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料理を作った人には失礼かもしれないが、料理と言うほどの料理でもないので大丈夫だろう。
命を掛けて作った渾身の一杯、とか言うんだったら味わわなきゃ勿体ないし失礼だけどさ。
「あなたがわたくしを見て下さっている。あなたの視線を感じ、これほどまでに不味い料理も絶品と感じられましたわ」
俺の考えたことは失礼でも何でもないんじゃないか、と思うほどストレートに失礼な言葉を琴音さんは発する。
全く誰も気に留めていないようだが、この中に料理の大ファンと言う人がいたらどうするんだ。
だから俺だって、一応声には出さなかったって言うのにさ。どうしよう。
①注意 ②罵倒 ③お礼
ーこれは③でいいんじゃないでしょうかねー
しかしわざわざ琴音さんに言うほどのことでもない。
「ありがとうございます。俺も、琴音さんが視界に映っているだけで絶品料理に思えました」
そう思った俺は、普通にお礼を言った。
彼女のようにはっきりと不味いと口にした訳ではないが、これはこれでかなり失礼であろう。
どれほどまでに店に失礼なんだ、こんなんだからいまどきの若い子は。バカップルめ! 死ねリア充。
以前の俺がこの情景を見ていたとすれば、そう思っていたであろうな。もしかしたら、わざと聞こえるように呪いを掛けて来たかもしれない。
今まで妬んできた存在になれた、そう思えば悪い気はしないけどね。
「お待ちかね! 温泉へと向かいましょう」
俺と琴音さんが満腹と腹を叩いていると、お義母さんがそう声を掛けて来た。
まだ食事していても構わない時間だが、無理して食べるほど美味しい料理ではない。どうしよう。
①大浴場へ ②部屋の風呂へ ③まだ食べる
ーここでは①を選ぶんだそうですー
まず食事を続けると言うのは、失礼ながら断念させて頂くしかない。いくら食べても値段は変わらないのだから、出来る限り沢山食べたい。と思えるほどの味ですらないのだから。
部屋に温泉が付いていると言うのがこの旅館の売りなのだが、大浴場はまた別の魅力がある。
なんと、同じ湯と言う訳ではないんだそうな。
大浴場は時間が限られているが、部屋のお風呂はいつだって入れる。それならば、折角大浴場を使える時間に、部屋のお風呂を使う必要はない。
しかし、共有されている温泉だって一種類ではない。どうしよう。
①男湯 ②女湯 ③混浴
ーここでは③を選びますー
琴音さんと一緒にいたい。
他の男もいるかもしれないので、琴音さんのことは女湯へといかせようかとも思った。
それでも俺の中で、琴音さんと一緒にいたいと言う気持ちが勝ってしまったのだ。
気持ちのいい温泉。それを琴音さんと共に楽しめないなんて、そんなのは悲しいじゃないか。だから、さ。
「二人で混浴に行くんか? んじゃ、琴音のことはちゃんと守るんぞ? じじばばは別れるきに」
そんなお義父さんの言葉に力強く頷いて、俺は混浴風呂へと向かう。
混浴ではあるのだが、更衣室は別々だ。だから服脱いで体とか洗って、混浴のところで待ち合わせをと決めている。
琴音さんを待たせてはいけない。
そう思った俺は、大急ぎで待ち合わせ場所へと向かった。
「あら、遅かったんじゃありませんの」
しかしそこにもう琴音さんはいた。どんな方法で洗ったら、それだけの速さになるのか謎である。
薄いタオルで一応隠してはいるが、大きなおっぱいは隠れ切れていない。それに、後ろから見れば美しいお尻が見えてしまうのだ。
混浴風呂に入る人は、人に全裸を見せることになんの抵抗もない。
そう思っているのか、男湯から覗くことが可能な作りとなっていた。因みに、こちらからだと女湯はおろか男湯すら見ることが出来ない。
本当に、混浴風呂に入る人をなんだと思っているのか。
「早く入りますよ。全ての男が琴音さんの美貌の虜になっています」
男共め、サービスタイムはこれで終わりさ。
温泉は濁り湯となっていて、かなりの至近距離でなければ見えることはない。それは、混浴風呂入浴者に対するせめてもの気遣いと捉えていいのだろうか。
それとも、俺の考え方が捻くれているだけだろうか。
「そうですわね。皆、鼻の舌を伸ばしてわたくしに見惚れていらっしゃいますわ。それに、女性は女湯からこっそりあなたのことをご覧になられておりますわ。美しいと言うのも罪ですわね」
恥ずかしげもなくそう言うと、琴音さんは綺麗な生足を晒しながら、ゆっくりと湯に浸かっていった。どうしよう。
①隣で微笑む ②セクハラ ③男湯帰還
ーなんと! ここでは②を選ぶんだそうですー
当然の如く、俺は琴音さんの隣に入る。
そして周りから見えないのをいいことに、そっと琴音さんの体に指を這わせる。
「何をなさいますの? 珍しく大胆ですこと」
最初驚いたような顔をした琴音さんだが、何をしても幸せそうに笑うだけとなってしまった。どこを触っても全く反応してくれないので、人形と遊んでいるみたいで面白くない。
勿論、賢い琴音さんはそれを狙っていたんだろうけどね。
ただそれはそれで、どこまで表情を崩さずにいられるか、と別の遊びが出来るからいい。
色っぽい声を出されると、それが周りにまで聞こえて茶色のような濁り湯が白濁してしまう。だから俺としてもこちらの方が良い。
「余所見はしないで下さいまし? わたくしだけを見てくれなきゃ、嫌ですわよ」
一瞬外の景色を見ただけなのだが、琴音さんにそう指摘されてしまう。
そんな様子を見る限り、まだまだ余裕と言ったところであろう。彼女の感じ易いところは完璧に把握している筈なのに、本当に琴音さんは強敵だ。
結局最終的には、俺が弄ばれて終わるだけとなってしまった。
ナイスバディをタオルで隠しているつもりだろうが、濡れている為ピタッとくっ付いていて、全くもって隠れていない。丸見えだ。
それを指摘する訳にもいかず、俺は急いで女湯の方へと行かせる。
そして大急ぎで体を拭いて服を着て行ったのだが、やはり琴音さんを待たせることとなってしまった。
謎のスピードである。
「寝るにはまだまだ早いですし、ここらでちょいとトランプなんていかがですの? それほどまでに健全な遊び、中々なさらないでしょう」
部屋の戻ると、琴音さんはそんな提案をしてきた。
因みに、お義父さんはまだだがお義母さんがいた為部屋の鍵は開いている。どうしよう。
①同意 ②却下 ③任せる
ーここでは①を選ばせて頂きますー
確かにカードゲームと言う原始的な遊びはもうあまりしない。
ただ、健全な遊びと言う言い方は止めて欲しい。俺がいつも不健全な遊びを繰り返しているかのように聞こえるじゃないか。
否定するのも面倒だから別にいいけどね。
「そうですね。トランプで何をするんですか?」
これと言ってやりたいゲームなどなかったので、その選択は琴音さんに委ねた。
すると、実に不思議な事件が起こった。
初めに健全な遊び代表かのように琴音さんは言っていた。それなのに、トランプすらも不健全極まりない遊びと化してしまったのだ。
下ネタのオンパレード。って感じだね。
何をしたのかは聞かないでおいて欲しい。
「夜も遅いし、もう寝るべ。温泉で疲れは癒えただろうが、早めに就寝することで仕上げみてぇなよ」
十時くらいになると、お義父さんがそう言った。
早めと言うよりも、かなりの勢いで早過ぎると思う。
規則正しい生活を夢見て、十一時に就寝するよう努めてきた。俺にとっては、十一字が早寝だったのだ。
十時だなんてとんでもない。どうしよう。
①まだ起きてる ②まだ起こしとく ③寝る
ー散々言っておいて③を選びますー
三人がもう寝ると言うので、俺も布団に入る。
しかし暫くは眠れない。んじゃないかと予想していたが、気付かないうちに寝ていたらしく外は明るくなっていた。
お義父さんとお義母さんはもう起きているが、琴音さんは隣でぐっすりである。
可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。どうしよう。
①悪戯 ②写メ ③悪戯
ー僕が恥ずかしいので②くらいにしておいて下さいー
色々起きているときだと出来ないことをしてやろうと思った。
正々堂々戦わないなんて情けない。だから俺は、自分の衝動を抑えて悪戯することは止めておいたんだけどね。
ただこの可愛さは瞳を閉じれば瞼に映るほど脳に焼き付けたとはいえ、それだけでは足りない。
だから「失礼します」と一言挨拶してから、写メを取って待ち受けの画像に設定させて貰った。
普通に犯罪なのだが、優しい琴音さんは許してくれると信じている。それにここまで無防備な姿で誘惑してくる彼女の方が悪い。
うん、俺は悪くない。
「……おはよぅごじゃいます」
少し寝惚けているようで、目を擦りながらそう言う琴音さんは可愛過ぎた。眠っている琴音さんも可愛らしいけれど、寝起きの琴音さんも最高に可愛らしい。
うっとりと見惚れていると、顔を洗った琴音さんが戻って来て一発蹴りを加えてくれる。
「あぁん」
実に弱々しい声を出して我に返る。
寝惚けた琴音さんはもういなくなってしまったようだが、いつもの愛おしい琴音さんが前に立っている。




