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覚悟を決めたとでもいうような表情で、二人は順にそう言ってくれた。
そうして三人で顔を見合わせ頷き合うと、荷物を纏めて歩き出した。目的地は俺の家である。
「同級生の家に行くなんて初めてですし、なんだか緊張します」
堂本さんの言葉で気付く。
そう言えば、家に二人を連れてきたことはなかったんだ。そうして俺も、二人の家に行ったことがないんだな。
暮らしている家に行ってしまったら、何かが変わるような気も……するしさ。
「汚い家でごめんね」
一言告げるけれど、二人からは何も帰ってこない。
雑談をしているようなときじゃない。そういう意味の沈黙なのだろう。
「「お邪魔します」」
遠慮がちにそう言って俺の家に上がると、戸惑いながらも俺が促した場所に着席した。
一旦は机も退かして、三人が綺麗な三角形を作れるような形に座っている。どうしよう。
①話し出す ②雑談から ③待つ
ーここは③を選びますー
最初に声を発する勇気など持ち合わせていなく、少しの間は場に沈黙が広がっていた。
「ここで全てを話しましょう。遠慮はなしです。恥ずかしがるなんてことも、今更なしとしましょう。はっきりと恋慕の想いを、そして、嫌いならばそれもこの際はっきりさせてしまいましょう。嫌いな奴と一緒にいるのも、自分を嫌っている奴と一緒にいるのも、お互いに嫌でしょうから」
弱い俺に代わって、山内さんがそう言ってくれた。
ただやっぱり、傷付くよね。
好きと言われて悪い気はしないだろうけれど、友達だと思っていた人に、嫌いだと言われたらどうなるのだろうか。
確かにこれからも無理に愛想笑いをさせてしまうことを考えては、ここではっきりさせてしまった方が良いのかもしれない。
今こそ、覚悟を決めるときということだろう。どうしよう。
①信じる ②信じない ③信じられない
ー遂にここで①を選びますー
きっと二人は俺のことを信じてくれるだろうから、俺も二人のことを信じよう。
たとえそれで友情が壊れてしまったとしても、それならばその程度の友情ということだ。
適当なお付き合いではなく、本当に大切な友達が欲しい。運命と呼べる出会いを待っている。
友達がいないことの言い訳でしかなかったわけだが、俺はそう思っていた。
そしてこの二人こそがその運命と呼べる大切な友達なのだ、とも思ったのだ。
それが間違いではないということを、今ここで証明するだけだ。何も恐れることなどない。
俺は二人のことを信じているのだから。
「まず自分は、堂本さんのことが好きです。以前は、恋愛対象として堂本さんのことを見ておりました。修学旅行の時に声を掛けたのはその為であり、自分の精一杯の努力でありました」
二人の沈黙を見て、再び山内さんが最初に語り出してくれた。
本当に彼は強い人だと思う。
「しかし、今はそれが恋ではなかったことに気が付きました。ただ単純に、自分は堂本さんに魅力を感じていただけなのです。愛しいというよりは、憧れやファンとしての感情の方が正しいのではないでしょうか。そして今現在、堂本さんのことを友達として大切に思っております。ずっと隣に居たい、そう思っております」
しみじみと語る山内さんの表情は、とても複雑なものだった。
対して堂本さんは、安堵の表情を浮かべている。
山内さんの言葉に安心したのだろう。
友達として好きというのは、告白を断るときにも使われる言葉だけれど、この場合は素直に素敵な言葉だからね。
「じ、自分は〇〇さんのことが好きです。恋愛対象として、好きになってしまいました」
先程はそれほどの覚悟を要しなかったようでスラスラと言っていたが、今度は意を決したように、まだ見ぬボス部屋に突入する勇者のように山内さんは言った。
恋愛対象として、俺のことが好き、か。
本来ならばもっと驚くべきところなのだろうが、全てを話し全てを聞き入れるのだと、俺は覚悟を固めた。
山内さんを不要に傷付けない為に、表情は動かさないよう努めた。
「だけどこの恋を叶えたい、などとは一つも思いません。自分は彼が幸せに生きていく様を、友達として隣で見ていたいのです。何がなんでも、二人と友達でいたい。それだけです」
強がっているのが俺でもわかった。
涙を堪える姿を見ると、山内さんの言葉は本当なのだとわかる。どうしよう。
①やっぱ軽蔑する ②ちょっと怖い ③次に続く
ーここは③を選びましょうー
最初に山内さんが言ってくれたので、いくらか言いやすくなったことだろう。
次は俺の気持ちの全てを話すことにする。
「最初に言っておきたいのは、二人のことを大切に思っているということです。堂本さんのことも、山内さんのことも、心から大切な友達だと思い信頼しています」
その気持ちを最初に伝えてから、更に覚悟を固めて、俺は大きく息を吸った。
続く俺の言葉を二人は静かに待っていてくれる。
「堂本さんのこと。彼女のことは、友達だと思っていました。しかし、好きだと告白されて、俺もやっと認識しました。この気持ちが恋なんだ、って。本当は前から気が付いていたのかもしれませんが、俺はずっと逃げていた。でも今なら、逃げないで言える。俺は堂本さんのことが好きなんだ、異性として好きなんだ」
俺のことを好きだと一度告白されてから、俺もその気持ちを伝えるなんて。ちょっと卑怯だよね。
もうあちらがこちらを好いてくれていることがわかっているんだから。
いつも俺は一番最初に行動することが出来ない、臆病な男なんだ。
それがこんなところにまで出ちゃうんだから、情けないもんだよ。
「山内さんのこと。彼のことも、同じように友達だと思っていました。そして告白をされた今でも、やはり友達として大切に思います。山内さんの告白に応えることは出来ませんが、それでも、好きだという気持ちに偽りはありません。ずっと隣に居たいと思う、この気持ちは本物です」
そこまでなんとか言い切って顔を上げると、山内さんは涙を流していた。
堪えていた涙が溢れてきてしまったのだろう。どうしよう。
①拭ってあげる ②次へ促す ③俺も泣く
ーここは②を選ぶのですー
ここで山内さんの涙を拭ってあげたって、反対に彼を傷付けてしまうかもしれない。
それに、次は堂本さんの気持ちを聞かないといけないから、拭ってあげるとしてもその後だろう。
「最後はコノですね。正直に言わせて頂きますね。コノは聖さんのことが、あまり好みませんでした。その理由が今やっとわかって、もう聖さんのことも大切な友達として思えますけど。本当に申し訳ございません。しかし無意識のうちに、聖さんを恋のライバルとして捉えてしまっていたのかもしれませんね」
これってつまり、三角関係ってこと?
二人で俺を取り合っているって、そういうことなの?
男二人で女一人なのだから三角関係が出来ること自体はおかしくないのかもしれないけど、だったら取り合うのは堂本さんであるべきなんじゃないかな。それなのに俺なんだね。
まあそんなことを考えている場合ではなく、結構な状況だよね今これ。
「恋のライバル……? はは、そうですね。自分は堂本さんを好きだったはずなのに、いつしか恋のライバルとなっていたわけですか。しかし、その関係も今は終わりです」
好みませんでしたという言葉にショックを受けたようなところもあったが、最後の言葉を聞くと、山内さんは力なく笑った。
でも一通り、こんな感じってことだよね。
最終的に嫌いで嫌いでもう一緒にいたくない、なんてことはなかったから一安心だろう。
「お二人は異性として愛し合っているのでしょう? それでしたら、お二人は友達から、また一つ先の関係へと進めばいいではありませんか。自分は、そんなお二人の隣に居られればそれだけで幸せですから。それにお二人が恋人同士になってしまえば、お二人どちらの友達も自分だけとなりますし」
俺と堂本さんに気を遣ってくれているのか、山内さんはそう言ってくれた。
でも確かに俺と堂本さんが恋人になってしまえば、二人はもう友達じゃないということになる。そうしたら俺にとって山内さんは唯一の友達だし、堂本さんにとっても山内さんは唯一の友達だ。
ただ山内さんが悲しんでいないかと問われれば、俺は俯いてしまうだろう。どうしよう。
①彼女と恋人となりたい ②彼と恋人になりたい ③恋人にはなれない
ーこれはさすがに①を選んで下さいよー
一度断っておいてやっぱりなんて最低だってわかっているけど、わかってはいるけれど、俺は堂本さんが大好きだから。
「堂本さん、俺と付き合ってくれませんか」
彼女から好きだと聞いた後だというのに、改めて俺はそう告白をした。
お互いに好きだと言った後だというのに、改めて堂本さんは喜んでくれた。
「はい。ありがとうございます」




