

逃げて逃げて、ごまかし続けて。それでも、向き合って終わらせたあやの答え。

対照的なプロセスを経ているけど結果は同じ答えだった。それが今の2人につながってる。

重みがある答えだった。

「それがあなたたちの答え?」

「ああ」

「はい」

「異論はない」

「ええ」

わたしも告白すべきだという点に異論も、覆りはない。

賛成3人に、反対1人、と結論が出た。


「それじゃ、初恋は明かすか。明かさざるか、の結論だけど」

目を閉じて、雅さんは深呼吸して言葉を紡いだ。


「それね? 相手が同性だったらどうする? 気持ちは言う? 言わない?」

お互いの意見がまとまったころになって、前提を覆された。

正直、困惑した。どうして今になるまでその要素を言わなかったの。

にこにこと、雅さんは心の底から楽しそうに、無邪気そうに微笑んだ。


某所で書いた作品です。一種の実験作でした。

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