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選択肢  作者: ひなた
赤羽琴音ルート
312/389

PA

「申し訳ございませんね。わたくしの家来が失礼なことをなさったそうじゃありませんの」

 その日、八百屋赤羽に行くと琴音さんにそう言われた。昼休みの大男のことだろう。

 なんだか最近、琴音さんの出勤率が高いような気がする。

「ただ、美海さんと行動を共にしていたと言うのは聞き流せませんわね。わたくしを捨て、美海さんを選ぶと仰いますの?」

 少し不機嫌そうに、琴音さんは言って来た。

 しかしそんなこと言われても、それは仕方がないだろう。

 だって天沢先輩は以外に趣味が合ったんだから。

 ゲーム好き。これだけでも結構なのに、同じゲームが好きだったりしたんだ。つまり、好きなゲームのタイプも似ていると言うこと。お互い、情報収集にもぴったりだろう。

 それだったら、一緒に会話することが増えるのも必須ではないだろうか。

 琴音さんも、意外に趣味が合うとかならともかく。今のところは、俺とは遥か遠くのリア充としか思えないのだから話し辛い。

「お父様もあなたならばこの店を譲ってもいいと仰いましたの。お父様から話を聞く度に、会ってみたいなってずっと思っていましたのに! いざ会ってみてやっぱり素敵だなって思って、勇気を出してでもあなたは美海派で。絶対、絶対に許しませんわ。わたくしの虜にして差し上げましてよ」

 そう言う琴音さんの表情は、唇を噛み締め瞳に涙を溜めていた。

 これってもしかしてだけど、告白とかなんとか? むしろプロポーズとかなんとかだろうか。

 しかし琴音さんほどの方が、なぜ俺なんかに。どうしよう。


①告白 ②美海ラブ ③泣く


ーここで選ぶのは③だそうですねー


 突然、悔しそうにしていた琴音さんの表情が驚きに変わった。

「どうして、あなたは泣いておりますの? 訳がわかりませんわ」

 最初は琴音さんが言っている意味がわからなかった。

 だけど触れてみて、自分の頬が濡れていることに気付く。俺は泣いていたのだ。

 よくわからないけれど、涙が溢れていた。男のくせに、情けないよな。

「会ってみたいとか素敵だとか、それは俺に対しての言葉なのでしょうか」

 問い掛けてみるけれど、やはり俺の声は震えていた。どうして俺が泣いているんだよ、どうして俺は泣いているんだよ。

 その様子に、琴音さんは微笑んでくれた。

 もしかしたら、俺を笑っているのかもしれない。それでも、笑顔が見れるなら構わなかった。

「当然ではございませんの。初めてですわ! このわたくしに失恋させるとは、いい度胸をしていますわよね! 初めてでしたのに、こんな想い」

 微笑みながらも、琴音さんはそんなことを言い出した。

 失恋? 俺にそう言う、つまり俺に恋をしていたと言うこと。

「何言ってるんですか!」

 しかし俺が琴音さんを振ったみたいに言うことは止めて欲しい。

 気付くと、俺は琴音さんを怒鳴りつけていた。彼女の言うことはあまりにも不快で、どこ情報かわからないそんな情報……。

 それを信じている琴音さんに少し失望し、俺は叫んでいた。どうしよう。


①告白 ②美海ラブ ③泣く


ー今度こそ①を選びましょうかー


「俺は、琴音さんのことが好きです」

 ずっと胸の奥で眠っていた想いが込み上げて来て、遂に口から零れていた。

 驚愕の表情、その後琴音さんは美しい顔を歪ませた。ぽろぽろと涙を零すけれど、その姿もまた美しかった。

 こんな美しい人が、俺なんかに興味を抱くとは思えなかった。

 もっといい男と沢山出会っているのだから、俺なんかは視界にも入れないと思っていた。

 だから遠くから眺めているだけにしたんだ。友達でなんかいられない、近くにいれば愛しくなっちゃうのがわかっていたから。

「それじゃあ、美海さんとは遊びだって言いますの? そんな男、信じられる筈……ないじゃありませんか」

 涙を拭いて、琴音さんはそう問い掛けて来た。

 しかしそもそも、天沢先輩とは主従関係を結んでいる。友達と言うか、ご主人様と言うか。そんな存在である。

 少なくとも恋愛対象ではなく、同志と感じている。それはあちらも同じだろう。

 琴音さんが俺のことを想ってくれていた、それだけでも奇跡に等しい。

 ありえない。天沢先輩ほどの美女が、俺のことを恋愛対象として捉えるなんてありえない。

 だから俺もそう考えないことにして、ゲームの情報交換に徹したのだから。

「何、そんな表情しないで下さいまし? まるで本当に何もないようにするんですから、演技力に優れた困ったお方ですわね。これ以上わたくしを惑わさないで下さるかしら」

 天性のぶりっ子。そんな感じのことを、以前天沢先輩にも言われた。

 演技力と言うのは、それと同じことを指しているのではないだろうか。自分では気が付かないのだが、二人に言われるのではそうなのだろう。

「わたくしも、あなたのことが好きですわ。お付き合い、させて下さいな」

 先程から告白らしきことは言われていた。しかし改めてはっきりと言われると、やはり俺も驚いてしまう。

 あまりの驚愕に、手に持っていた鞄を下に落としてしまった。どうしよう。


①肯定 ②否定 ③死


ーここでは③を選ぶんだそうですよー


 嬉しさのあまり、俺は意識が遠退いてしまった。

 心配そうにする琴音さんの声が聞こえる。その声は心地好く、俺を更なる幸せへと誘ってくれる。

 このまま死んでも悔いはない。琴音さんの腕の中で死ねるのなら男の本望、そう思ってしまったくらいの幸せ。

 恐らく、ニヤニヤ笑って気持ちが悪かったことだろう。

「琴音の美貌にやられたな」

 目を覚ますと、俺は畳の上に寝かされていた。目の前にはおっちゃんがいる。

「どうだ? 今日は泊まって行くか」

 意識がまだ朦朧としていた。

 しかしおっちゃんの言葉に、俺は驚いて飛び退いた。どうしよう。


①はい ②い、いいえ!


ーこれなら②なのではないでしょうかー


 琴音さんと同じ屋根の下。無理無理無理、興奮して何かしちゃうよ。

 幸い他の生徒は琴音さんの家を知らないらしい。

 それならば泊まったと言うことはばれないかもしれない。だけど、かなり問題行為だな。

「い、いいえ!」

 慌てておっちゃんの言葉を否定する。

 若い男女が同じ屋根の元一晩過ごし、何もない訳がない。何もしないつもりではあるけれど、何もない筈がないじゃないか。

 俺だって、それくらいの欲はある。

「随分全力で否定してくれるな。そんなにうちが嫌か? いずれはここに住むんだし、今から慣れといてもいいだろうよ。店を継がせられるのはお前くらいなんだからさ」

 お、おっちゃんは何を言っているのだろうか。俺には全く理解が出来なかった。

 いずれは住む? 店を継ぐ? この人は俺をなんだと思っているのだろか。

「目を覚ましましたのね? お父様、また可笑しなことを仰ったのでしょう。ここはわたくしに任せて、店の方へ行って下さいまし」

 障子が開かれ、琴音さんがやって来た。

 店のエプロンを付けていないから、店の方から来たと言う訳ではないのだろう。それか、真面目だからわざわざ外してきたか。

「はいよっ! そんじゃ、二人で存分にいちゃついてくれ。邪魔者は行くからさ」

 琴音さんの言葉に頷いて、おっちゃんは去って行く。障子に映る影が見えなくなるまで、琴音さんはその方向を睨み付けていた。

 そして完全におっちゃんが去ったことを確認すると、俺の方を向いて柔らかな笑みを浮かべた。

「ご迷惑をお掛け致しましたわね。まさか、気絶なさるとは思いませんでしたわ」

 優しいから、優しく琴音さんは言ってくれる。本当に優しい人。

 ほんとは俺が言うべき言葉なのに。だから俺は、その言葉をそっくりそのまま返す。

「ご迷惑をお掛け致しました。まさか、気絶するなんて思っていませんでした」

 土下座してそう言うと、クスクスと言う上品な笑い声が聞こえてくる。

 笑っていると言うことは、許して下さると言う意味でいいのだろうか。本当に優しい人だ。

「迷惑だなんて、とんでもありませんわ。愛しい人が倒れていますことよ? 意識がないのなら、何をしてもばれませんもの。誰がその状況を嫌に思いますかしら」

 そう言われて、俺はぎくりとした。そう言えば、俺は琴音さんの腕の中で意識を失ってしまったんだ。

 俄かには信じがたいのだが、琴音さんは俺のことが好きだと言っている。

 彼女も人間。俺と同じ感覚を持っているのならば、我慢が出来なくなっても可笑しくない。

「あなたはもうわたくしのもの。絶対に解けない魔法を掛けて差し上げましたの」

 驚いて頭を上げると、琴音さんは俺の唇を綺麗な人差し指でなぞる。

 そして、あろうことか俺の唇に美しい唇を重ねたのだ。どうしよう。


①抵抗 ②もっと ③死


ーここでは③を選んでしまいますー


 その温もりに、俺は興奮を隠せない。そしてまた意識が遠退いて行ってしまう。

 これが二次元に生きて来たものの罪。逆らえない運命なのか……。

「ちょっ、大丈夫ですの?」

 幸せな温もりが離れて行き、心配そうな声が聞こえてくる。

 琴音さんが肩を力強く揺らし、俺は意識をなんとか取り戻す。しかしなんということをし出すんだか。

「益々欲しくなってしまいますわね。この程度の気絶しようとなさるんですもの。それすら出来ないほどの快感を与え、達して頂きたいところですわ」

 何を仰っておられるのだろうか。琴音さんの言葉が理解出来なかった、理解したくなかった。

 それが琴音さんの口から出た言葉だなんて、信じたくなかった。まあ、彼女だって人間なのだから仕方がないだろう。

 いつものお上品に疲れたのだろうか。

 それならば、ここでくらいは俺が息抜きさせてあげよう。そう考えることで、まだ耐えることが出来たが。

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