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選択肢  作者: ひなた
庄堂珠希ルート
332/389

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 何が可笑しいのか疑問ではあるが、それを問い質せばたまきは更に俺のことを笑うだろう。

 だから俺は”気にしない”ことにして、たまきと一緒に先生へとペア申請を行った。色の付いたシールのようなものをジャージの左胸の辺りに貼り、目の前の山に向き直った。

 高い。頂点が見えないほどに、それは高い山だった。どうしよう。


①登る ②上る ③昇る


ー普通に①でいいでしょうー


 ずっとここで待っていても仕方がない。

 たまきは登る気満々みたいだし、この山に挑むしかないのだろう。

 どんな困難からも只管逃げ続けた俺。もしかしたら、二年の初めにチャレンジをすることで、これからは強い男になれるかもしれない。

 チャレンジ精神を大切にし、臆病者を抜け出せるかもしれない。

 そんな淡い期待も込めて、早歩き気味に山を登り始めた。

「本格的な山だにゃ。ほんと、よく出来ているにゃぁね」

 よく出来ている? たまきの言葉の意味がわからなかったが、やはり俺は”気にしない”ことにする。

 何事も気にしたらいけない。一々小さなことを気にしていたら、ストレスで狂ってしまう。狂ってしまい、更に友達作りが難しくなってしまう。

 逃げない。そう、俺は逃げないんだ。

 器の大きい男になる。海のように広い心を持った男になる。

 キャラクターを演じ切ってでも、俺は友達が欲しいから……。それほどまでに、俺は寂しくって、狂いそうだからキャラクターを演じて。

 それでも完璧には演じ切れなくて。

 ふと、前を歩く小さな少女を見た。

 じっと見つめていると、頭上の猫耳がピョコッと動いたような気がした。それはまるで、猫のように気ままな動きであり、それでいて計算し尽くされて、俺を嘲笑うかのような動き。

 いよいよ可笑しくなってるな。

 まさか、猫耳が動いただなんてありえるはずがない。

 そこまでしているんだとしたら、彼女のキャラクター作りが徹底し過ぎていて、中途半端な俺が辛く思えるから。中途半端な俺が、哀れに思えるから。

 どうせやるんだったら、これくらい頑張らないとだよな。

「ボーっとしているけど、大丈夫にゃ? 疲れたんなら休むにゃよ」

 感情を隠すのが尽く下手クソらしい。

 悩みや疲労が全て顔に出ているらしく、たまきは心配そうに問い掛けて来てくれる。

 優しくて、たまきだって本当は辛いはずなのに、そうやって言ってくれるんだ。後輩の女の子がこんなにも良い子で頑張っていて、俺がこんなでいいものか。

 たまきの疲労が少しも表情から読み取れないのが、悲しくて寂しくて辛くて。

 自分の観察力の低さが、恨めしいや。どうしよう。


①休む ②休む ③進む


ーこれは②を選ぶとしましょうかー


 折角彼女が気を遣ってそう言ってくれているので、俺はその言葉に甘えて休むことにする。

 それに、彼女だって疲れているに決まっているんだから。ほんの少しだって疲れなんかは見えないけれど、疲れているに決まっているんだから。

 たまきが疲れているだろうから休む。だなんて、そんな言い方はズルいよな。

 でも俺は、自分から休みたいなんて言わないたまきを休ませてあげたいから。

 疲れたなら休むよ? という言葉は、休ませてくれと言うメッセージなんじゃないか。ツンデレ語訳をすれば、そうだと思うから。

 そう思いたいから。

「うん、疲れちゃった。休ませて」

 まだ体力に余裕はあるけれど、そう言ってその場に座り込んだ。たまきも隣に可愛らしく座る。

 にやにやと笑って、なぜだか嬉しそうな顔をしている。

「にゃぁ、よく言えましたにゃ。先輩は、強いお方なんだにゃ? 自分から休ませて、なんて言えるんだからにゃ」

 あまりにたまきは優しいから、そんな風に言ってくれる。

 彼女の優しさに甘えることなんて、してはいけないんだって。彼女の優しさに甘えることしか、出来ないんだって。

 本当に情けない。

「どう思うにゃ? 周りに誰一人いない森の中、二人きりなんてにゃ」

 沈黙の気まずさからか、たまきはいやらしい声でそんなことを言って来た。

 そんな風にたまきを見ているとかではないのだが、そう誘惑されてしまうと多少は意識せざるを得ない。俺だって男なんだから、それくらいは許して欲しい。

 誘っておいて、俺がそれらしいことを言えばどうせ蔑むような冷たい視線を向けて来るんだろ?

 それはそれで萌えるが、基本的には進んでそんな視線を向けられたいと思うほど俺はドMじゃない。

 キャラクター上たまきだって仕方がないんだってわかってる。

 お仕事上嫌でもニコニコ笑ってくれるキャバクラのお姉ちゃんに対して、俺に気があるんじゃないか、と思っちゃうくらいそれは痛いことだってわかってる。

 ただ二次元の女子しか見て来なかった俺には、あまりに誘惑が大き過ぎるんだよ。どうしよう。


①乗る ②戸惑う ③笑う


ーここでも②を選ぶんだそうですよー


 ゲームならば、正しい選択肢を選ぶことが出来たのかもしれない。

 それでもリアルで優しさ振り撒きいい感じに女の子をメロメロにして。なんてそんなこと出来るほど、俺は素晴らしい男じゃなかった。

 そもそも、こんなことを言われたのは当然初めてなのだ。

 間違えたルートへ進みバッドエンドにしてしまっても、もう一度やり直すことが出来る。それもあって、ゲームでなら必ず最高のハッピーエンドまで辿り着ける。

 それでも、それでも無理なんだって。

 一度間違えたら取り返しのつかないことになってしまう。現実はそんなムリゲーだから、クソゲーだから。

 無理なんだって。

「動揺しちゃって、可愛い人だにゃぁ」

 クスクスと笑うたまきは、本当に勘違いしてしまいそうなほど可愛くて色っぽくて。

 戸惑うことしか出来ない俺を、彼女はどう見ているのだろうか。彼女の浮かべるその笑顔は、どんな感情を表しているんだろうか

 そればかりが気になってしまう。

 顔に出しやすい俺だから、あんまり気にし過ぎるのは良くない。そうは思っているんだけど。

「先輩、少しここでお話しましょうにゃ? 別にたまきは勝利に拘りを持ってないし、先輩だってそのはずにゃ。ならば、いいよにゃあ」

 確かに俺は勝利なんてものに興味ないし、学校行事で熱くなるような人は嫌いだ。

 だからって、こんなところでいつまでも二人きり、その状況に耐えられるとも思えない。どうしよう。


①おらは勝ちてぇっす ②そうだね


ーここでも②ですよー


 ただ、たまきから提案してくれているんだ。

 女子が一緒にお話しようって言ってるんだぜ? 断るわけがない。

 断れるわけがないんだ。

 俺にそこまでのスキルもなければ、俺はそんなことをしたいとも思わない。だって、だって女の子に話し掛けられることなんてないんだから。

「そうだね」

 長い言葉を返すことも出来ないので、一言そう返した。

 優しいたまきのおかげで最低限の会話が出来ているけれど、それ以上は出来やしない。相手が会わせてくれなければ会話にならない、俺のコミュ力はその程度。

 それでも反対に相手が合わせてくれれば、会話? 応答くらいならば出来る。

「先輩はどのようなジャンルのものを書いているんにゃ? パソコンしか使っていないから、漫画やイラストではなく小説なんでしょ? たまきと一緒にゃん」

 機器を取り入れてくれたので、漫画やイラストを書く際にもパソコンは使用する。紙に書きたい、そう主張して創作活動をする先輩が去年はいらっしゃったっけ。

 卒業していった先輩のことを想っていると、たまきが不思議そうな顔をして俺に問い掛けてきた。

「どうして答えられないのにゃ? たまきには教えられない、そういうことなのかにゃ」

 さすがに俺の考えていることを全て読めるわけではない様で、たまきは過去を見ている俺のことをそう思ったようだ。

 なんか、過去を見ているって表現カッコよくね?

 まあそんなことより、たまきが唇を尖らせている。不味い! どうしよう。


①肯定 ②否定 ③過去へ


ーここでもまた②を選ぶのだそうですー


「あっ、違うそういうわけじゃないよ。教えられないって、逆にどんなの書いてるんだよ俺」

 ぎこちないかもしれないが笑顔を浮かべ、必死に弁解をした。

 その表情に更なる怪しさを感じただろうが、それでもたまきは気付かない振りをしてくれた。きっと彼女なら気付いているだろうに、たまきというキャラクターを守る為に。

 不機嫌そうだった口は、可愛らしい微笑みを浮かべてくれている。

 それは作られたものであるだろうに、果てしなく自然な笑顔だった。

「んじゃ、教えて欲しいにゃ。それかいっそのこと、帰ってから読み合うってのはどうにゃん」

 たまきは提案してくるのだが、全くその通りだと俺は思う。

 わざわざここでジャンルを言い合うくらいなら、読み合えばいいだけだ。その方が面倒臭くもないし、推敲し合うことだって可能だろう。

 まだそこまでの長さを書けていないのだから、言うことはそんなにないかもしれないが。どうしよう。


①教える ②話し合う ③同意


ーこれは③を選びましょうー


 どうせ文化祭になると、図書室にお越し下さった全員にそれを晒すのだ。それなのに、わざわざ今たまきに隠す必要なんてないだろう。

 文章力に自信がなくジャンルについては話しても読ませるのは嫌だ。

 そんなような奴ならば、文芸部に入部することなんてないだろう。書きたいならひっそり書くだけだ。

「そうだね。そうしようか」

 これだと自分の意思を持っていない人のようにも思えるが、別に俺はそんなんじゃない。

 素直にたまきの意見と自分の意見が一致している為、同意の言葉を口にしているんだ。これは俺の意見。

「好きなゲーム小説アニメ等、教えて欲しいのにゃ。折角同じ部活に入ったんだから、たまきは先輩と仲良くなりたいにゃん」

 ぶらりと垂らされていた俺の右手を両手で包み込むと、たまきは可愛らしい瞳で見上げながらそんなことを言ってきた。

 可愛い。これは、可愛過ぎる。反則級に可愛い。どうしよう。


①好きなゲームを ②好きな小説を ③好きなアニメを ④教えない


ーここでは①を選びますよー


 一筋ではないので、好きな作品は沢山ある俺。

 ただしその中でも、一際大好きで迷わずに一番だと言える作品があるので、俺は好きな作品としてそれを言うことにした。

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