yu
「ていやー! 今日は皆が大好き、遠足へ行くぜ!」
いつもよりも早めに先生が来たと思ったら、そんなわけのわからないことを言い出した。
遠足なんか行きたくない。突然何を言い出すのやら。そもそも、皆が大好きの意味がわからない。本当に大嫌いだ。
隣の堂本さんも、同じような表情を浮かべていた。
バスはとりあえず自然に堂本さんの隣に座ったのだが、その後に鬼みたいな試練が待ち構えていた。
別学年とペアを作れ。
ペアということは、一言なりともそのペアの人と会話を交わさざるを得ない。グループに放り込まれるのとはわけが違う。
それも別学年だなんて、初めましてのフルコースじゃないか。
ここまでの鬼企画、他にあるだろうか。どうしよう。
①下級生 ②同級生 ③上級生
ーえっと、①でいいのでしょうかー
上級生と組むくらいならば、下級生と組んだ方がまだましだろう。
それに一年生は入学したばかりで、別学年との接点などほぼないはず。そうしたら、俺と同じようにペアに困っている人だっているはずだ。
先輩に「ぼっちですか?」なんて話し掛けること出来ず、涙ながらに待っているんだろう。
「一人なんだったら、俺と一緒にペア組まない?」
確実にペアいないんだなこの人、って思った人に声を掛けてみた。
「あ、はい。お願いします」
そして俺は、名前も知らぬ男子生徒とペアを組むことに成功した。
ペア組みだって地獄だというのに、遠足の内容なんて山登りとかいうことを言っているんだ。地獄、地獄、地獄としか言いようがない。
知らない人とペア組んで、過酷な山を登る。
地獄だ。
しかし地獄だと思っていた遠足だけど、一つだけ俺にも収穫があった。
かなり驚いたことなのだが、ゲームだったというのだ。本物の山ではなく、ゲームだったというのだ。
あそこまでリアルにゲームで再現出来るなんて、普通に感心する。
全く違和感を覚えなかったもんね。この辺りに山なんてあったんだ、って思ったくらいだ。
「ペア、大丈夫でした? コノのペアは結構いい子でしたよ。これからも仲良くしたいな、って思うくらいです。相手はコノなんか嫌でしょうけど」
話を聞くと、堂本さんのペアは猫耳尻尾に語尾にゃの美少女だったらしい。
一年生にはそんなアニメのような猫系美少女がいるのか。と興味は持ったけれど、見つけたとしても話し掛けることなんて出来ないと、俺は仲良くなることを諦めた。
その美少女からしてみれば、変な男が話し掛けてきたというわけで、もう恐怖に襲われるだろうからね。
少しすると、再び地獄がやってくる。
ただでさえ学校なんて大嫌いなのに、学校行事なんかがあると更に嫌な気分になって仕方がない。
平和だと思っていた四月にも、あんな地獄があった。月一感覚で地獄に襲われるのか、とか思ってしまうよね。
今回訪れた行事は、もう遠足どころじゃない。
五月の学校行事、修学旅行。
ここでも当然のごとく、グループにはならなければならない。どうしよう。
①待つ ②誘う ③逃亡
ーここも①になるそうですー
待っていたら皆が俺を取り合うとか、そんなことを思っているわけじゃない。けれど、誘うことなんてやっぱり出来ない。
中には断るのが苦手な人だっているんだから、不用意に誘うのは良くない。
親しい人ならば逆に断りやすいかもしれないが、俺みたいな奴だと特に断りづらいんだろう。何せ俺は、嫌われてはいても虐められてはいないからね。
そして結果的に、物凄く空気が悪くなるんだよね。
だから誘う気にはなれないのだ。
基本的には仲良い人で集まっても、人数が足りなくてグループに出来ない。みたいな感じで誘ってくれる人を待っているのだ。
しょうがないからあれを誘おう、みたいな感じなのを待っているのだ。
「どうしますか? どんどんグループが出来ていくんですけど、コノたち、取り残されちゃっているんですけど」
堂本さんはこんなところも同じだったらしく、二人で待機していた。
幸いなのは、グループの人数が四~六人と幅広かったこと。
人数が足りなくて誘うということは、そこは二、三人だということ。
それだったら、二人同時に班へと招き入れることだって出来るのだ。俺と堂本さんは離れない。
仲良しの中に一人で入るという地獄よりは、堂本さんがいる分かなり楽になっていることだろう。
「すみません。山内聖と申します。自分を木葉さんと同じ班にはして頂けないでしょうか」
どうしようかと話していると、なんとそんな人がやってきたのだ。どうしよう。
①許可 ②却下 ③堂本さんに
ーここは③にしましょうー
彼は俺のことなんか視界にも入っていないようだし、堂本さんに任せるしかない。
「どうするんですか、堂本さん。お誘いですよ」
判断は彼女に委ねようとそう言うと、堂本さんは困ったような表情をした。
それが何を表しているのかはわからないけれど、あまり大歓迎はしていない様子に思える。
「コノなんかに、そのようなこと言って、御免なさい。山内さんがコノと同じ班になって下さるのなら、どうぞ御免なさい。同じ班に」
俺と話したときには案外自然と話してくれたんだけど、普段の堂本さんはこんな感じ、ってことなんだろうか。
喋っているが、定期的に御免なさいが入っている。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
選挙か! とツッコミたいところもあったけれど、山内さんが俺に向ける視線は本当に冷たいので、それをするわけにはいかなかった。
これで俺、堂本さん、山内さんと三人が集まったことになる。
あと一人でグループが完成する。
「同じグループになろう」
足りない人数をどうしようかと三人で困惑を浮かべていると、そう話し掛けてきた声があった。
どうやら三人でグループになれないらしい。だから三人と三人で融合して、六人グループとして申請しようというお誘いらしい。
相手が女子三人の班で少し気まずいところもあったけれど、そこは仕方がないのだろう。
断るわけにはいかず、六人グループをやむえず受け入れた。
「なんもないんじゃ、あたしたちが決めちゃうかんね!」
結構なグイグイ系の女子連中だったらしく、自由時間の計画を建てていってしまう。
しかしどうせ俺にも堂本さんも山内さんにも希望はないので、決めてくれるというのはいいのかもしれないけどね。
ただ行きたい場所が合わない気がする、ってのが難点だ。
この女子が行きたい場所と、俺たちが行きたい場所。絶対に違うじゃん。どうしよう。
①意見する ②任せる ③助けて堂本さん
ーここは②とするしかないのでしょうー
見知らぬ女子に話し掛ける勇気など俺にはなく、結局は任せることしか出来なかった。
それ以前に、沖縄なんていう南国が俺には合わないと思う。
中学の頃に行った京都は割と好きだったし、もう一度是非一人で行きたいと思う。一人で行きたいと思った。
けれど沖縄は行きたいとも思わないもの。
「決めて頂いてありがとうございました。何も調べていなくて御免なさい」
グループを決めてリーダーを決めて、計画を建てて。その時間が終わったときには、堂本さんがきちんとそう言ってくれた。
俺たちを代表してお礼と謝罪を申してくれるんだから、いい子にもほどがある。
しかし席に戻るや否や、堂本さんはこう言った。
「山内聖さん、でしたっけ? 彼は良いのです。しかしあの女子ども、辛い」
ここまではっきりと堂本さんが辛いと口にするなんて、珍しいことだ。
それほどまでに、あの人たちの相手は辛いことだったのだ。苦痛だったのだ。
お互い様だ、と言われてしまっては何も言えないんだけどね。どうしよう。
①俺も愚痴る ②愚痴を聞く ③笑う
ーここは③にしますー
疲れたように堂本さんが言ったから、俺はそれに笑って返した。
どんな答えを堂本さんが望んでいたのかはわからないけれど、少なくとも愚痴で返すよりは、笑顔で返した方がいいはずだから。
疲労は隠さないけれど、戸惑いは隠して俺は笑った。
「ありがとうございます。アナタは本当にお優しい」
聞き取るのがやっとというくらいの声で彼女はそう言って、彼女は教室から出て行ってしまった。どうしよう。
①追う ②食事 ③ゲーム
ーここは②ですー
昼休みなので、普通にお手製弁当を食べることにする。
去年はずっと一人だったくせに、ここ一か月くらい堂本さんと一緒に昼ご飯を食べていたので、寂しく感じられてしまう。
それでもここで堂本さんを追い掛けては、ストーカーになってしまうような気がして嫌だった。
友達、だから。友達で、いたいから。
「今日はお弁当を忘れてしまったので、購買で買ってきました」
一人で寂しく食事をしていると、堂本さんは普通に戻ってきてそう言った。
出ていくときの言葉が気になっただけで、ただ単に購買へ行ってきただけらしい。
追い掛けたりしなくてよかった。と、心から思う。




